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血液透析

けつえきとうせき

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概要

腎不全が進行し、腎臓の機能が一定レベル以下に低下する(健常者の10%以下)と、尿毒症を発症し、腎臓の機能を代行するための治療法である腎代替療法(じんだいたいりょうほう)が必要となります。腎代替療法には、血液透析、腹膜透析、腎移植という3つの治療法があります。日本では、324,986人の方が透析治療を受けていますが、そのうち、96.5%の方が血液透析を受けており、血液透析は腎代替療法としても最も普及した治療法です(2015年末時点、日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況」による)。

血液透析は、バスキュラーアクセスから血液を取り出し、透析液を環流させたダイアライザ(人工腎臓)で浄化し、体内に戻す治療です(図1)。通常、この治療を週に3回、4時間程度行います。わが国の血液透析の成績は世界でも群を抜いて良く、透析後の寿命も伸びています。血液透析を30年以上続けている方が3万人以上いらっしゃいます。仕事を続けながら血液透析を受けている方もたくさんいます。ただし、血液透析は腎臓を治療する方法ではなく、腎臓の機能を代行する治療法ですので、原則的に、一生涯続けることになります。

図1. 血液透析

図1. 血液透析
『透析導入テキスト』(南江堂)より許可を得て転載

いつ血液透析を始めるのか?

いつ血液透析を開始するかは、臨床症状、腎機能検査、日常生活の障害度、年齢、原因疾患などから総合的に判断されます。血清クレアチニン8mg/dL(健常者の腎機能の10%に相当する)が透析導入の目安と考えられています。血清クレアチニン8mg/dLを越えた状態は、腎臓の予備能はほとんどない状態ですから、風邪などのちょっとした体調の変化をきっかけに、いつ重篤な尿毒症が出現してもおかしくありません。したがって、尿毒症が出現しないうちに、血液透析を開始し、入院期間を短くして、早く社会復帰する方法が推奨されています。しかしながら近年の研究では早期の導入が必ずしもその後の患者さんの予後を良くするわけでもないという報告もあり、導入の基準に一定のものもありません。透析前の腎不全の状態(保存期といいます)から慢性腎臓病をしっかり治療し、主治医の先生とよく相談して透析導入を検討すべきと考えます。

なお、末期腎不全に伴う尿毒症症状とは、

  • 全身のむくみ(特に、肺に水のたまる肺水腫)
  • 薬などで治療できない電解質や血液のpH(酸塩基)の異常
  • 吐き気、食欲不振などの消化器症状
  • 重度の高血圧、心不全などの循環器症状
  • 中枢・末梢神経障害、精神障害などの神経症状
  • 高度の貧血、出血が止まりにくくなるなどの血液異常

などです。これらの症状は血液透析によって改善できますが、保存期の治療によっても改善できます。ただし、肺水腫、心不全などの命に関わる尿毒症が出た場合には、すみやかに透析を開始することが必要です。

血液透析を開始するにあたってひとつ準備をしなければいけないことがあります。それが、バスキュラーアクセスです。血液透析を行うためには大量の血液を体外に導き出す必要があります。このように血液透析のために血液が取り出せる出入り口をバスキュラーアクセスと呼び、代表的なものがシャントと呼ばれるものです。シャントは、通常利き腕と反対の腕の手首付近で、動脈と静脈をつなぐことで作ります。シャントによって、表面の静脈に大量の血液が流れるようになります。血液透析療法を行う際には、この大量の血液が流れている静脈に針を刺して、血液をダイアライザで浄化し、浄化した血液をもう1本の針から体内に戻します。シャントが使えるようになるまでには2週間程度の時間がかかりますので、血液透析をそろそろ始めないといけないという段階になったら、事前に、短期間入院し、手術を受け、シャントを用意しておきます。

バスキュラーアクセスは、透析患者さんにとっては命綱のようなものであり、日常生活でもバスキュラーアクセスが閉塞しないような注意が必要です。

血液透析の実際

血液透析の役割は大きく2つに分けて考えることができます。ひとつは、血液の浄化であり、本来なら腎臓から体外に排泄される老廃物(尿毒素)やカリウムやリンなどを取り除き、カルシウムやアルカリなどを透析液から補います。もう一つの役割は、本来、尿として排泄されるべき水分を除去することです。これらにより、本来の腎臓の機能のかなりの部分を代行することができます。

しかし、本来の腎臓の持つ内分泌機能(造血ホルモンであるエリスロポエチンの産生、カルシウム・リンのバランス保持に重要なビタミンDの活性化)は代行できません。また、血液透析では、体に必要なビタミンやアミノ酸などを失ってしまう一方、本来は除去しなければいけないアミロイドーシスの原因物質であるβミクログロブリンなどを完全には除去できません。これらが、長期の血液透析患者さんの合併症につながります。

実際に、血液透析を始める際には、事前にバスキュラーアクセスを作っておいて、外来通院を続けながら、血液透析が必要と判断したら、入院をしていただいて血液透析を開始します。血液透析を始める際には、通常10日間程度入院します。これは、血液透析開始時には、血液透析の条件を設定したり、適切な体液量を決定することに時間がかかるためです。そして血液透析の合併症などがなければ、退院していただいて、居住地または勤務先近くの通院しやすい外来透析施設に通いながら、通常週3回、3-4時間の透析を続けます。この退院してからの外来透析施設の選択は、学会が発行する施設のリストがありますのでそれをもとに選んでいただきます。

血液透析患者さんにおこりやすい合併症

  1. 貧血
     エリスロポエチンは腎臓から分泌されており、慢性腎不全患者においてはエリスロポエチン不足による腎性貧血がほぼ必発です。腎性貧血の治療の基本はエリスロポエチン製剤の投与です。透析を受けている場合は、血液透析の際に、エリスロポエチン製剤の投与を受けます。ヘモグロビン(Hb):10 g/dL以上を目標として投与量を調整します。ただし、活動性の高い若い方の場合、Hb:11-12 g/dLとやや高めの値を目標とします。エリスロポエチンを投与しているにもかかわらず、貧血が続く場合には、鉄不足や消化管出血などを考えます。

  2. カルシウム・リン代謝異常
     長期の透析患者さんは、透析骨症または腎性骨症と呼ばれる多様な骨の障害を起こすことがあります。このような骨の障害は、生活の質を落とすことになるので、重要な合併症と考えられています。このような骨障害を防ぐためには適正なカルシウム・リンバランスを保つことが重要です。透析患者さんにおける適正値は血清リン3.5-6.0 mg/dl、血清カルシウム 8.4-10.0 mg/dl、PTH intact(副甲状腺ホルモン)60 pg/mL- 240 pg/mLです。
     血液透析患者さんでは、血中のリンが高くなりやすく、食事でのリンの制限が必要です。ただし、多くの場合、食事制限だけでは高リン血症を防げないので、様々な食事のリン吸着薬を服用します。
     腎機能が低下すると、腎臓におけるビタミンDの活性化が行われないため、ビタミンD不足になります。ビタミンD製剤はリンを上げ、カルシウムを上げ、PTHを抑えます。ビタミンD製剤は通常、内服しますが、重度の二次性副甲状腺機能亢進症患者さんでは、透析後にビタミンD製剤を静脈投与するという方法もあります。また、Ca受容体作動薬(シナカルセット)という薬剤も近年使われています。しかしながら、このような薬による治療でも、副甲状腺機能亢進症が続く場合には、副甲状腺摘出術やエタノール注入療法(PEIT)を行います。

  3. 高カリウム血症
     透析患者さんの場合、高カリウム血症を来しやすくなります。カリウム含有量の多い食事(生野菜、果物など)を避け、カリウムを減らす調理法(野菜をゆでこぼす)によって、透析前カリウム値:3.5-5.5 mEq/lとなるようにします。食事で十分にカリウムが下がらない場合には、カリメートなどのイオン交換樹脂製剤を服用します。

  4. 心不全と感染症
     血液透析、腹膜透析患者さんにおいて死因の第一位は心不全、第二位は感染症です。血液透析患者さんは心臓、血管の合併症が多く、定期的な心機能、動脈硬化の検査が推奨されます。また透析患者さんは免疫能の低下やシャントからの感染などで感染症のリスクが高いことが知られています。定期的な感染予防、予防接種の接種が奨励されています。

透析患者さんの食事

透析患者さんの食事で最も重要なのは、飲水の制限です。1日の食事外水分は体重1kgあたり15mlに尿量を加えたものとします。透析間の体重増加を、中1日で体重の3%以内、中2日で体重の5%以内を目標とします。血液透析開始前に比べればタンパク制限は緩くなりますが、リンとカリウムの制限がうまくできないことが多いようです。
維持透析期の食事療法について、2014年の日本透析医学会の指針を示します。

 総エネルギー:30-35kcal/kg標準体重/日
 蛋白:0.9-1.2g/kg標準体重/日
 食塩:6g/日未満
 カリウム制限:2.0g/日以下
 食事外水分:できるだけ少なく
 リン:たんぱく(g)X15mg/日以下
 
 標準体重は次の式で計算します。標準体重=22 x (身長(m))2

慶應義塾大学病院での取り組み

当院では、腎臓内分泌代謝内科と泌尿器科の協力のもと、中央透析室で血液透析を行っています。16床の透析ベッドで、入院中の患者さん、および、外来の患者さんの透析を行っています。年間、50-80人程度の患者さんに血液透析の導入を行っています。また維持血液透析患者さんの様々な合併症に関する入院治療も行っています。

さらに詳しく知りたい方へ

  • 透析導入テキスト : 慢性腎不全の患者さんのために / 門川俊明編著 ; 慶應義塾大学病院中央透析室スタッフ共著 東京 : 南江堂, 2005.6

当院の中央透析室スタッフで執筆した本です。現在、当院で血液透析を始められる方のテキストとして使っています。

文責: 腎臓・内分泌・代謝内科外部リンク
最終更新日:2018年1月29日

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