少しでも早く、できるだけ自然な形で赤ちゃんを授かるためには、基本的な検査を順序たてて行う必要があります。これらの検査は数回の通院で、1ヶ月程度で終わります。
中には痛みを伴う検査もありますが、検査をすることで自然の妊娠の可能性が高まることが分かっています。最小限の検査となっておりますので、安心してお受けになってください。
不妊症の6つの基本検査
- 基礎体温の測定
- 精液検査(精子の数、運動率、形態など)
- 性交後検査(フーナー検査)
- 超音波検査
- 子宮卵管造影(別項)
1. 基礎体温の測定から分かること
基礎体温とは朝目覚めた時にすぐに婦人体温計で測定した体温を指します。基礎体温表からは排卵の有無、排卵日の予測、黄体機能不全の有無などを推測することができます。
2. 精液検査から分かること
男性不妊は不妊症の30-40%を占めるので、精液検査は極めて大事な検査です。精液検査は、2-3日程度の禁欲期間の後に実施することが一般的です。精液検査で異常と診断された場合でも、必ずしも自然の妊娠が期待できないわけではありません。また同一の男性でも精液の所見は検査する度に変動があるため、異常と判定された場合には4週間程度の間隔を置いて検査を繰り返して実施することがあります。
3. 性交後検査(フーナー検査)から分かること
いかに多数の運動性の良い精子が腟内に射精されたとしても、子宮頸管を経て子宮の中-卵管の中に侵入ができないと妊娠は望めません。性交後検査(フーナー検査とも呼ばれます)は、排卵日近くの子宮頸管粘液が増えるころの検査前夜または検査早朝に自宅で性交をして、その3-12時間後に来院していただき、頸管粘液中に精子が侵入できているのかを確認する検査です。
4. 経腟超音波検査から分かること
超音波検査とは異なる組織の界面で反射される性質を利用して臓器組織の形態を知る方法です。腟内に親指ほどの太さの超音波プローブという器具を挿入し、子宮や卵巣の位置や大きさ、構造を観察します。
- a. 子宮に存在する子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、卵巣腫瘍などが診断できます。骨盤腔の病変は腹部から見る経腹超音波より経腟超音波の方がはるかに鮮明な像を得ることができます。
- 卵胞の発育の状態を観察することで排卵の有無や排卵日を正しく推定することができます。卵胞の直径は個人差がありますが18mm~22mmくらいになったとき排卵しますから、卵胞径を計測することで排卵日の予測ができます。
- 子宮内膜の状態を知ることができます。排卵直前には子宮内膜の厚さは10mm前後の厚さになり、木の葉のような3層構造がみられます。排卵後には3層構造は失われ均一な像となります。
5. 子宮卵管造影(別項)
子宮に造影剤を注入し、卵管の通過性、子宮や卵管の中の異常、おなかの中の癒着を調べます。この検査によって卵管の詰まりが改善されることもあります(詳細は別項をご参照ください)。
慶應義塾大学病院での基本検査(上記6つの基本検査に加えて実施する検査)
- 子宮頸部細胞診
- クラミジア抗体価検査
- ホルモン検査(FSH、LH、E2、PRL、TSH、T3、T4、プロゲステロン)
1. 子宮頸部細胞診
子宮頸癌のスクリーニングの為に, 適宜実施しております。
2. クラミジア抗体価検査
クラミジア感染の既往がある場合、卵管閉塞などの不妊症の原因となり得ますので, クラミジア抗体価検査を行っています。
3. ホルモン検査(FSH、LH、E2、PRL、TSH、T3、T4、プロゲステロン)
月経周期の3-7日目および次回の生理が来ると予想される日の約1週間前の時期に採血をして、各種のホルモンの値を計測します。排卵障害があるかどうか、またあればその障害の場所が脳(視床下部-下垂体)にあるのか、あるいは卵巣にあるのかを鑑別することができます。また、月経異常や流産との関連が報告されているホルモン(甲状腺ホルモンなど)も同時に測定します。
- FSHとLHが卵胞の発育と排卵を調節する
脳の下方にある脳下垂体と呼ばれるところから分泌される2つのホルモン(ゴナドトロピンと称されます。卵胞刺激ホルモン: FSH, 黄体化ホルモン: LH)が卵巣を刺激し卵胞発育と排卵を起こすと同時に、卵巣から卵胞ホルモンと黄体ホルモンを分泌させます。 - 排卵障害の場合、FSHやLHは異常値を示すことがある
正常な月経周期を有している女性ではこれらのホルモンは一定の範囲内にありますが、排卵障害のある場合には高すぎたり低すぎたりします。 - ゴナドトロピンが異常低値を示す場合は中枢性の排卵障害と考えられる
性腺刺激ホルモンが低値の場合は低ゴナドトロピン性卵巣機能低下症とよばれ、間脳-脳下垂体系の異常に起因する排卵障害と診断されます。 - ゴナドトロピンが異常高値を示す場合は卵巣性の排卵障害と考えられる
性腺刺激ホルモンが高値を示す場合は、高ゴナドトロピン性卵巣機能低下症と呼ばれ、卵巣の異常に起因する排卵障害と診断されます。 - 多嚢胞性卵巣症候群ではFSHは低めでLHはやや高くなる
排卵障害の特殊な例として性腺刺激ホルモンの分泌もある程度維持されており、卵巣からの卵胞ホルモン(エストロゲン: E2)の分泌もほぼ正常域にあるような例でも無排卵の場合があります。そのような例では、超音波断層診断で卵巣に多数の中小の卵胞が見られる, 多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome: PCOS)と呼ばれる病態があります。この診断にはホルモン検査と卵巣の超音波診断が必要となります。 - プロラクチンの分泌が亢進すると月経不順や排卵障害をもたらす
月経異常や排卵障害を認める場合、脳下垂体から乳腺刺激ホルモン(プロラクチン: PRL)の分泌が亢進している場合があります。本来プロラクチンは分娩後の授乳期間中に分泌が亢進し、乳汁分泌を促す為のホルモンですが、授乳とは関係なくプロラクチンの分泌が異常に亢進していると月経が不順になったり排卵が障害されたりすることがあります。血液中のプロラクチン値は、食事、運動、睡眠、ストレス、乳房刺激、内診による疼痛刺激などにより分泌が亢進するので、注意が必要です。また、向精神薬、降圧薬、胃腸薬などの内服が原因でプロラクチンの分泌が亢進することがあります。 - 甲状腺ホルモンの分泌が低下すると月経不順や排卵障害をもたらす
甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンはサイロキシン(thyroxine: T4)と3', 5', 3'-トリヨードサイロニン(triiodothyronine: T3)です。甲状腺ホルモンは標的臓器において発育、成長、タンパク質代謝、糖代謝、脂質代謝、体温調節などさまざまな機能を持ち、このホルモン値が低下していると、TSHの分泌が亢進します。TSHは二次的に高プロラクチン血症を引き起こす為、月経不順や排卵障害の原因となることがあります。
また、甲状腺機能異常の患者さんに初期流産が多いことは以前より知られており、習慣流産(3回以上連続した流産)の患者さんの約5%に甲状腺の機能異常が認められるとした報告もあります。 - 次回の月経開始日が予想される1週間程度前の時期に採血をし、黄体ホルモン(プロゲステロン)の測定をします。ホルモン値が低いときに黄体機能不全と呼ばれる病態の存在が疑われることがあります。
基本検査で異常を認めた場合の対応
- 子宮鏡検査
- MRI検査
- 腹腔鏡検査
- 抗精子抗体検査
1. 子宮鏡検査
子宮腔に異常が疑われるときに行います。子宮鏡と呼ばれる内視鏡を子宮腔内に挿入して子宮腔を観察します。子宮筋腫や子宮内膜ポリープを見つけることができます。
2. MRI検査
子宮のかたちや卵巣腫瘍などの客観的な情報を、手術をすることなく得られる点で優れている検査です。超音波検査や子宮卵管造影で把握しきれない異常を補う目的で実施されることが多いです。
3. 腹腔鏡検査
内診や超音波などの検査で、妊娠の妨げになるような子宮筋腫や卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)が見つかったとき、卵管閉鎖や卵管周囲の癒着(ゆちゃく)が疑われた際に、治療を兼ねて腹腔鏡下手術を行います。臍部より0.5-1cmの内視鏡(腹腔鏡)を挿入し、腹腔内を観察すると同時に, 癒着をはがしたり、初期の子宮内膜症や子宮筋腫、卵巣嚢腫の治療も実施することができます。卵管通水(卵管に水を通して、詰まっていないかを調べる検査)を行うこともあります。 癒着をはがす操作のために, 臍部の他に1-2カ所同様の穴をあけて鉗子(かんし)という器具を挿入します。全身麻酔で手術を行い、順調であれば7日程度の入院で退院できます。
4. 抗精子抗体検査
女性の身体に精子に対する抗体ができていないかをみる血液検査です。 抗体価が高い場合には, 人工授精や体外受精の適応となることがあります. 現在までのところ、治療法の選択に関する質の高いランダム化試験の報告がない為、慶應義塾大学病院ではこの検査はルーチンのワークアップ検査としては行っていません。
自宅でも行える排卵予測の検査
LH検査
排卵が近づくと、脳下垂体から黄体化ホルモン(LH)が大量に分泌され(LHサージ)、LHサージを受けて排卵が起こります。市販の排卵検査薬はこの尿中のLHを検出しています。 LHサージの開始から36時間後に排卵が起こることが分かっているので、検査薬が初めて陽性になった日の翌日に排卵する可能性が高く, 最適な性交のタイミングと考えられています。
文責:
産科
最終更新日:2017年12月7日