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結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa: PAN)

けっせつせいたはつどうみゃくえん

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概要

結節性多発動脈炎は、血管炎症候群を構成する疾患の一つです。各内臓臓器に向かう動脈やその分枝レベルの小~中等度の太さの筋壁を有する動脈(直径約50~150μm)に炎症が起こり、それにより動脈の壁が破壊されたり内腔が狭くなることで、血流の障害や時に動脈瘤が生じる疾患で、かつ毛細血管には炎症がみられないものと定義されます。なお、進行した症例では動脈に沿ってボコボコと隆起状に腫れることから昔は結節性動脈周囲炎と呼ばれていましたが、現在では、全身に多発する病気の特性を反映させるため、結節性多発動脈炎と呼び名が変更されました。原因は分かっていませんが、血管炎の組織には多くの免疫を担当する細胞が見られること、ステロイドや免疫抑制薬などによる免疫抑制療法が効果を示すことが多いことなどから、免疫異常が関与していると考えられています。また、一部にB型肝炎ウイルス感染後に発症する結節性多発動脈炎がありますが、日本ではまれであるといわれています。ほかにも、有毛細胞白血病に関連した結節性多発動脈炎も報告されています。

厚生労働省では、原因が分かっていない難病とされるいくつかの病気について、国の事業として年1回調査をし、医療費の補助を行っています。そのような調査の対象になっている病気のことを「特定疾患」と呼んでおり、本疾患は特定疾患に指定されています。平成26年度の特定疾患の調査では、結節性多発動脈炎と顕微鏡的多発血管炎を合わせた推定患者数は12,057人(このうち結節性多発動脈炎は1/20程度)と報告されており、関節リウマチが推定70万人であることを考えると、まれな病気といえます。日本では男女比は約3:1で男性に多く、平均発症年齢は55歳前後です。

症状

全身の小~中等度の太さの筋型動脈が炎症により血流障害を起こすため、全身にわたる様々な症状が出現するのが特徴です。例えば、消化管へ流れる血管に障害が起こると嘔吐・腹痛・血便などがみられ、腸に穴が開くこともあります。ほかにも、皮膚、神経、腎臓、心臓などに血流障害に基づく症状が生じることがあります。以下に、各症状について詳しく述べていきます。

(1)全身症状

悪寒や体の震えを伴うことの少ない持続する38℃以上の発熱や、発熱の時期に一致して体重減少もみられます。また、全身の炎症に伴う倦怠感、頭痛、関節痛や筋肉痛・筋力低下などが見られたりします。ただし、関節痛では関節の破壊や変形は伴わず、筋肉痛・筋力低下では血清クレアチニンキナーゼ(CK)値の上昇はあまりありません。

(2)皮膚

四肢、特に下腿に網状の暗赤色の皮疹や、押すと痛い結節状の紅斑、皮膚潰瘍、手足の指の壊死などがあります。皮膚症状は高い頻度でみられますが、結節性多発動脈炎のみならず、ほかの膠原病でもみられることがあります。皮膚のみに血管炎が限局する皮膚型の結節性多発動脈炎というタイプも存在し、通常の結節性多発動脈炎よりも予後(病気の見通し)は良好とされています。

(3)消化管

十二指腸・小腸・大腸へ向かう動脈に炎症が起こり、血流障害が生じると、初期症状として食後に顕著な臍周囲の腹痛(腸管アンギーナ)がみられます。進行すると腸管に穴が開くこと(腸管穿孔)があります。ほかにも、腸管の出血による血便・下血、吐き気や嘔吐などがみられることがあります。また、時に胆嚢や虫垂に炎症が及ぶことがあり、胆嚢炎や虫垂炎に似た腹部の症状で気づかれることもあります。まれに、肝臓や膵臓の梗塞が併発することもあります。

(4)神経

神経に血流を送る動脈に炎症が生じ、血流障害が起こると、まず手足のピリピリと痛むしびれといった末梢神経の知覚障害で始まり、進行すると下垂手や下垂足といった手足に力が入らない不可逆性の運動障害が見られることがあります(多発性単神経炎)。これらの末梢神経障害は半数以上(報告によっては8割以上)の頻度で起こります。発生部位としては、腓骨、脛骨、尺骨、正中、橈骨神経に起こりやすいといわれています。また、神経障害は感覚異常が主体で、約1/3の例で運動障害が伴います。
一方、脳神経の障害は5~10%で比較的少ないとされ、その大部分は高血圧による影響によるものであり、脳動脈の血管炎によるものはまれであると報告されています。脳神経の障害による症状としては、脳出血や脳梗塞による麻痺や意識障害などがあります。

(5)腎臓

50%以上の頻度で腎臓に何らか障害が出現するといわれています。腎動脈から小葉間動脈までに至る腎臓内の中小の動脈に炎症が及ぶと、腎血流障害により血圧を上昇させるレニンが分泌され、高血圧となります。また、腎動脈瘤の破裂による腎周囲血腫や、血管炎の勢いが強い場合に多発性腎梗塞がまれにみられることがあります。
なお、毛細血管には炎症が起きないため、糸球体腎炎は生じず、検尿では蛋白尿や血尿はあっても軽度であり、赤血球円柱はほとんどみられません。もし、検尿でのこれらの異常が目立つ場合は、顕微鏡的多発血管炎や多発血管炎性肉芽腫症、全身性エリテマトーデスなどのほかの疾患を考慮した方がいいでしょう。

(6)心臓

心臓自身に血液を送っている冠動脈に血流障害が生じると狭心症や心筋梗塞が起こり、症状として胸痛がみられます。また、深く息を吸った時に増強する胸痛が特徴的な心外膜炎を生じる場合もあります。これらの心臓の病変が生じる頻度は多くはありません。

(7)眼

眼の動脈の血流障害により、眼底出血や網膜剥離を伴った虚血性網膜症や、虚血性視神経炎などがみられ、視力低下や失明することがありますがまれです。

(8)睾丸

睾丸の圧痛を伴う睾丸炎がある場合があります。ただし、欧米では10%超くらいの頻度であるものの、日本では比較的少ないとされています。

(9)呼吸器

通常、肺に障害はみられません。ただし、気管支動脈の病変はまれにみられることがあります。

(10)その他

体のどの臓器にも血流障害に基づく病変がみられることがあり、乳房、子宮、脾臓などの病変が報告されていますが、あまり多くはありません。

診断

上記の症状からこの病気を疑い、厚生労働省特定疾患難治性血管炎分科会による診断基準(2006年)外部リンク 、もしくは米国リウマチ学会(ACR)の分類基準(1990年)外部リンクを参考にして診断します。この診断の際に要となるのは、障害臓器の血管の炎症を証明することです。そのためには、神経や筋肉などの障害部位を一部切除する生検が必要になります。生検が困難な場合には、血管造影X線検査や造影CT、MRIなどの画像検査が診断の助けとなります。時に顕微鏡的多発血管炎との区別が難しい場合がありますが、結節性多発動脈炎ではANCAなどの自己抗体が検出されない点が特徴的です。

結節性多発動脈炎の診断基準 (厚生労働省特定疾患難治性血管炎分科会2006年改訂)

(1)主要症候

  1. 発熱(38℃以上、2週以上)と体重減少(6か月以内に6kg以上)
  2. 高血圧
  3. 急速に進行する腎不全、腎梗塞
  4. 脳出血、脳梗塞
  5. 心筋梗塞、虚血性心疾患、心膜炎、心不全
  6. 胸膜炎
  7. 消化器出血。腸閉塞
  8. 多発単神経炎
  9. 皮下結節、皮膚潰瘍、壊疸、紫斑
  10. 多関節痛(炎)、筋痛(炎)、筋力低下

(2)組織所見

中・小動脈フィブリノイド壊死性血管炎の存在

(3)血管造影所見

腹部大動脈分枝(特に腎内小動脈)の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞

(4)診断基準

  1. 確実(definite)
    主要症候2項目以上と組織所見の存在する例
  2. 疑い(probable)
    (a)主要症候2項目以上と血管造影所見の存在する例
    (b)主要症候のうち 1. を含む6項目以上が存在する例

(5)参考となる検査所見

  1. 白血球増加(10,000/μL以上)
  2. 血小板増加(40万/μL以上)
  3. 赤沈亢進
  4. CRP強陽性

(6)鑑別除外診断

  1. 顕微鏡的多発血管炎
  2. 多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)
  3. 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎)
  4. 川崎病動脈炎
  5. 膠原病(SLE、RAなど)
  6. IgA血管炎(旧称:紫斑病血管炎)

(7)参考事項

  1. 組織学的に1期変性期、2期急性炎症期、3期肉芽期、4期瘢痕期の4つの病期に分類される。
  2. 臨床的に1、2期病期は全身の血管の高度の炎症を反映する症候、3、4期病変は侵された臓器の虚血を反映する症候を呈する。
  3. 鑑別除外診断の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。

治療

無治療では1年生存率50%、5年生存率13%と予後は不良でしたが、近年は治療が進歩し、発症3か月程度以内の急性期に適切な治療を受ければ、経過は比較的良好です。ステロイドと免疫抑制剤の併用による5年生存率は約80%となっています。一般的な治療の詳細は以下のとおりですが、個々の患者さんの病態に応じて治療内容を適宜調整することが多いです。
まず、背景にB型肝炎ウイルス感染が有る場合は抗ウイルス療法、血漿交換療法を実施します。B型肝炎ウイルス感染が無い場合は、次の様な大きな流れで治療を行います。
まず病気の勢いを抑え込む「寛解導入療法」を行い、その後、この導入療法で一旦抑え込んだ病勢を再燃(再び病状が悪化すること)させないようにする「寛解維持療法」を行います。

(1)寛解導入療法

腎、腸管、神経など生命に関わる重要臓器の障害を有する重症例では、メチルプレドニゾロン大量点滴静注療法(ステロイドパルス療法:メチルプレドニゾロン500~1000mg/日の点滴 3日間連続)を行い、その後、体重1kg当たり0.5~0.8mgの副腎皮質ホルモン(ステロイド)薬のプレドニゾロンを経口で使用します。2か所以上の重要臓器に障害のある非常に重症な場合には、さらに血漿交換療法も追加することがあります。
このような重症な臓器障害が無い場合は、経口プレドニゾロン0.5~1mg/kgのみで治療を開始します。
もし、ステロイド治療で改善がみられない場合は、免疫抑制剤であるシクロフォスファミド(商品名:エンドキサン®)を経口もしくは点滴静注にて併用します。
その他の免疫抑制薬として、アザチオプリン(商品名:イムラン®、商品名:アザニン®)やメトトレキサート(商品名:メソトレキセート®)を用いることもあります。ほかにも、まだ一般的な治療法としては未確立ですが、治療困難例に対して、腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬や、抗ヒトCD20抗体のリツキシマブで改善したという報告もあります。

(2)寛解維持療法

寛解導入療法でまず初めに病気の勢いを抑え込み、その後は、症状の悪化がないことを確認しながらプレドニゾロンは徐々に減量し、5~10mg/日を維持量とします。
シクロフォスファミドは血球が少なくなる骨髄抑制や、出血性膀胱炎、無月経などを生じる卵巣機能障害、さらに長期使用で悪性腫瘍の合併などの副作用があるため、半年程度経過したら、免疫抑制剤をシクロフォスファミドから比較的副作用の少ないアザチオプリンに切り替えます。

予後について

・2009年改訂Five Factor Score (2009 FFS)
結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎、好酸球性血管炎性肉芽腫症の3つの全身性壊死性血管炎の診断時にその予後を予測する5つの因子として1996年にフランスの血管炎研究グループによりFive Factor Scoreとして報告されたものが2009年に改訂されました。その改訂では、対象疾患に血管炎性肉芽腫症も加え、計1,108例を解析したところ、1996年に示された5つの予後不良因子のうち、「蛋白尿>1g/日」と「中枢神経症状」の項目が削除され、「年齢65歳超」と「耳、鼻、のどの症状が無い」ことが加わりました(下記参照)。1項目を1点とし、合計点数が多いほど予後が悪いと報告されました(5年生存率;0点 91%、1点 79%、2点以上 60%)。

【予後不良因子 (2009 FFS)】(Medicine (Baltimore). 90(1):19-27,2011から引用)

  1. 年齢65歳超
  2. 心臓症状を有する
  3. 消化管症状を有する
  4. 腎不全: 血清クレアチニン≧1.70 mg/dL (150μmol/L)
  5. 耳、鼻、のどの症状をいずれも有さない

生活上の注意

血管炎は、血管に炎症を起こして血管壁に障害を来します。これ以上血管に負担をかけないように、喫煙、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症、高尿酸血症などの動脈硬化の危険を高める要因に気を付ける必要があります。また、治療によって免疫が抑制されている場合は、感染症にかかりやすくなっていますし、感染症にかかると血管炎の病状を悪化させることもあるため、注意が必要です。規則正しい生活をして、精神的にも肉体的にもストレスを最小限にする生活を心掛けることが重要です。

慶應義塾大学病院での取り組み

診断に重要な生検や画像検査をリウマチ内科のみならずほかの診療科とも連携して行い、できるだけ迅速で適確な診断を心がけています。また、治療に関しても最新の医学的知識に基づき、それぞれの患者さんに合った適切な治療を行っています。

さらに詳しく知りたい方へ

文責: リウマチ・膠原病内科外部リンク
最終更新日:2024年8月9日

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