概要
厚生労働省の「人口動態調査」によると、2017年の我が国の死因別死亡数で最も多かったのが悪性新生物(がん)で、総死亡数の約30%を占め、次いで心疾患、脳血管疾患がそれに続きます。がんの部位別にみると、2017年(男性)のデータでは、肺がん、胃がんに続いて、大腸がんは第3位であり、死亡率(人口10万対)は45.0でした。さらに死亡者数、死亡率ともに胃がんは減少していますが、肺がん、大腸がんは一貫して増加傾向にあります。男女別にみた大腸がんの2017年度の死亡数は、男性では第3位、女性では第1位となっています。
症状
大腸がんは、早期がんの場合は症状が全くないことがほとんどで、検診により、偶然発見される例が大部分を占めます。進行がんでは、がんができる部位によって、症状が異なります。左側結腸・直腸では、腸内容物が固形となっており、また病変部が肛門に近いために、血便・粘血便として認識されやすくなります。また、下痢と便秘を繰り返すような、排便習慣の変化やしぶり腹(便意があるのに便がほとんど出ないか少量のみであり、1度トイレに行っても再び便意を催す)がみられます。これに対し、右側結腸では、腸内容物が液状であるために、通過障害を来しにくく、このため一般的に病気が進行してから見つかることが多いのが特徴です。腹痛や腫瘤触知(しこりに触れる)といった症状を呈することもありますが、貧血を指摘されるまで、何の症状もないことがしばしばあります。
診断
【直腸指診(ちょくちょうししん)】
大腸がんを疑う患者さんだけでなく、直腸・肛門疾患で来院した患者さんに、まず外来で行う診察法です。下部直腸の進行がんでは、直腸指診だけでほぼ診断がつくといってもよいほど、重要な検査(診察)です。
【注腸造影(ちゅうちょうぞうえい)】
肛門から大腸内にバリウムと空気を注入し、大腸のX線撮影を行う検査です。注腸造影ではポリープを切除したり、がんの組織診断などはできません。しかし、過去に手術の既往などがあり、癒着が強い場合、内視鏡検査では一番奥の盲腸まで内視鏡が届かない場合がありますが、注腸造影ではこのような場合でも盲腸まで検査できることがほとんどです。内視鏡と注腸とどちらか一方で済ませたい場合は、内視鏡検査を受けるようにします。
【大腸内視鏡検査(だいちょうないしきょうけんさ)】
肛門から大腸の中に内視鏡(ファイバースコープ)を入れて行う検査です。この検査では、同時に病理組織診断のための生検(組織を耳掻き一杯ほど採取すること)を行うことができ、がんの確定診断ができます。またポリープがあれば、その大きさや形にもよりますが、同時に切除することもできます。欠点としては、お腹の中に癒着があったり、腸が長いとファイバースコープが盲腸まで到達しないことがあります。また個人差もありますが、ファイバースコープを挿入する際、痛みを訴える人もいます。もちろん、多くの施設では鎮痛剤や鎮静剤を使いますので、眠っている間に検査が終わることがほとんどです。
【胸・腹部・骨盤CT(きょうふくぶこつばんCT)】
肝転移、肺転移の検索や、直腸がんの骨盤内浸潤の検索のために行う検査です。
【腹部超音波(ふくぶちょうおんぱ)(エコー)】
主に肝転移の検索のために行う検査です。
【MRI】
磁気を利用した検査で、無痛です。CTと同じように、横になってドーム状の機械に入って撮影します。CTと異なるのは、体の輪切り(横断面)の写真だけでなく、縦断面の写真も得ることができます。微小肝転移の診断や、直腸がんの膀胱や子宮、仙骨への浸潤の状況などを診断するのに適しています。
上記以外にPET(Positron emission tomography: 陽電子断層撮影法)を行う場合もあります。
ステージ分類
我が国では「大腸癌取り扱い規約第9版」に基づいたステージ分類が、進行度の分類に用いられています(表1、図1)。ステージ分類は、0からIVまであり、がんの壁深達度(どれくらい深く進行しているか)、リンパ節転移の有無、遠隔臓器転移の有無(肝臓、腹膜、肺などへの転移)により決定されます。大まかにMがんはstage 0, SM, MPはstage I、SSより深いものはstage II、リンパ節転移があればstage III、遠隔臓器転移があればstage IVとなります。
表1. 壁深達度
M |
癌が粘膜内にとどまり、粘膜下層に及んでいない |
---|---|
SM |
癌が粘膜下層までにとどまり、固有筋層に及んでいない |
MP |
癌が固有筋層までにとどまり、これを越えていない |
SS |
癌が固有筋層を越えて浸潤しているが、漿膜表面に露出していない |
SE |
癌が漿膜表面に露出している |
図1. 壁深達度
治療
大腸がんの治療法は、進行度(ステージ)に応じて異なっており、大まかには図2のようになります。
【内視鏡的治療(ないしきょうてきちりょう)】
Stage 0およびIの一部(粘膜下層への浸潤が軽いがん)に対しては、内視鏡により、切除を行います(内視鏡的粘膜切除:EMR, endoscopic mucosal resection)。
また、最近では内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD: endoscopic submucosal dissection)も行っています。
【腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)】
お腹に小さな孔を数ケ所あけて、腹腔鏡という内視鏡を用いて行う手術です。実際には病変部の腸を取り出すために、数センチの傷は残りますが、非常に小さいです。傷が小さいほかに、術後の痛みが少ない、癒着が少ない、出血が少ない、入院日数が短いなどのメリットがあります。デメリットとしては手術時間がかかる、技術が必要である、手で触れることができないなどがあります。Stage Iに対しては、そのほとんど全例が腹腔鏡下手術で行われます。Stage II, IIIに対しても、大腸がんの部位により腹腔鏡下手術を行っています。
【Stage IVに対する治療】
大腸がんが、すでに遠くの臓器に転移している状態ですが、その程度は様々です。一般に、大腸がんの原発巣(もとからある大腸がん)と転移したがんの両方とも安全に取り切れるならば、両方とも手術を行います。
転移したがんは取りきれないものの、大腸がんが原因で出血や腸閉塞などの症状があれば、大腸がんのみ取り除くか、人工肛門を作ります。そして、患者さんの体力があれば、化学療法(抗がん剤)や放射線療法を行います。
図2. 大腸がんのステージ別治療方針
慶應義塾大学病院での取り組み
当院では、Stage 0(Mがん)に対して、内視鏡的粘膜切除(EMR)だけでなく、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)も積極的に行っています。
Stage Iに対しては、ほぼ全例腹腔鏡下手術を行っています。また、Stage II, IIIに対しても、積極的に腹腔鏡下手術を行っています。日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG: Japan Clinical Oncology Group)のメンバーとして、数々の臨床研究に参加しています。
その他、直腸がんに対しては、できるだけ肛門を残す手術を行っています。
さらに詳しく知りたい方へ
- 大腸がん / 小平進編
大阪 : 医薬ジャーナル社, 2008.8 - 大腸癌治療ガイドライン(大腸癌研究会)
- 日本臨床腫瘍研究グループ (JCOG)
文責:
一般・消化器外科
最終更新日:2019年7月19日