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心臓腫瘍

しんぞうしゅよう

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概要

他の臓器と同様に、心臓にも腫瘍が発生します。頻度的には、全剖検例の0.1%以下とまれな疾患で、そのうちの約70%が良性腫瘍、30%が悪性腫瘍といった割合です。良性腫瘍の中では、最も多いものが粘液腫で良性腫瘍の約半分、全心臓腫瘍の3割強を占めます。したがって心臓腫瘍というと、まず粘液腫を考えます。これは粘液状の基質が豊富に存在する腫瘍で、見た目は赤茶色のゼリー状の腫瘍です(図1)。女性が男性より2~3倍多く、有茎性(ゆうけいせい)で心臓内のどこにでも発生しますが、左心房に発生するものが4分の3を占めます。家族性に発症するものが約5%あり、その場合は若年男性、多発性、再発が多いのが特徴です。

粘液腫以外の良性腫瘍には、脂肪腫、乳頭状弾性線維腫、横紋筋腫、線維腫、血管腫、房室結節中皮腫、奇形腫などがあります。形態的にもそれぞれ特徴があり、例えば乳頭状弾性繊維腫は、絨毛構造を持つため、体内ではイソギンチャクに似た形態で存在しています(図2)。良性腫瘍なので腫瘍自体が生命に危険を及ぼすことはありませんが、腫瘍の発生部位によって心機能に影響したり、腫瘍の一部が壊れてそれが塞栓症の原因となったりする場合があり、原則として腫瘍は切除するのが治療の原則です。

悪性腫瘍には、原発性のものと転移性のものとがありますが、原発性の悪性腫瘍は、悪性中皮腫、肉腫、悪性リンパ腫がほとんどです。いずれも予後不良で、悪性中皮腫は若年成人に発症することが多く、1年以内に死に至ります。肉腫、悪性リンパ腫は、右心房がよく発生する部位で、中年以降に発症し、肺、縦隔(じゅうかく)に高率に転移します。切除、放射線療法、抗がん剤による化学療法のいずれもあまり効果はなく、予後が改善したという治療法の報告はほとんどありません。

転移性心臓腫瘍とは、心臓以外の他臓器原発悪性腫瘍の心臓への転移のことですが、全悪性腫瘍の10~20 %が心臓へ転移するといわれています。原発巣としては、肺がん、乳がん、悪性リンパ腫、白血病などが挙げられます。原発性悪性腫瘍の心臓、心膜転移率を見てみると、例えば肺がんのうち何%位が心臓へ転移するのか、という問題ですが、白血病、悪性黒色腫で40~50 %、甲状腺がん、肺がん、肉腫で30 %、乳がん、悪性リンパ腫、食道がん、腎臓がんで20%程度と考えられています。

図1

図1

図2

図2

症状

症状の主なものは、腫瘍占拠に伴う血流障害と塞栓症(そくせんしょう)です。粘液腫の場合は左心房に発生することが多く、腫瘍が大きくなり、血流を障害するようになると、僧帽弁という、左心房と左心室の間の扉を塞ぐことで僧帽弁狭窄症 外部リンク(そうぼうべんきょうさくしょう)と似た症状が出現します。すなわち、失神、めまい、息切れなどです。体位によって症状変化が認められ、立位では、重力に従って粘液腫が僧帽弁に向かって引き込まれるため、僧帽弁を通過する血流が障害され、症状が出現します。状態によっては、腫瘍が僧帽弁口にはまり込んだまま動かなくなり、血流が遮断され突然死を来します。血流障害に伴う症状以外では、粘液腫の30~50 %に腫瘍の一部が壊れて血流に乗って飛んで行き、塞栓症を起こすといわれています。この場合、約半数が中枢神経系の塞栓症を起こします。塞栓症の可能性は粘液腫以外の腫瘍でも存在します。前述の乳頭状弾性線維腫では、絨毛内に血栓ができやすく、大動脈弁に発生した乳頭状弾性線維腫では、血栓が冠動脈内へ入り心筋梗塞を起こすこともあります。

診断

腫瘍の存在そのものは、心エコー検査やCT検査(図3)などで容易に分かります。特に心エコー検査では、体に負担をかけずに腫瘍と心機能との相関が分かるので非常に有用な検査であるといえます。しかし、質的診断、すなわち腫瘍の種類に関しては単純な血栓を含め、鑑別が困難なこともあり、切除して初めて診断がつく場合もあります。

図3

図3

治療

手術による切除が原則です。腫瘍を小さくするような薬物は今のところ存在しません。ただし、手術といっても、心臓の中の操作になるので簡単に切除はできません。通常は人工心肺という心臓と肺の肩代わりをする機械を使い、心臓を一時的に停止させ、心臓内に血液のない状態にしてから心臓を切開し腫瘍を切除することになります。心停止下の全身の循環は、人工心肺という機械にゆだねられることになり、これに伴う脳梗塞、肺障害、多臓器機能低下、血液凝固異常、免疫能低下などの合併症の危険が存在します。

生活上の注意

良性腫瘍で完全に切除できた場合、術前の心機能や肺機能にもよりますが、たいていの場合は通常の社会生活が可能です。生活、運動制限もありません。粘液腫の場合、5~10%程度に再発があるとされており、定期的な心臓超音波検査による経過観察が必要です。

慶應義塾大学病院での取り組み

当院では、できるかぎり患者さんの体に負担が少なく、術後の回復が早く、生活の質の向上を目指した手術方法を患者さん一人一人に検討して手術に臨んでいます。腫瘍が右心房か左心房に存在する場合には、通常の心臓手術で行う胸骨正中切開という、胸の真ん中を縦に切る皮膚切開を行わず、右肋間開胸で手術を行っています(低侵襲心臓手術)。この方法では、右乳房下縁に沿って皮膚切開するので傷が目立たず、また胸骨切開を行わないため、術後の回復が早く、早期に社会復帰が可能です。

さらに詳しく知りたい方へ

慶應義塾大学病院心臓血管外科 外部リンク(患者さん向け)

文責: 心臓血管外科外部リンク
最終更新日:2019年1月28日

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