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膝靱帯・半月板損傷

ひざじんたい・はんげつばんそんしょう

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概要

膝関節は自由度の高い関節であり、人体の複雑な動きに対応する上では有利ですが、骨格形態上で安定している股関節や足関節に比べて、靱帯機能が失われると様々な機能障害を来しやすいため、正確な診断に基づき適切な治療方針を立てることが重要です。膝を構成する靱帯は、局在から以下のように分類することができます。

関節内靱帯  

前十字靱帯(anterior cruciate ligament; acl)
後十字靱帯 (posterior cruciate ligament; pcl)

関節外靱帯  

内側側副靱帯(medial collateral ligament; mcl)
外側側副靱帯(lateral collateral ligament; lcl)


一般的に、関節内靱帯(特に前十字靱帯)は関節内に露出しているために血行に乏しく、周囲組織からの修復機転があまり期待できません。靱帯を構成する細胞の増殖能や代謝能も低いために、治癒能力が低いことが証明されています。一方で、関節外靱帯である側副靱帯は、関節内靱帯に比して治癒能力が高いため、単独損傷の場合には装具療法や活動度の制限により、スポーツ活動の上でも問題がないレベルまでに回復することが多いです。しかし、側副靱帯損傷が十字靱帯損傷と合併する複合靱帯損傷の場合もあり、やはり正確な診断が重要です。以下、十字靱帯(特に前十字靱帯)を中心に解説します。

前・後十字靱帯の機能

前十字靱帯は後十字靱帯と交叉して関節内で走行する靱帯です。大腿骨に対する下腿の前方への制動、膝への捻り動作に対する回旋安定性に寄与します。実際にこの靱帯が機能する具体的動作として、ジャンプの着地、走行中の方向転換、急なストップなどスポーツ活動に伴う動作が挙げられます。一方、後十字靱帯は大腿に対する下腿の後方への制動する作用の他に、屈曲の誘導や膝の過伸展防止など、生理的な機能が主な機能です。

どのような状況で前十字靱帯を損傷するか?

サッカー、ラグビー、バスケットボール、バレーボール、スキーなどの膝に負担がかかるスポーツ種目で、ドリブルやステップ、ジャンプの着地などの動作において損傷します。他のプレーヤーによるタックル、他のプレーヤーの足を踏んで膝を捻るなどの接触型損傷もあります。患者さんは「膝がはずれた」、「膝の中で音がした」などと表現することが多いです。

どのような場合に病院を受診するべきか

膝を捻って関節痛が出現した場合には、整形外科を受診してください。また、痛みが我慢できる範囲でも膝関節が腫れている場合には前十字靱帯損傷の可能性があるために要注意です。他院で納得のいく説明がなかった場合にはMRIと紹介状を持参の上、慶應義塾大学病院(以下、当院)の膝関節専門医による外来(整形外科では、月曜の午前または金曜の午前)を受診ください。

どのように診断するか?

膝の靱帯損傷を疑う場合には、関節内血腫の有無や関節安定性を診察で調べるほかに、レントゲン写真やMRIなどの画像検査を総合して判断します。身体所見上では、急性期症例の多くで関節内血腫がみられます。逆に、外傷性関節内血腫がみられる症例のうち70~80%が前十字靱帯損傷であるとも報告されています。また、関節安定性を調べる診察でも十分に診断可能です。X線検査では、靱帯損傷から1ヶ月経過後にみられる骨の変形や、前十字靱帯損傷に合併することが多い関節近傍の裂離骨折(いわゆる剥離骨折)の有無などを確認します。MRIは靱帯の連続性を確認する上で非常に有用です。多くの場合、大腿骨側で断裂します。また、損傷時の膝関節亜脱臼に伴い、大腿骨外側前方および下腿骨外側後方に骨同士の衝突による骨挫傷変化(骨の中の腫れに伴う変化)がみられます。また、靱帯損傷に伴う半月板損傷の有無も判別可能です。

治療方針

前十字靱帯損傷と診断された場合には膝関節専門医の受診が必要です。競技レベルあるいはレクリエーションレベルにかかわらず、スポーツを楽しみたい患者さんには手術(靱帯再建術)の適応があります。各種膝装具が販売されていますが、十字靱帯損傷の場合には、関節の安定性にあまり効果がないと報告されています。手術を要する理由として、前十字靱帯が機能しない場合には、関節の不安定性(特に回旋不安定性)が失われ、後に半月板や膝関節面の軟骨を損傷することが多くの論文で報告されていることが挙げられます。これら半月板や関節軟骨が損傷されると修復は非常に難しく、放置した場合には将来的に変形性膝関節症が発症することも証明されています。その一方で、スポーツをしない場合にはまず保存的治療が適応されますが、女性の場合には他の靱帯組織や関節包に負担がかかり、後に日常生活で膝くずれ感が発症することもあり要注意です。いずれにしても、膝関節専門医とよく相談することが必要です。

どのような再建術が適応されるか?

前十字靱帯の手術法は、日々進化・進歩しつづけており、当院でも現状で最先端の手術を行っていますが、今後も一層の進歩が期待されます。従って、現在の手術法が理想的というわけではなく、いまだに克服されていない問題点もあります。当院では患者さんにより高いレベルで満足いただけるよう、理想に向かって様々な工夫をしています。
前十字靱帯は大腿骨と下腿骨の異なる平面上に付着しており(付着部がねじれの位置)、靱帯は捻れて走行していますので、便宜的に前内側線維束と後外側線維束の2本に分けることが可能です。当院を含めて、国内外における膝関節外科の先駆的施設では2線維束に対して、それぞれ独立した骨孔を作成して再建する2重束再建術が施行されています。その理由は、元々の解剖学的形態により近似させることができること、生体力学的研究や臨床研究により、従来法に比してより良好な安定性を獲得できることが報告されたからです。
再建材料も将来的に改良あるいは革命的進歩の余地があるジャンルです。当院を含めて国内外においては、患者さんご本人からハムストリング腱(膝を屈曲する際に機能する筋肉の腱)や膝蓋腱を採取して移植して再建することが多いです。一方、米国では遺体からこれら組織が採取されて販売されており(同種移植)、患者さんの組織を犠牲にしない点で人気があります。また、日本やヨーロッパでは人工靱帯も正式に認可され使用されています。自家組織の場合には組織が犠牲になる点とスポーツ復帰に約9ヶ月(最近、先駆的施設ほど復帰時期を遅らせています。)を要することが欠点ですが、安定した成績を期待できます。歴史的には、まず膝蓋腱が頻繁に使用されてきました。生物学的な安定性には優れていますが、手術後に膝前面部痛や大腿四頭筋萎縮が残存することがあるために現在ではあまり使用されなくなっています。ハムストリングは現在最も頻用(約75%)されていますが、再建ルート内(骨孔)において安定するのに時間を要することが克服すべき課題として報告されています。人工靱帯の場合にはリハビリテーションが早いという利点がありますが、より正確な手術を要します。当施設ではそれぞれの再建材料の特性を活かすように、すなわち使用する再建材料の利点を最大限に活かし、欠点を最小限にするよう手術手技やリハビリテーションプラグラムを繊細に調整することで、患者さんにより高いレベルでご満足いただけるよう努力しています。楽しみたいスポーツの種目やレベル、スポーツ復帰時期などを明確に伝えて膝専門医とよく相談することが重要です。

半月板損傷

半月板の機能

半月板は、関節軟骨と異なりコラーゲン線維が豊富な線維軟骨から構成され、重要な機能である衝撃吸収能を維持する上で有利です。その他に、半月板は互いに形状が異なる大腿骨と下腿骨間を半月板を介してうまく適合させる点で、関節の安定性にも寄与しています。関節の潤滑性にも関与していると報告されています。このように半月板は重要な作用を有していますが、1度損傷されると血行に乏しいために治癒能力が低く、後年になって膝関節機能障害を来すことが報告されています。半月板損傷に対しても適切な診断と治療が重要であることは明らかです。

半月板損傷の症状

スポーツ外傷や交通事故などの外傷、仕事や日常生活などで膝を捻った際に損傷し、膝関節痛や腫脹を生じます。断裂範囲が大きい場合には、膝関節内に断裂半月板が嵌頓(かんとん:飛び出して元に戻らない状態)して、膝関節の伸展が不可能になることがあります(ロッキング)。

半月板損傷に対する診断と治療方針

外来で施行可能な、体に負担の少ない検査の中ではMRIが最も有用です。断裂の検出感度は約95%です。半月板損傷に対する治療方針の決定上で重要な点は、前十字靱帯など他の靱帯損傷との合併の有無、損傷してからの時期、そして損傷部位です。前十字靱帯損傷に続発した場合には前十字靱帯損傷に対する再建術を考慮すべきです。また、半月板は軟骨であり、血行に乏しく、わずかに半月板辺縁に毛細血管が存在しているだけですので、血行のある辺縁部断裂の場合に半月板縫合術の適応になり、その場合には可及的早期、できれば受傷後3週以内に縫合することが治癒機転上で有利です。半月板の変性や摩耗が著しく、嵌頓に伴う痛みや関節可動域制限を来している場合には、最小限の半月板切除を行います。スポーツ復帰には縫合術を適応した場合には4ヶ月前後、切除術の場合には切除範囲により2ヶ月前後を要します。

文責: 整形外科外部リンク
最終更新日:2018年3月8日

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