概要
円錐角膜とは、角膜の中央部分の厚みが薄くなり、角膜が前方へ円錐状に突出する病気です。これにより角膜の歪み(乱視など)が生じるため視力が低下します。通常は両眼に発症しますが、左右の眼で進行の程度に差があることが多いです。思春期に発症することが多く、徐々に進行し30歳を過ぎる頃から進行が停止するとされていますが、個人差があるため、30歳を超えて進行することもあります。原因は今のところ不明ですが、目をこする癖やアトピーのある人に多い傾向があります。

図1.円錐角膜の側面図(角膜の突出を認めている)

図2.円錐角膜の正面図(角膜が突出している)
症状
角膜が前方へ突出することにより、角膜の歪み(乱視など)が生じ、視力が低下します。特に角膜の突出が強くなり、デスメ膜という角膜の内側にある薄い膜が破裂し、角膜内に水が溜まることで角膜が突然白く濁る「急性水腫」という病態になると、著しく視力が低下することがあります。
診断
細隙灯顕微鏡検査で角膜の突出所見がみられ、また角膜形状解析検査などで、角膜中央部、もしくは中央よりやや下方の角膜のカーブが急であれば円錐角膜と診断されます。突出の程度がごく軽度である場合には、細隙灯顕微鏡検査だけでは分からないこともあり、その場合は角膜形状解析検査で判定します。
治療
円錐角膜の程度は様々で、全例に手術が必要となるわけではありません。突出が軽度であれば、眼鏡やソフトコンタクトレンズの装用で良好な視力が得られますが、進行すると以下の方法が必要となってきます。
- ハードコンタクトレンズ
ハードコンタクトレンズを装用することで、角膜の突出を抑え視力を向上させます。突出の程度が軽度~中等度までの例が適応となります。ハードコンタクトレンズ装用により角膜に傷がつき痛みが生じてしまう場合には、ソフトコンタクトレンズの上にハードコンタクトレンズを乗せる方法(piggyback法)もあります。突出が高度の場合には、コンタクトレンズのフィッティングが不良となり装用できないため、他の治療法が適応となります。 - 角膜内リング(ICRS:Intrastromal Corneal Ring Segments)<保険適応外>
角膜リングは、従来軽度近視の矯正を目的に開発された器具ですが、近年は円錐角膜眼の屈折矯正器具として用いられています。角膜実質内に2枚のプラスチック製のリングを挿入することで、円錐状になった角膜を平坦化させることができるため、乱視や近視を軽減することが可能となります。また、ICRS挿入後にコンタクトレンズ不耐症が改善することもあります。 - 角膜クロスリンキング<保険適用外>
円錐角膜の進行を停止させる目的で行われている治療法で、角膜形状や視力を改善させる作用はほとんどありません。角膜にリボフラビン(ビタミンB2)を点眼して浸透させながら長波長紫外線を30分間程度照射することにより、角膜実質のコラーゲン線維の架橋を強くすることで角膜の強度を上げ、進行を予防します。円錐角膜の進行に伴い、角膜の突出の程度が高度になり、角膜が一定程度薄くなってしまうとこの治療を行うことができないため、進行性の円錐角膜で、角膜の厚みが一定程度保たれている間(突出の程度が軽度から中等度)に治療します。 - 角膜移植 <海外からの輸入角膜は保険適用外、国内の角膜は保険適用>
突出の程度が高度の場合など、他の治療では十分な治療効果が得られない際に適応になります。以前は全層角膜移植(角膜全層を取り替える手術)のみが行われてきましたが、最近は「パーツ移植」という概念に伴い、深層層状角膜移植(角膜全層ではなく、角膜の内層を残してそれより表層の部分だけを取り替える手術)も行われるようになりました。全層角膜移植は、角膜全層が移植されるため、本人の角膜と移植した角膜の層間に濁りが生じることがなく、手術後の視力の向上が良好である反面、手術中の合併症や手術後の拒絶反応などの危険性が深層表層角膜移植より高くなります。一方で、深層層状角膜移植は、本人の角膜内層部分を残して移植をするため、手術中の合併症や手術後の拒絶反応は少なく、眼球の強度という面でも全層角膜移植より勝りますが、角膜の内層は0.02mm程度と非常に薄いため、内層を残すのは大変難しく、手術の時間もかかり、高度な技術が必要となります。また、急性水腫を生じた症例は角膜の内層が障害されているため、深層層状角膜移植の適応にならないことが多いです。

図3.深層層状角膜移植後(図2の症例)
慶應義塾大学病院での取り組み
当院では、角膜専門外来、円錐角膜専門外来を設けており、多数の円錐角膜の患者さんの診療にあたっています。円錐角膜の程度により、最適な治療法を提示させていただき、患者さんと話し合って治療方法を選択していきます。また、当院には日本で最も古いアイバンク(慶大眼球銀行)を併設しています。角膜移植の際には、長い経験と蓄積された技術・情報を元に、アイバンクを通して公平・公正で安全な角膜をご提供しています。
文責:
眼科
最終更新日:2018年2月20日