概要
白癬(皮膚糸状菌症)とは、ケラチン好性真菌(カビ)である皮膚糸状菌が原因で生じる皮膚感染症の総称で、感染部位によって、水虫、たむし、いんきんたむし(股部白癬)など様々な名称で呼ばれます。
皮膚糸状菌は寄生主あるいは生息場所によりヒト好性菌、動物好性菌、土壌好性菌に分類されます。足白癬の原因菌の多くはヒト好性菌ですが、たむし(体部白癬)の原因菌は様々です。特に動物好性菌、土壌好性菌による場合、炎症症状が激しいことがあります。
症状
水虫(足白癬)
臨床的には1.趾間型 2.小水疱型 3.角質増殖型に分けられます。しかしそれぞれが混在する患者さんも多いです。
- 趾間型:趾間(しかんー指の付け根)がじくじくとしたり、皮がむけたりした状態です。
- 小水疱型:足の裏や土踏まずなどに水ぶくれ(水疱)が生じた状態です。
- 角質増殖型:踵を中心とした角質増殖がみられます。ひび割れてガサガサな状態になったりします。この臨床型には爪白癬を合併することが多いです。
感染経路は主に菌を含む鱗屑(アカ)、毛などが付着するスリッパ、浴場の足拭きマット、畳、タオルなどを介しての感染です。
原因菌はヒト好性菌であるTrichophyton rubrum(紅色菌), Thrichophyton mentagarophytes(毛瘡菌)で90%以上を占めます。
皮膚の最も外側の、ケラチンというたんぱく質の豊富な角質層に感染しています。
体部白癬(たむし)
近年、ヒト好性菌であるTrichophyton tonsurans(断髪性菌)による感染が、格闘技などのコンタクトスポーツを行う患者さんで増加しています。
体幹や四肢に初発し、基本形は遠心性に拡大する環状の紅斑で、中心治癒傾向(病変部の真ん中あたりが自然に治ってくるように見える)があります。多くはヒト好性菌によりますが、動物好性菌による患者さんもいます。動物からの感染は顔面、頚部、前腕などの露出部に発症し、病変が多発する傾向が強いです。病歴から、動物などとの接触や格闘技などが感染の原因として考えられないときは、自分の爪白癬や足白癬から広がった可能性がありますので、足や爪の診察をさせていただくことがあります。
爪白癬(爪水虫)
第I足趾(おやゆび)次いで第V足趾(こゆび)に頻度が多く、爪の色や形の変化は様々です。爪が厚くなる、白く濁る、剥れる、凸凹するなどの変化があります。
図1.爪白癬を合併した足白癬
診断
最も重要なのは病変部に真菌である皮膚糸状菌の存在を証明することです。顕微鏡でカビを確認することで診断します。
具体的には鱗屑や水疱蓋、爪、毛などを採取してKOH(水酸化カリウム)直接鏡検法で隔壁を有する菌糸や分節した胞子を確認します。
図2.KOH直接鏡検法で確認された皮膚糸状菌
炎症症状が強い患者さんや、菌種を特定する必要のある患者さんに対しては、爪、角質、毛などを培地にまいて培養します。慶應義塾大学病院皮膚科では培養後3~4週間程度で原因菌の同定を行い、原因菌の同定から感染経路を推定します。動物好性菌であれば原因動物の治療を獣医師にご紹介します。
図3.培養されたTrichophyton rubrum(紅色菌)
治療
外用治療
足白癬、体部白癬ともに、治療開始前に接触性皮膚炎、湿疹、細菌の二次感染の有無を判断し、合併していればまずそちらの治療を行います。
爪や毛に症状がない場合はまず外用治療を開始するのが一般的です。外用抗真菌剤は1日1回、病変部より広めに外用します。
重要なことは、自己判断で外用を終了せず、担当医の指示に従って正しく外用することです。
最近、爪白癬に対する保険適用のある外用薬が処方可能になりました。早期の爪白癬や表面のみ白く変色する爪白癬が対象です。
内服治療
ケルスス禿瘡という、毛が抜けてしまう白癬や、一般的な爪白癬(爪の表面が感染して白くなったタイプは除く)に対しては内服治療が一般的です。1日1回内服を3か月から6か月行う薬剤と、パルス療法といって1週間内服して3週間休薬することを3回行う薬剤があります。合併症や内服薬の有無、ライフスタイルに合わせて、患者さんごとに治療の選択をします。内服開始前後と経過中に肝機能・血液検査を定期的に行います。
どちらの治療も時間と費用を要するものですので、正確な診断に基づく必要があります。
爪変形を生じる疾患の約半数は爪白癬といわれていますが、診断が不正確ではいくら内服しても改善しません。
外科的治療
爪甲に楔型の模様が入ったように見える患者さんは外来にてニッパーなどを使用して混濁した爪を開窓し、外用治療の併用がしやすいような工夫を行います。
生活上の注意
患部は清潔を保ち、湿気の防止を心がけてください。入浴や石鹸の使用は問題なく、むしろ入浴後の外用を勧めます。毎日趾間と足底をよく洗浄してください。ただしゴシゴシと強く洗うと角層を傷つけ、新たな感染の機会を生み出すことになるので注意が必要です。
同じ靴を毎日履かないこと。職場で靴を履き替え、靴は乾燥させ足に合ったものを選びます。爪は正しく切り、深爪には注意しましょう。爪白癬を合併しているときは、こちらを確実に治療しておくことが重要です。再発、再感染を防ぐために家族全員で治療することが重要です。
慶應義塾大学病院での取り組み
皮膚科では、毎月第2週木曜日14時から「真菌外来」で専門的に診察しております。
さらに詳しく知りたい方へ
- 水虫は1ケ月で治せる!―爪水虫も3ケ月で治せる! / 仲 弥著 東京 : 現代書林, 2004.6
一般の方向けの内容。以前真菌外来を担当していた仲弥先生が分かりやすく書いています。 - 日本皮膚科学会
新しい白癬の流行に関する最新の情報が書かれています。
文責:
皮膚科
最終更新日:2021年9月3日