概要
加齢による頚椎の変形を基盤とし、神経の通り道である脊柱管が狭くなり、脊髄が圧迫される病気です。さらに加齢による頚椎の不安定化が存在する場合には動的な圧迫が脊髄に加わり障害を増幅させます。
症状
頸部や背部の痛みに加えて、上肢の痛みやしびれ、感覚・筋力の低下が生じます。頚髄の障害の特徴的な徴候として、手指巧緻運動障害があります。日常生活動作では、箸が使いにくい、袖のボタンが上手くかけられないなどが障害として現れます。手指巧緻運動障害の評価法に10秒テストがあり、10秒間でグーパーを繰り返し、その回数が20回以下であった場合、巧緻運動障害ありと診断します。その他の頚髄の障害としては痙性の歩行障害(歩行がぎこちない、スムーズに脚が運べないなど)や膀胱直腸障害(頻尿・開始遅延・失禁)などがあげられます。
診断
診断で最も大切なのは患者さんを診察した神経所見です。画像所見はあくまでも補助診断ですが、単純X線では頚椎の変性の程度や脊柱管前後径の評価を行います。神経所見から頚椎症性脊髄症が疑われた場合には、MRIを行い確定診断を行います(図1)。
図1
治療
軽度のしびれ、感覚障害、痛みならば消炎鎮痛剤、ビタミン剤などの内服、頸椎装具の装着などの保存療法を行います。しかし、症状が進んでしまい、頚髄の障害が出現した場合、すなわち、手の使いにくさ(箸の使いにくさ、字の書きにくさ、ボタンの留めづらさなど)、歩行困難や排尿排便の障害などが出現し症状が進行性の場合、手術が必要になります。手術は大きく分けて前方固定術(図2)と後方から行う脊柱管拡大術に大別されますが、多くの患者さんで脊柱管拡大術が実施されます。脊柱管拡大術は日本で開発され、世界に広まっている術式ですが、当院では同門の平林先生により開発された片開き式脊柱管拡大術(かたびらきしきせきちゅうかんかくだいじゅつ)を長年行っており、長期に安定した成績を誇っております(図3、4)。最近では拡大した脊柱管の再狭窄を予防するため、インプラントを併用する試みを行っています。一方、前方固定術は圧迫部位が1または2ヵ所までで脊柱管が広い患者さんに適しています。詳しくは外来担当医にご相談ください。
図2
図3
図4
生活上の注意
日常生活において過度に安静する必要はありません。頚部を後屈(後ろに反る)する姿勢は、脊柱管が狭くなる傾向にあるため、出来るだけ避けていただくことを指導しています。
慶應義塾大学病院での取り組み
当院は片開き式脊柱管拡大術を開発した施設であり、これまでに多くの症例数の経験があります。近年では圧迫部位に限定した脊柱管拡大術を行っており、術後は装具なども使用せず、翌日から可能な限り起立歩行を開始し、1週間程度の入院で退院できるように努めています。
文責:
整形外科
最終更新日:2017年2月27日