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物質関連障害

ぶっしつかんれんしょうがい

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概要

物質関連障害とは、本来は生体内には存在しない物質(アルコール・危険ドラッグ・覚醒剤など)が体内に入り、脳に影響を及ぼすことによって生じる精神障害です。これは大きく二つに分けられます。一つは、物質の直接の影響で生じる特異的な精神神経症状(物質中毒)、もう一つは、その物質を使用することがコントロールできず、過度に使用したり違法に使用する状態(物質依存)です。急性の物質中毒による危険運転事故がニュースを騒がせており、社会問題となっています。また、物質依存は患者さんの健康状態を悪化させるのみならず、周囲に与える影響がとても大きい疾患です。わが国のアルコール依存症患者数は、2013年の厚生労働科学研究による推計で107万人でした。他の物質については調査が困難なため詳細なデータは得られていませんが、近年、危険ドラッグおよび睡眠薬(処方薬)の依存が増加傾向にあります。

病因

依存症の要因として、依存性物質の長期使用後に生じる、「報酬系:ホウシュウケイ」と呼ばれる脳の関連領域(側坐核:ソクザカク、腹側被蓋野:フクソクヒガイヤ、など)での変化が示されています。さらに、神経伝達物質や受容体の研究も進んでおり、これら生物学的要因で依存症が生じていることは十分に示されています。加えて、「脳の病気」だけではなく、心理的な要因や社会・環境的な要因も大きく影響しています。

心理的な要因として提唱されている理論の一つに「自己治療仮説」があります。心理的苦痛を一時的に緩和するために物質が使用されるが、物質使用の結果かえって苦痛が強まりさらなる物質使用が促進される、というものです。物質依存者が抱えている生きづらさや苦悩と物質使用とが悪循環になるのです。さらに、物質依存者は「援助を求める傾向の乏しさ」が特徴的です。一般に心理的苦痛は、言葉で表現されることで軽減しますが、物質依存者の場合には周囲に助けを求めようとはせず、心理的苦痛がたまっていきます。心理的苦痛が蓄積している状態では、依存物質がもたらす苦痛の緩和効果を自覚しやすく「報酬」としての効果も大きい、と考えられています。

症状

物質中毒の症状は、原因物質によって異なりますが、不安・不眠・鎮静・ふらつきなどの軽度なものから、抑うつ・錯乱・幻覚妄想・意識障害・健忘など重度なものまであります。治療は、当然ながら物質の中止です。症状は一過性ですむこともありますが、後遺症が残ることもまれではありません。

一方、物質依存の症状は、物質によらず共通しています。長期に物質を使用したことで耐性がつき、さらには、止めなければならないことは十分にわかっているにもかかわらずその物質を使用してしまったり、一度使用すると適度なところで止めることができず過度に摂取してしまうなど、物質を使用することについてのコントロール障害が症状の中心です。その結果、自身の身体健康の問題のみならず、職業的、経済的、家庭的な多くの問題を引き起こします。そのような大きな問題があるにもかかわらず止めることができなくなっています。

治療

物質依存の治療について述べます。現在の医療水準では、物質を適度に使用できるように治癒することは困難であり、治療としては依存性物質を使用しないことに尽きます。"治療意欲が初めから十分にある"という依存症患者さんはめったにいませんが、まずは治療を開始することです。しかし、本人が物質依存に関連する問題を否認したり、治療開始を渋ることもしばしばみられます。そのときには、家族が躊躇せずに専門機関(医療機関や精神保健センター、保健所)に相談をすることで、治療につながることもあります。

本人が治療を開始したのち、継続した断酒・断薬治療を行うにはどのような方法があるでしょうか。強制的な隔離や、本人の我慢、だけでは不十分と考えられています。たとえ長期間隔離されていたとしても、再び使用可能な状況になると再使用し、もとの依存状態にもどってしまいます。また、我慢・意志の力だけでは、せいぜい数か月しかもちません。そこで、治療およびリハビリテーションとして、さまざまな手法を組み合わせることになります。一般的な手法は以下の通りです。

(1)長期的なフォローアップ
(2)物質使用欲求をわずかでも減らす薬物療法
(3)自助グループ(依存の問題を抱える方の当事者グループ)や家族会
(4)専門家による指導や認知行動療法

変化と維持

依存症患者さんの行動は突然修正されるものではなく、一連の段階を経て変化していきます。この過程を説明するにあたり、5つの変化の段階モデルがあります。

前熟考期 → 熟考期 → 準備・決心の段階 → 実行する段階 → 修正された行動を維持する段階

このモデルを参考にすることにより、依存行動を変化させる患者の準備段階を見極めて、その必要性に応じて治療に取り組むことで、患者さんの治療に対する協力の度合いが増すことが知られています。

"専門病院での入院治療だけで完治する"ということはなく、退院後に長期間のリハビリが必要になります。治療の中心は、患者さんが集まるグループミーティングです。さらには個人療法などを組み合わせ、患者さん本人が主体的にリハビリテーションに取り組むことで、物質を使用しない生活を作り上げ、維持していくことができるでしょう。

さらに詳しく知りたい方へ

  • アルコール依存症から抜け出す本 / 樋口進監修 東京 : 講談社, 2011.5 健康ライブラリー. イラスト版 ; 健康ライブラリー
  • ぼくらのアルコール診療 : シチュエーション別。困ったときの対処法 / 吉本尚 [ほか] 編集 東京 : 南山堂, 2015.6
  • よくわかるSMARPP : あなたにもできる薬物依存者支援 / 松本俊彦著 東京 : 金剛出版, 2016.2
  • CRAFT薬物・アルコール依存症からの脱出 : あなたの家族を治療につなげるために / 吉田精次, 境泉洋著 東京 : 金剛出版, 2014.11

文責: 精神・神経科外部リンク
最終更新日:2017年1月24日

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