概要
アミロイドーシスとは、一部のタンパク質が正常に折りたたまれずアミロイドと呼ばれる異常な線維を形成し、心臓、肺、肝臓、脾臓、胃・腸、腎臓などの様々な臓器に沈着して、臓器の機能障害を引き起こす病気のことです。原因となるタンパク質の種類は30種以上見つかっており、アミロイドの種類によって沈着する臓器が違い、病気の症状も異なります。これらのうち、特に心臓にアミロイドが沈着し、心臓の機能を障害する病態を「心アミロイドーシス」といいます。
心アミロイドーシスを来す病型は、免疫グロブリン性アミロイドーシス(ALアミロイドーシス)、遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシス(ATTRvアミロイドーシス)(旧病名:家族性アミロイドポリニューロパチー)および野生型トランスサイレチンアミロイドーシス(ATTRwtアミロイドーシス)(旧病名:老人性アミロイドーシス)の主に3種類があります(表1)。
表1.心アミロイドーシスの分類
前駆蛋白 | 基礎疾患 | 障害臓器 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
心臓 | 腎臓 | 肝臓 | 末梢神経 | その他 | |||
AL | 免疫グロブリン | 形質細胞異常 | +++ | +++ | ++ | +(+) | 軟部組織、消化管 |
ATTRwt | 野生型TTR | 加齢 | +++ | + | - | + | 手根管症候群 |
ATTRv | 変異型TTR | TTR遺伝子変異 | ++ | + | - | +++ (+++) | 消化管、眼 |
症状
心アミロイドーシスでは、アミロイドの沈着により心室の壁が厚くなり固くなることで拡張する力が低下し、病状が進行するとさらに収縮する力も落ちます。その結果、治療が困難な重症の心不全となります。また、刺激伝導系(しげきでんどうけい)にアミロイドがたまることもあり、脈拍が途絶えるブロックや様々な不整脈が起こります(表2)。
心アミロイドーシスについても沈着するアミロイドの種類によって臨床像や予後(病気の見通し)が違います。一般的にALアミロイドーシスの方が病気の進行が速く、重症化します。しかし、ATTRの予後も決して良くなく、心不全の発症から3.5年と報告されています。ただし、予後は診断時の病気の進み具合や治療によって、患者さんごとに異なりますので一概には言えません。
表2.アミロイドーシスの症状
障害される臓器 | 症状 |
---|---|
心筋細胞 | 心臓拡張障害(しんぞうかくちょうしょうがい)、収縮障害(しゅうしゅくしょうがい)、 |
心臓刺激伝導系 | 房室ブロック(ぼうしつぶろっく)、不整脈(ふせいみゃく) |
消化器 | 繰り返す便秘と下痢 |
腱・靱帯 | 手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)、脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)など |
神経 | 末梢神経障害(まっしょうしんけいしょうがい)、起立性低血圧(きりつせいていけつあつ) |
肝臓・脾臓 | 肝腫大(かんしゅだい)、脾腫(ひしゅ) |
診断
症状の確認
心アミロイドーシスの心症状に特別なものは少ないので、表2にあるアミロイドーシスと関連がある心臓以外の症状をきっかけに病気を疑うことがよくあります。特に手根管症候群は、心アミロイドーシスの心症状よりも早く認めるため、早期診断の重要なサインになります。ご高齢の男性で両手にしびれ(特に親指、人差し指、中指にかけて)がある場合、アミロイドーシスが隠れている可能性が疑われます。
胸部レントゲン像
心拡大がみられる場合もあります。また、心不全を呈する患者さんでは、心拡大、肺うっ血、胸水がみられます。
採血検査
ALアミロイドーシスでは、しばしば血液中あるいは尿中に単一の免疫グロブリンが異常に増えている様子(M蛋白)がみられます。最近では、血中の免疫グロブリン遊離軽鎖の量を直接測れるようにもなり、診断に役立っています。この免疫グロブリン遊離軽鎖は、心筋トロポニンやNT-proBNPと組みあわせて調べることで、患者さんの重症度を推測することにも使われます。
心電図
心電図検査では様々な異常がみられます。心臓が肥大しているのに心電図では高電位を示さない場合、アミロイドーシスが疑われます。アミロイドが沈着する場所によっては、洞不全症候群や房室ブロックなど電気の流れを傷害したり、脳梗塞の原因となる心房細動という不整脈を起こしたりします。非常に危険な心室性不整脈がみられることもあり、突然死の原因となります。
心エコー検査
心エコー検査では、左心室の壁が厚くなる左室肥大を認めます。心肥大はこの病気を疑う重要な手がかりです。左室に限らず、右室や心房中隔、弁も厚くなります(図1A)。大動脈弁が狭くなる大動脈弁狭窄症を合併するケースも意外に多いです。
左室流入血流のドップラーエコーでは、左室の拡がりが悪くなる拡張障害(かくちょうしょうがい)がみられ、心房も大きくなります。心アミロイドーシスは、特殊な解析を行うと、心臓の先端の動きだけが良いまま保たれるという特徴(アピカルスペアリング)があるため、診断の助けとなります (図1B)。
図1.心アミロイドーシスの心エコーとストレイン解析の一例
心臓MRI、99mTc PYPシンチ
心臓MRI検査は心臓の組織の性質を調べるのに大変役立つ検査です。左室内膜下のびまん性遅延造影やnative T1, ECVの異常値などが心アミロイドーシスに特徴的な所見で、診断の助けになります。
また、アイソトープ検査の99mTc PYPシンチグラフィーを行うことで、ATTRアミロイドーシスの診断ができるようになりました(図2)。本検査は現在、診断基準の一項目となっており、病理検査をしなくても一定の条件が揃えばこの検査の陽性所見をもって診断を確定してよいとされています。このPYPシンチグラフィーの登場により、ATTRアミロイドーシスと診断される患者さんが急増しており、これまで診断されずに診療されていた方が非常に数多くいることが明らかになってきています。高血圧で説明がつかない心肥大、左室の収縮機能が保たれている心不全、大動脈弁狭窄症、高齢で診断された肥大型心筋症などの患者さんの中にこの病気が含まれていることが指摘されています。
図2.心アミロイドーシスの99mTc PYPシンチグラフィーの陽性像
心筋生検
アミロイドーシスの診断には、体の組織をほんの少し採取する「生検(せいけん)」を行い、顕微鏡でアミロイドを観察する病理検査が必要です。アミロイドーシスは全身にアミロイドが沈着する病気のため、他の臓器の生検でアミロイドが確認できれば、心臓の生検を行わずとも心アミロイドーシスと診断することが可能です。例えば、お腹の脂肪組織を針で生検する方法は体の負担が少ないので推奨されています。しかし、他臓器の生検では検出率が低いため、結局、心アミロイドーシスでは心臓から心臓カテーテルを使って組織を採取する「心筋生検」が必要なことも多いです。
心筋生検のヘマトキシリン・エオジン(HE)染色では、心アミロイドーシスの場合、心筋細胞が無構造な線維として置き換わっていることが分かります。コンゴレッド(Congo red)染色では、赤褐色の染色像を確認できます。アミロイドは偏光顕微鏡下でアップルグリーンと呼ばれる緑色の複屈折を示し、本症に特徴的です。アミロイドの原因となる蛋白質の種類も、生検した組織に免疫染色を行うことで判定できます(図3)。
図3.心アミロイドーシスの病理像
(左上:ヘマトキシリン・エオジン染色、右上:コンゴレッド染色、左下:TTR抗体を用いた免疫染色、右下:偏光顕微鏡観察による複屈折(アップルグリーン))
治療
心アミロイドーシスの治療には、「心不全に対する治療」と「病気そのものに対する治療」の2つの柱があります(表3)。
心不全に対しては、利尿剤を中心とした治療が行われます。心アミロイドーシスの患者さんは、血圧が低く脈が遅くなる傾向がありますので、心不全の治療薬としてよく使われるβ遮断薬やACE阻害薬、アンギオテンシンll受容体拮抗薬の投与は慎重に行わなければいけません。心電図で、洞不全や房室ブロックを呈する場合は「恒久的ペースメーカー」の植込みを行うこともあります。また、心アミロイドーシスは脳梗塞を起こしやすい病気ですので、適切なタイミングで血をサラサラにする抗凝固薬の治療を行うことも重要です。
近年、アミロイドーシスに対する新たな治療薬が開発され使用できるようになっています。
ALアミロイドーシスでは、アミロイドのもととなる異常な免疫グロブリンを作る免疫細胞を退治する必要がありますので、治療方法は抗がん剤による化学療法と造血幹細胞移植になります。化学療法は、MD(メルファラン+デキサメタゾン)療法があり、外来通院で継続可能です。MD療法は、血中M蛋白を減少させるだけではなく、沈着したアミロイドを減らし、臓器障害の改善や生存期間の延長が期待されます。臨床試験の成果をもとに、プロテアソーム阻害剤や抗CD38モノクローナル抗体といった最新の治療薬もこの病気に使用できるようになりました。AL心アミロイドーシスは非常に進行が速く、重症の心不全を引き起こし、未治療では余命が1年未満とされる重篤な病気です。しかし、適切な治療を行うことで改善を期待できる病気でもあります。私たちは、「心肥大は心アミロイドーシスを疑う第一歩」と考え、この病気を正確に速く診断することを目指しています。
遺伝性のATTRvアミロイドーシスに対しては、肝臓移植が唯一の治療手段でした。しかし、現在ではトランスサイレチン四量体安定化薬(内服薬)や核酸医薬siRNA(点滴薬)が使用できるようになり、治療が劇的に変化しています。また、これまで一切治療手段のなかった加齢性のATTRwt心アミロイドーシスについても今ではトランスサイレチン安定化薬が使用可能となっています。これらの治療薬は、いずれも病気の進行を抑える、あるいはわずかに改善することを目的としたお薬で、病気の治癒を目指すものではありません。今後、さらに蓄積したアミロイドを減少させるお薬の開発も期待されています。
表3.心アミロイドーシス(原発性)の治療法
症状 | 治療方法 |
---|---|
【原因治療】 | |
ALアミロイドーシス | 自家造血幹細胞移植、化学療法(MD療法(メルファラン+デキサメタゾン)、プロテアソーム阻害薬(ボルテゾミブ)、抗CD38モノクローナル抗体(ダラツムマブ)など |
遺伝性ATTRアミロイドーシス | 肝移植、トランスサイレチン安定化薬タファミジス、siRNA製剤パチシラン |
野生型ATTRアミロイドーシス | トランスサイレチン安定化薬タファミジス |
【対症療法】 | |
心不全 | 利尿剤が中心、抗凝固療法 |
洞不全、房室ブロック | 恒久的ペースメーカー |
生活上の注意
心アミロイドーシスにおける日常生活の注意点は、他の心不全患者さんと大きく異なりません。すなわち、塩分を控えたり、過度な運動を避けたり、感染の予防をすることが重要です。
慶應義塾大学病院での取り組み
心アミロイドーシスのご相談については、お気軽に慶應義塾大学病院循環器内科外来へご連絡ください。当院では、心臓エコー検査、心臓MRI検査、アイソトープ検査や心臓カテーテルによる心筋生検を行なっております。
病理診断については、厚労省アミロイドーシス研究班の分担研究施設として、正確な診断ができる体制が整備されています。
当施設は、トランスサイレチン心アミロイドーシスに対するタファミジス処方導入の認定施設です。循環器内科講師の遠藤仁が認定医師として専門外来を開設しています。
アミロイドーシスは全身病であるため、血液内科、神経内科、腎臓内科、消化器内科などのほかの内科や整形外科とも綿密に連携を取りながら、診断および治療を進めてゆきます。
さらに詳しく知りたい方へ
- 難病情報センター
全身性アミロイドーシス(最新版)が閲覧できます。 - 最新アミロイドーシスのすべて : 診療ガイドライン2017とQ&A / 植田光晴編集
東京 : 医歯薬出版, 2017.3
文責:
循環器内科
最終更新日:2021年9月2日