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腱損傷と靭帯損傷

けんそんしょうとじんたいそんしょう

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屈筋腱損傷

  1. 屈筋腱とは
    屈筋腱(くっきんけん)は、手指と前腕に存在する屈筋とをつなぐ組織です。指を屈曲させる指屈筋腱(しくっきんけん)と手関節を屈曲させる橈側手根屈筋腱(とうそくしゅこんくっきんけん)、尺側手根屈筋腱(しゃくそくしゅこんくっきんけん)、長掌筋腱(ちょうしょうきんけん)があります。人差し指から小指の指屈筋腱にはDIP関節(第1指節間関節)を屈曲させる深指屈筋腱とPIP関節(第2指節間関節)を屈曲させる浅指屈筋腱の2本の屈筋腱があり、母指にはIP関節(指節間関節)しかないため、IP関節を曲げる長母指屈筋腱という1本の屈筋腱があります。屈筋腱は腱鞘(けんしょう)という鞘の中を滑走します。腱鞘には骨から離れないように靭帯性腱鞘と呼ばれる強靭な線維部と柔らかい膜性腱鞘があり、靭帯性腱鞘は中枢側からA1、A2、A3、A4、A5と呼ばれます。
  2. 屈筋腱損傷が生じると
    屈筋腱は指の末節骨から前腕遠位3分の1程度まで腱が存在し、次第に筋へ移行していきます。指屈筋腱が断裂すると指の屈曲ができなくなります。具体的には深指屈筋腱が切れるとDIP関節の屈曲ができなくなり、浅指屈筋腱が断裂するとPIP関節の屈曲力が低下します。手関節の屈筋の1つが断裂しても、症状は比較的わずかです。
  3. no man's land
    手指で屈筋腱損傷が生じると、手の外科専門医はその部位をZone 1からZone 5に分類します。中節骨中央以遠をZone 1、中節骨中央からMP関節までをZone 2、中手骨中央までをZone 3、手根管部をZone 4、前腕をZone 5に分けています(図1)。特にZone 2には深指屈筋腱と浅指屈筋腱の交叉(腱交叉 Chiasma)部があるため(図2)、この部位での屈筋腱損傷は浅指屈筋腱、深指屈筋腱の双方の損傷を意味します。その複雑な走行から縫合手術後に高率に癒着を生じ、術後成績が良くなかったことから、No man's land(誰も触ってはいけない部位、手の外科専門医以外は触ってはいけない)としてよく知られています。縫合技術の向上した現在では手の外科専門医はもちろん、よくトレーニングされた整形外科医であれば手術加療が可能になっています。
  4. 屈筋腱損傷の治療
    屈筋腱の部分断裂の場合には保存療法が可能です。腱自体の連続性があるので、3週程度のギプス固定、隣接指を屈曲肢位にするtension reducing positionでのギプス固定は腱の癒着を防止できます。Tension reducing positionは慶應義塾大学病院整形外科の鴇田が報告したギプス固定肢位で、腱に緊張が加わりにくいため、固定中に断裂が生じにくいとされます。
    屈筋腱が完全断裂すると筋側断端は前腕の指屈筋に引っ張られ、断裂部位よりも中枢に引き込まれてしまうため、手術治療が必要になります。ループ状の糸を用いて縫合する津下法、ループ糸を2本用いるdouble Tsuge法は良く知られた縫合法です。腱縫合部にCore sutureを何本の糸を通せるかで、2本の場合にはtwo strands(津下法やKessler変法、Kirchmeier法など)、4本の場合にはfour strands(double Tsuge法)、6本の場合には6 strands縫合(吉津法、Tsai法)と呼びます(図3)。一般的には腱内を通す糸の本数が多ければ多いほど強固な縫合法といえますが、たくさん糸を通す方が技術的に困難です。縫合部周囲には連続縫合や結節縫合で細い糸をかけて断端をスムースにします。断裂から時間が経過している例では修復が難しいため、長掌筋腱を用いた腱移植術が行われます。一般的に縫合術よりも成績が劣ります。No man's landではかつては待機の上、深指屈筋腱のみの腱移植術が行われていましたが、縫合技術の進歩により修復術が盛んに行われ、最近では深指屈筋腱と浅指屈筋腱の両方を同時に縫合することが行われるようになりました。
  5. 後療法
    指屈筋腱損傷の治療では縫合法以外に後療法が特徴的です。小児や協力が得られない患者さんの場合には3週間のギプス固定後に自動可動域訓練を行いますが、この方法は成人では縫合腱の癒着を生じやすいといえます。特にNo man's land(Zone2)での屈筋腱損傷では深指屈筋腱と浅指屈筋腱の癒着が生じやすいため、ゴムの力を利用し、自動伸展時には屈筋にほとんど力が加わらないことを利用し、屈曲はゴムの力で、伸展は自動で術直後から運動を行わせる早期運動療法が良好な腱縫合術の成績を修めるために必要です。代表的な早期運動療法にはKleinert法があります(図4)。
  6. 腱縫合術後に癒着を生じた場合には
    運悪く、縫合した屈筋腱に癒着を生じた場合には、縫合術後3~6ケ月程度で腱縫合部周囲を展開し、癒着部位を剥離する腱剥離術を行います。
図1.屈筋腱損傷のZone分類

図1.屈筋腱損傷のZone分類
Zone 2がno man's landに相当する。胴部位には腱交叉が存在する。

図2.腱交叉

図2.腱交叉
ちょうどZone2部で浅指屈筋腱(FDS)と深指屈筋腱(FDP)が交叉する部位があり、腱交叉(Chiasma)と呼ぶ。同部位での腱断裂は高率に癒着を生じる。

図3.様々な腱縫合法

図3.様々な腱縫合法

図4.腱縫合後の早期運動療法(Kleinert法)

図4.腱縫合後の早期運動療法(Kleinert法)
指の屈曲はゴムの張力で行うため、縫合腱に力がかからない。伸展は伸筋による自動伸展で行い、過度な張力が縫合腱にかからないように手関節のextension blockを設置する。

伸筋腱損傷

  1. 損傷しやすい部位
    伸筋腱が断裂すると手指が伸びなくなります(正確には伸びにくくなります)。最も伸筋腱が断裂しやすい部位はDIP関節(いわゆる第1指節間関節)背側で、突き指をした場合に生じます。DIP関節が強屈曲位をとることが多く、槌指といわれます。腱実質で断裂する場合と末節骨の裂離骨折を伴う場合があり、前者を腱性槌指(mallet finger tendon origin)、後者を骨性槌指(mallet finger bony origin)と呼びます。その他では橈骨遠位端骨折後に手関節(手首のこと)背側で長母指伸筋腱が断裂する場合、リウマチなどで尺側(小指側)から伸筋腱が次々に断裂する場合、PIP関節(いわゆる第2指節間関節)で中央索が断裂するボタン穴変形が挙げられます。その他、鋭利な刃物などで外傷を受けた場合にはどの部位でも伸筋腱断裂が生じます。
  2. 槌指の治療
    腱性槌指の治療は原則的に保存療法です。指先のみに熱可塑性プラスチックを用いて装具を装着するか、シーネ固定を行います。約5週間の固定が必要です。保存療法が無効な場合には腱縫合術を選択します。骨性槌指の場合には基本的には骨癒合が正しい位置で得られれば腱損傷も治癒したことになります。Extension block pinをDIP関節背側から中節骨に挿入し、これに骨片を押し付けるように骨折部を整復し、DIP関節を仮固定する方法(石黒法)は簡便で良好な成績が得られます。
  3. 腱縫合
    伸筋腱が実質部で断裂している場合には腱縫合が選択されます。水平マットレス縫合や津下法に準じた縫合法が選択されます。
  4. ボタン穴変形の治療
    ボタン穴変形は伸筋腱中央索の断裂により基節骨骨頭と中節骨基部が屈曲変形し、腱の間から骨が飛び出して首絞めされるような状態になり生じます。腱の間から骨が出てきている様子がボタンの穴からボタンが半分出ている様に似ているためボタン穴変形と呼ばれるようになりました。治療法は中央索の修復ですが、長期に経過してから来院される方が多いので、terminal tendonを切離し中央索を再建するMatev法がよく用いられます。
  5. リウマチ手での伸筋腱断裂
    リウマチの場合に長期の経過を経て伸筋腱断裂に至る例が多いため、一次修復は困難で、腱移行術か腱移植術が選択されます。慶應義塾大学病院では腱移行術を行っています。テーピングを利用して、早期に運動療法を行うことで指の拘縮や腱縫合部の癒着を生じずに手指の伸展屈曲が可能になります。

靭帯損傷

  1. 手の靭帯損傷
    手の靭帯損傷で重要なものとして、母指MP関節(中手指節間関節)の尺側側副靭帯断裂、小指PIP関節の橈側側副靭帯断裂、肘関節内側側副靭帯損傷などが挙げられます。
  2. 母指MP関節尺側側副靭帯損傷
    母指MP関節尺側側副靭帯の断裂は、よく損傷が見られるスポーツからskier's thumb、game keeper's thumbと呼ばれます。母指先端を引っかけて受傷することが多く、新鮮例では母指MP関節の疼痛と腫脹を受傷から時間が経過した例では人差し指とのつまみ操作や物をつかむ際に母指が抜ける感じを訴えます。
    受傷後すぐであればギプス、テーピングなどの保存療法が選択される場合が多いのですが、不安定性が大きい場合には靭帯が翻転してしまうStener lesionを形成することがあり、手術治療を必要とします。靭帯の縫合法は橈側(親指側)へのpull out縫合、suture anchorを骨に打ち込んで縫合する方法などがあります。陳旧例では断裂して退縮した靭帯をよく伸ばして縫合できる場合もありますが、一般的には長掌筋腱を用いて靭帯自体を作り直す再建術が選択されます。
  3. 小指PIP関節橈側側副靭帯損傷
    小指を引っかけて受傷する例が多い外傷です。隣接環指とbuddy tapingを行う保存療法が選択される例が多いのですが、実際には次第に小指PIP関節が尺側に転位するため手術を必要とする例が多いと考えられます。受傷後間もない例では靭帯縫合術を、受傷から時間が経過した例で縫合不可能な場合には長掌筋腱を用いて再建手術が行われます。

文責: 整形外科外部リンク
最終更新日:2018年3月8日

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