概要
乾癬性関節炎(かんせんせいかんせつえん)は、皮膚の病気である乾癬に、腫れと痛みを伴う関節炎を合併した病気です。原因は分かっていません。遺伝する病気ではありませんが、家族集積性といい、血縁関係の方にこの病気の方がいると、発症しやすいといわれています。 日本における乾癬の患者数は2010年の患者データベース研究から50~60万人と推計されています。肥満との関連も報告されており、近年の食事の欧米化により、患者数は増加傾向にあります。関節炎を発症するのは、乾癬の患者さんのうち10~20%程度です。乾癬性関節炎はどの年代にも起こり得ますが、20~30代の若い方に発症することが多いです。男性と女性ではほぼ同数起こるといわれています。
症状
皮膚症状
皮膚の表面を占める表皮は、通常は28日程度の間隔で作られては垢として脱落していきます。しかし乾癬ではこの間隔が4~7日程度と著しく短縮しているため、皮膚が赤くなり、剥がれた皮膚の一部が白く付着するという病変がみられます。通常、皮疹に自覚症状はありませんが、痒みを伴う場合もあります。肘や膝、頭部、殿部など刺激を受けやすい場所に出現しやすいです。爪の病変も多彩で、爪が厚くなったり、剥がれたり、くぼみができたり、といった変化を示します。いわゆる"水虫"のような見た目になることもあるので注意しましょう。
関節症状
主に手の指に腫れと痛みを伴う関節炎です。第2関節や指の付け根の関節が炎症を起こしやすい関節リウマチと異なり、第1関節にも関節炎が出現し、腫れたり痛んだりします。そのほか、手首や膝、足首、足の趾などにも起こりやすいです。関節炎が続くと骨の破壊が起こったうえで新たな骨の形成が起こり、手のX線写真で特徴的な変化を伴うようになります。関節炎の活動性と皮疹の活動性は必ずしも一致しません。
指炎、腱付着部炎
1本の指全体がソーセージのように腫れることがあり、これを指炎といいます。また、腱や靱帯が骨に付着する部位に炎症を生じることがあり、これを腱付着部炎といいます。かかとのアキレス腱付着部に起こることが多いです。
その他
ぶどう膜炎や結膜炎といった目の炎症が起こることがあります。これは目の痛みや見えにくさといった症状が出ます。仙腸関節(腰の関節)や脊椎(背骨)の関節に炎症が起こることがあります。腰痛を起こしますが、炎症性腰痛と呼び、動かずにいると痛み、動かすと楽になる、というやや変わった痛み方をします。
診断
乾癬と診断されている方に典型的な関節炎が出現した場合は、比較的診断は容易です。しかし、関節炎が先行し、皮疹がない場合も10%程度あるといわれ、ご自身で乾癬の皮疹に気付かれていない場合や、皮疹出現前の方などは病気がはっきりせず、診断に時間がかかることがあります。
診断には下記の分類基準が用いられることが多いです。
乾癬性関節炎の分類基準(CASPAR) (2006年)
(感度98.7%、特異度91.4%)
炎症性の関節疾患(関節炎、脊椎炎、もしくは付着部炎)を有する方で、下記の各項目を1点として3点以上の場合に乾癬性関節炎と分類(診断)します。
- 現在乾癬にかかっている*、または過去に乾癬があった、
または兄弟姉妹や両親、祖父母に乾癬の方がいる - 典型的な乾癬の爪病変(爪剥離症、陥凹、過角化)がある
- リウマトイド因子という血液検査が陰性
- 指全体が腫れる指炎がある(あった)
- 手、足のX線検査で特徴的な所見(関節近傍の新骨形成)がある
*現在乾癬にかかっている場合は2点とします。
治療
皮膚や爪の病変に対しては基本的に皮膚科で受診することになりますが、ビタミンD軟膏やステロイドの外用、またPUVA療法という紫外線を用いた治療法があります。重症型ではメトトレキサート(商品名:リウマトレックス®)やシクロスポリンA(商品名:ネオーラル®)などの内服や後述する生物学的製剤を使用することもあります。
関節炎や指炎、腱付着部炎を有する乾癬性関節炎対しては、2023年に欧州リウマチ学会(EULAR)が発表した推奨を参考にしながら以下のように治療することがあります。
まず、乾癬性関節炎に対しては非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)の内服が勧められます。場合によりステロイドの関節注射を併用することもあります。NSAIDsを3~6か月使用しても改善が乏しい場合や、予後不良因子がある(5関節以上の関節病変を有する、関節破壊がある、炎症反応高値、関節外症状を有する)場合には、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)のひとつであるメトトレキサートの使用が勧められます。もし、副作用等でメトトレキサートが使用できない場合には、同じくDMARDsであるサラゾスルファピリジン(商品名:アザルフィジン®EN)が用いられることが多いです(ほかにはレフルノミドなど)。さらに、メトトレキサートもしくはサラゾスルファピリジンを3~6か月使用しても関節炎の改善が不十分で予後不良因子を有する場合や、DMARDsを3~6か月複数併用しても関節炎の改善が乏しい場合や、脊椎・骨盤の病変もしくは重度の付着部炎がある場合には、TNF阻害薬をはじめとする生物学的製剤もしくはJAK阻害薬を使用します。生物学的製剤とJAK阻害薬の効果は3~6か月で判断し、効果が不十分である場合にはほかの生物学的製剤へ切り替えを行います。
生物学的製剤/JAK阻害薬
ここ10年程の間に関節リウマチを中心とする自己免疫疾患に対し、生物学的製剤と呼ばれる新しい治療薬が使用されるようになってきました。これらは化学的に合成されたものではなく、生物が産生したたんぱく質を利用しているため、"生物学的製剤"とよばれ、注射もしくは点滴の薬剤です。JAK阻害薬は炎症性サイトカインによる刺激が細胞内に伝達されるときに必要なJAK(Janus kinase(ヤヌスキナーゼ)の略称)という酵素を阻害する、内服の薬剤です。多くの種類があるため、患者さんの病態等にあわせて、使用する薬剤を決定しています。日本で認可されている乾癬性関節炎の薬は以下のとおりです(2024年4月現在)。
- TNF阻害薬
- インフリキシマブ(商品名レミケード®)
- アダリムマブ(商品名ヒュミラ®)
- セルトリズマブ・ペゴル(商品名:シムジア®)
- IL-12/23阻害薬
- ウステキヌマブ(商品名ステラーラ®)
- IL-23阻害薬
- グセルクマブ(商品名:トレムフィア®)
- リサンキズマブ(商品名:スキリージ®)
- IL-17阻害薬
- セクキヌマブ(商品名コセンティクス®)
- イキセキズマブ(商品名トルツ®)
- ブロダルマブ(商品名ルミセフ®)
- ビメキズマブ(商品名:ビンゼレックス®)
- JAK阻害薬
- ウパダシチニブ(商品名:リンヴォック®)
- PDE4阻害剤
- アプレミラスト(商品名:オテズラ®)
いずれも従来の薬に比べて効果が高いことが知られますが、どの薬も高価なこと(月の自己負担3割で薬剤費のみで数万円)が使いづらい点になります。脊椎に関節炎がある場合など、強い関節炎がある場合にはこの薬剤を用います。
インフリキシマブとアダリムマブ、セルトリズマブ・ペゴルは腫瘍壊死因子(TNF)という炎症を引き起こす物質に結合し、その働きを抑えます。インフリキシマブは点滴の薬で、最初の3回はローディングと呼び短い間隔で点滴しますが、以降は2か月に1回の点滴投与を継続します。アダリムマブは自己注射の薬で、2週間に1回皮下注射します。セルトリズマブ・ペゴルも自己注射の薬で、2週間ないしは4週間に1回皮下注射します。TNF阻害薬は、まれに重い感染症(肺炎など)が発症すること、投与後にアレルギー反応を起こす人がいることが注意すべき副作用となります。乾癬に対しては2010年1月に認可がおりましたが、関節リウマチに対しては以前から使用されており、薬剤そのものは使用経験が豊富です。
ウステキヌマブはインターロイキン(IL)という炎症に関わる物質を標的とした治療薬です。IL-12とIL-23という種類のインターロイキンの働きを抑えます。ウステキヌマブには点滴と皮下注射がありますが、乾癬性関節炎には皮下注射を使います。投与間隔は最初だけ1か月の間隔で投与する以降は3か月に1回ごとの注射になります。重篤な副作用としてアナフィラキシー、感染症、肝障害などが報告されています。
セクキヌマブ、イキセキズマブ、ブロダルマブ、ビメキズマブはIL-17の働きを抑える薬です。セクキヌマブ、イキセキズマブはIL-17Aを、ブロダルマブはIL-17受容体を、ビメキズマブはIL-17A/Fを標的としています。いずれも皮下注射の薬です。投与間隔は製剤ごとに異なり、ローディング後にはセクキヌマブ、イキセキズマブは4週間隔、ブロダルマブは2週間隔で注射します。ビメキズマブはローディングなしで、4週間隔で注射します。重篤な副作用としてアナフィラキシー、感染症、肝障害、好中球減少、真菌感染症などが報告されています。
ウパダシチニブはJAK阻害薬の1つで、JAK1を特に強く阻害することで関節の炎症を抑えます。関節リウマチではほかのJAK阻害薬も含めて5種類の薬剤が使われていますが、乾癬性関節炎の方には、このウパダシチニブのみが保険適用となっています。副作用は、帯状疱疹の発症リスクがあがるほか、肝障害、重篤な感染症、血栓症などの副作用が報告されています。
アプレミラストはPDE4を標的とした治療薬です。アプレミラストは飲み薬であり、注射する必要がない点が大きな強みです。最初は少なめの量から開始し、副作用が出ないことを確認しながら増量していきます。重篤な副作用としてアナフィラキシー、感染症、重度の下痢などが報告されています。
生活上の注意
乾癬の皮膚病変自体はストレスで悪化することが知られています。乾癬性関節炎もおそらくストレスで悪化するといわれていますので、ストレスをためないことが大切です。肥満との関連も知られていることから、カロリーを摂りすぎないように気をつけ、適度に運動を行い、体重が増えすぎないようにすることも重要です。
また、乾癬性関節炎の治療薬の中には妊娠前に中止しなければならないものがあります。加えて、予防接種に制限がある治療薬もあります。妊娠や予防接種を希望する場合は担当の医師に確認するようにしてください。
慶應義塾大学病院での取り組み
乾癬の方は、通常皮膚科で診療を受けています。このような方の中で関節炎を発症した場合にはリウマチ・膠原病内科を紹介されることがあります。逆に関節の痛みや腫れの原因を当科で調べていて、乾癬性関節炎が疑われた場合には、皮膚科に紹介することもあります。乾癬性関節炎は、皮膚や関節など様々な場所に症状が出る病気であり、慶應義塾大学病院では複数の科で連携しながら、より良い医療の提供が行えるよう努めています。
さらに詳しく知りたい方へ
文責:
リウマチ・膠原病内科
最終更新日:2024年7月9日