概要
食べ物を口の中へ入れて、咀嚼(そしゃく)し、飲み込み、食道へ送り込む一連の動作のいずれかに障害がある状態を嚥下(えんげ)障害といいます。
この検査は、X線を用いて食物の飲み込みの様子を観察するもので、嚥下時の食塊の通過の状態、喉頭、咽頭への貯留の有無、誤嚥(ごえん)の有無を確認することができます。
嚥下障害がどの部位の障害で起こっているのか、誤嚥(気管への流入)の有無、またどのような食べ物であれば安全に食べることができるか、どのような姿勢で食べれば安全に食べることができるかを評価することができます。
この検査の結果をふまえて、今後の食事形態や食事時の姿勢の調節、嚥下訓練の適応、方針を決定します。
検査の実際
X線による透視下で、造影剤を混ぜた、コーヒー、とろみの付いたコーヒー、ゼリー、または実際のお食事の一部を飲み込んでいただきます(図1)。
検査に際しては、実際に少量ながら食物を食べていただきますので、それに伴う誤嚥の危険性があります。造影中は誤嚥に対応すべく常に吸引ができるように準備しています。
検査にあたり、1)喘息を有する方、2)過去にヨード造影剤で重篤な副作用のあった方、3)重篤な肝・腎障害のある方、4)重篤な甲状腺機能亢進症の方、5)現在妊娠中、もしくは授乳中の方は造影剤の使用に注意が必要ですので事前にお知らせいただく必要があります。
所要時間
30分
検査に伴う危険性
1.誤嚥、肺炎、窒息
適切な食形態を判断するために、やむを得ず患者さんにとって難しい食形態ならびに量を摂っていただくことがあり、検査中に誤嚥が起こり得ます。まれですが誤嚥の量が多ければ発熱、誤嚥性肺炎がこの検査によって起こることがあります。非常にまれに検査中の窒息や、誤嚥性肺炎の重症化があり、患者さんの状態によっては生命に危険を及ぼすリスクも0ではありません。
2.造影剤について
使用する食品にはCT検査で用いる低浸透圧性非イオン性ヨード系造影剤や、いわゆるバリウム検査で使う硫酸バリウム造影剤が混ぜてあります。これらは副作用の少ない安全な薬ですが、ほかの薬と同様に、まれに体に合わずアレルギー反応を示す場合があります。軽いアレルギーとしては、かゆみ、じんましん(発赤)、下痢、吐き気・嘔吐、頭痛などがあり、これらの副作用はヨード造影剤の血管内注射では0.1~1%程度の頻度で起こります。また重篤なアレルギーでは血圧低下(ショック)、意識消失、呼吸困難(喉頭浮腫)、痙攣発作などがあり、発生する頻度はヨード造影剤の血管内注射では0.004%(2.5万人に1人)とわずかですが、治療が必要です。重症になる可能性もあり、ほかの多くの薬剤と同様、非常にまれですが (0.00025%, 40万人に1人)死亡例の報告もあります。
今回は造影剤を口から摂取する検査ですので、血管内注射の場合よりも発生頻度はさらに低いと考えられ、嚥下造影による経口摂取での副作用の報告は検査後の一時的な下痢以外ほとんどありませんが、このようなリスクは0ではありません。 また硫酸バリウムを使用の場合、検査用の食べ物に混ぜてある造影剤が大量に肺に入り、残留すると肺肉芽腫を来すことがあります。
3.被曝について
X線を使用するため被曝を伴います。ビデオ嚥下造影検査による被曝線量を具体的に比較した報告は少ないですが、一般撮影と比較して、ビデオ嚥下造影検査は被曝線量が非常に低いとの報告があります。被曝によるリスクよりも、検査によって得られる情報の方が有用と判断したため行うものです。
図1.ビデオ嚥下造影(VF)検査
文責:
リハビリテーション科
最終更新日:2021年9月28日