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慢性閉塞性肺疾患のリハビリテーション

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概要

慢性閉塞性肺疾患(COPD: Chronic Obstructive Pulmonary Disease)とは、いわゆる肺気腫や慢性気管支炎といった名前で呼ばれる、気管支や肺が炎症によって障害される病気の総称です。この病気になると、肺胞や気管支の障害によって呼吸(酸素を取り込んだり、二酸化炭素を吐き出したりする)をうまくできなくなってしまうため、身体の中に酸素が足りない状態になってしまいます。身体を動かす(必要とする酸素の量が増えるということ)と、特にそれが現れやすくなるため、少し動くと息切れや息苦しさが出てきてしまいます。

慢性閉塞性肺疾患にかかってしまったときの治療としては、薬(吸入薬や飲み薬)が用いられます。症状が重症になり、血液中の酸素濃度が非常に低くなってしまったときには、持続して酸素吸入を行うことが勧められますが、リハビリテーション(以下リハビリ)も重要な治療法です。

慢性閉塞性肺疾患へのリハビリテーションの重要性

近年、慢性閉塞性肺疾患の患者さんに対するリハビリの効果については、米国国立心肺血液研究所(NHLBI: National Heart, Lung, and Blood Institute)と世界保健機関(WHO)による慢性閉塞性肺疾患のためのグローバルイニシアティブ(GOLD :Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)で、リハビリが有用だとの証拠が示されています。米国呼吸循環リハビリテーション協会(AACVPR: American Association of Cardiovascular and Pulmonary Rehabilitation)の呼吸リハビリテーションガイドラインにおいても、リハビリは強く推奨されており、我が国でも関連学会からガイドラインが示されています。

慢性閉塞性肺疾患へのリハビリテーションの目的

慢性閉塞性肺疾患の患者さんは、動くと息切れを自覚するので、動くのがおっくうになり、日常生活で安静にしていることが多くなります。ただ、そうすると、筋力が弱くなってしまい、持久力も低下します。そのことによって、さらに同じように動いたときに、必要とする酸素の量が増えてしまうので、軽い動作でも息切れが生じやすくなってしまいます。これを息切れの悪循環と言います(図1)。それを防ぐ、あるいはまた身体の動きを良くしていくのがリハビリの目的です。

図1.息切れの悪循環

図1.息切れの悪循環

診断

慢性閉塞性肺疾患の患者さんは、日常生活動作においてエネルギー消費(酸素消費)量の多い動作、つまり身体の動きが激しい動作(階段を上ったり、早足で歩いたり、スポーツや家事)は、もちろん息切れを起こします。しかし、エネルギー消費はそれほど大きくなくても呼吸困難を生じる動作もあります。

酸素消費量がそれほど多くなくても息切れを生じる動作としては、おなかに力が入ってしまうために、息がしにくくなる前屈みの姿勢で行う動作や、無意識に息を止めてしまう(息こらえをしてしまう)洗顔や食事、排便動作などです。そのほかにも、腕を挙げて行う動作、髪を洗ったり、かぶりの服を着たり、歯を磨いたりという動作でも、息切れを起こすことが知られています。

日常生活動作を工夫して、息切れを減らすためには、まず、その方がどのような動作によって息切れを生じるかということを確かめる必要があります。そして、どの動作にも共通する以下のポイントを押さえた上で、さらに具体的な、その動作に対する指導を行います。

  • 動作開始前に、休んでしっかりと呼吸を行う
  • 動作をゆっくり、呼吸に合わせて行う
  • 動作と動作の間に休みを入れる
  • 無駄な動作は省く、動作の方法を変えてみる
  • 無理な姿勢を避けるために、椅子などを使用する

なぜその動作によって息切れが起こるかということが分かれば、例えば、靴下を履くときに、前屈みになることを避けるために、足を上げて靴下を履くなどの工夫をすることができます。

治療

  • ストレッチ
    慢性閉塞性肺疾患の患者さんでは、呼吸を行うときに用いられる呼吸筋が固くなってしまうことが多いです。そうすると、呼吸するときにうまく筋肉を動かせなかったり、肺が十分に広がらなかったりするので、息切れの原因となります。そのため、呼吸筋の柔軟性を保つために、呼吸筋のストレッチを行います。
  • 呼吸法
    息苦しくなると、息を吸うことばかりに一生懸命になってしまい、十分に息を吐かないことがよくみられます。吐かずに吸うばかりでは、どんどん肺が膨らんでしまい、かえって呼吸がうまくできずに、息苦しさが増加します。
    これを避けるために、息を吐くことを意識した呼吸法の練習を行います。いわゆる口すぼめ呼吸といわれる呼吸法は、口を小さくすぼめて息をゆっくり吐き、しっかり吐ききった後で鼻から息を吸います。吐く時間は、吸う時間の3~5倍かけて行います。1分間に10回程度のゆっくりとした呼吸を意識します。
    そのほかにも、腹式呼吸や動作に合わせた呼吸などのトレーニングを行います。
  • 日常生活動作訓練
    日常生活動作には、息苦しさを起こしやすい動作があります。それらの動作を工夫することによって、息切れを少なく行うことができるようになるので、その工夫などについて指導します。日常生活動作に関しては、次の項で説明します。
  • 筋力増強訓練
    前述のように、過度の安静によって動かないでいると、足腰が弱ってしまう、いわゆる廃用による筋力低下を生じます。筋力が低下すると同じ動作をしても、必要な酸素量が増えるために、息苦しさが強くなります。そのため、筋力を鍛える訓練を行うことが必要です。筋力はいわゆる足腰の足の筋力だけでなく、腕や腹筋などの筋力も鍛えることが重要です。なぜなら、腕や腹筋は呼吸を行う際に使われる筋肉なので、それらが弱くなると呼吸をする力が弱くなってしまうからです。
    筋力増強訓練をどれくらいの強さ(負荷)で行うか、何回程度繰り返すのか、どれくらいの頻度で行うかは、その方の身体の具合によって様々です。そのため、身体の機能の評価を行って、その方に応じたプログラムを考えます。
    筋力増強訓練を行う際に気をつけなくてはならないのは、力を入れる動作を行うときに息を止めてしまうことが多いので、呼吸はゆっくり続けながら筋力訓練を行います。
  • 持久力訓練
    持久力をつけるための運動は、いわゆる有酸素運動といわれるものです。しっかりと酸素を取り込みながら歩いたり自転車をこいだりすることで、運動能力を上げることを目的に行います。
    運動の強さは、歩く速さや自転車のペダルの重さ、自転車をこぐ速さによって決まります。あまり強すぎる運動では十分な酸素を取り込むことができなくなり、有酸素運動ではなくなります。また、逆に弱すぎる(楽すぎる)運動では運動能力を上げる効果が出にくくなりますので、適切な運動の強さを設定することが大事です。適切な運動の強さは、その方の運動能力を測定する検査を行ってから決定するのが正式なのですが、その検査を行わなくても、年齢や身体の状態から、目標の心拍数(1分間の脈拍数)をある程度は決めることができます。また、運動中の自覚としては、「ややきつい」けれど30分くらい続けられる、という強度が目安となります。

いずれの訓練に関してもリハビリ訓練として行いますが、継続することが重要ですので、医療機関に通い続けて行うというよりも、ある程度の指導を行い習得していただいたところで、患者さんご自身の普段の生活に取り入れていただくことが大切です。

慶應義塾大学病院での取り組み

慢性閉塞性肺疾患の患者さんに対するリハビリは、世界中で行われ、たくさんの研究によってその有効性が示されています(図2)。しかし、筋力・持久力トレーニングには多くの種類があり、また強度や頻度なども様々です。どのようなトレーニング法が一番効果的かということは、まだ分かっていません。もちろん、高強度のトレーニングを長時間、高頻度で行えば効果は出ると考えられます。しかし、きつい運動では息切れが生じ、また継続することが難しいと予想されます。続けることができる範囲での、効率的なトレーニング法を確立するためには、さらなる研究が必要とされています。

慶應義塾大学病院リハビリテーション科では、呼吸器内科からの依頼で、慢性閉塞性肺疾患の患者さんのリハビリを行っています。その方の肺の状態や、心臓の状態、ほかの病気の状況によって、行うリハビリの内容は違いますし、運動を行う際には慎重に行わなくてはならない場合もありますので、患者さんの身体状態などを全般的に評価し、その方に合ったリハビリプログラムを立てさせていただいています。入院・通院リハビリ終了後も、ご希望により定期的に外来にて運動耐容能(体力)の評価を行っています。そして、少しでも息切れを感じる機会を減らして、日常生活で身体を動かし、外出や趣味を楽しんでいただきながら、身体の機能を維持していただくことを目標にしています。

図2.リハビリテーションの効果

図2.リハビリテーションの効果

さらに詳しく知りたい方へ

文責: リハビリテーション科外部リンク
最終更新日:2021年9月28日

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