概要
慶應義塾大学病院臓器移植センターでは、子どもから大人まで肝移植が必要な患者さんに最新治療を包括的に提供する体制を整えております(図1)。胆道閉鎖症、原発性硬化性胆管炎、肝芽腫、Wilson病、自己免疫性肝炎、劇症肝炎、代謝性疾患などを対象に肝移植を行っており、治療でお困りのお子さんから成人の方まで、多くの患者さんの治療にあたっています。これまで350例以上の生体・脳死肝移植を行ってきました(図2)。
図1.慶應義塾大学病院における肝移植チーム医療
図2.肝移植数
肝移植とは?
肝移植とは、障害を受けた肝臓あるいは疾患のある肝臓を摘出し、提供された健康な肝臓と置き替えることです。 小児においては、胆道閉鎖症などで肝臓の状態が悪化して肝硬変、肝不全となった場合や、先天性の代謝異常疾患、自己免疫性疾患、切除不能肝芽腫などに対して治療の一つの選択肢として行われます。
日本肝移植学会の報告によれば、国内では2020年末までに10,418例の肝移植(生体肝移植9,760例、脳死移植658例、心停止移植3例)が行われています。18歳未満の小児肝移植は3,493例でした。現在、年間100例程度の小児肝移植が施行されています。
日本では小児の肝移植は生体肝移植がほとんどであり、一般的にドナー(提供者)はご両親のいずれかであることが多く、健康状態や肝臓の状態など十分な検査を行った後に、肝臓の一部(患児のからだに応じて切除範囲は異なります)が移植されます。2010年の改正臓器移植法の施行後、脳死臓器提供数も徐々に増加してきており、さらには小児優先ルールの適応もあり、今後は小児においても脳死肝移植が増えてくるものと考えられます。
肝移植の準備
レシピエントとドナーともに専門のコーディネーターが準備を丁寧にサポートいたします。緊急時では1週間以内で準備を整えることもありますが、通常は余裕をもって1か月程度かけて精査を進めます(図3)。
図3.生体肝移植の準備プロセス
手術方法
小児肝移植では主に肝臓の左側の一部が使用されます。肝臓の提供を受ける人(レシピエント)と肝臓を提供する人(ドナー)の肝臓の体積に応じて移植する肝臓の種類を決定いたします。たとえば、特に体の小さな乳児では肝臓全体の約1/4~1/5程度である外側区域が選択されます。下図の黒のラインに沿って、肝臓が切離されることが一般的です(図4)。
図4.提供される肝臓の種類
体の小さな乳児では図の赤の部分が選択される。
当院ではドナーの方への体の負担を最小限にする試みで、腹腔鏡を用いたグラフト採取術を取り入れております。ドナー手術の詳細は以下をご覧ください。
肝移植「3.ドナーについて」(慶應義塾大学医学部一般・消化器外科 肝胆膵・移植班)
ドナーの方から取り出された肝臓は、肝臓を受け取る側(レシピエント)に移されて、肝臓の出口の血管(肝静脈)、肝臓の入口の血管(門脈と肝動脈)、最後に胆汁の通り道である胆管をつなぎ合わせることで完成します(図5)。
図5.肝移植の手術
手術後経過
個人差はありますが、手術後1~2週間は集中治療管理、その後一般病棟で約1~2か月の入院期間が必要になります(図6)。退院後初期は、1~2週間間隔で通院していただきますが、徐々に間隔を伸ばすことが可能です。術後1年以降は1~3か月間隔の通院でほぼ通常の生活ができるようになります(図7)。
図6.左:術後1~2週間入室する集中治療室、右:その後1か月程度入院する一般病棟
図7.肝移植後の一般的経過
肝移植の成績は年々向上してきており、慶應義塾大学病院での小児肝移植では5年生存率は92.4%(胆道閉鎖症などの胆汁うっ滞性疾患では5年生存率96.3%)であり、全国平均の87.7%と比べても成績が良好です(図8)。
図8.小児肝移植の成績
成績を左右する主な要因は、手術前の体の状態、他人の臓器が移植されることにより引き起こされる拒絶反応と拒絶反応予防のために使用する免疫抑制剤の影響で体の抵抗力が落ちることによる細菌や真菌、ウイルスなどの感染症です。術後の拒絶反応予防に使用する免疫抑制剤は原則として一生飲み続ける必要があり、採血による肝機能のチェックや免疫抑制剤の量の調節などを外来通院で継続的に行っていきます。
慶應義塾大学病院での取り組み
当院臓器移植センターの取り組みの特徴は、定期的に肝臓の組織検査を行って、採血だけでは判別できない肝組織線維化の検出、抗ドナー抗体(提供された肝臓への攻撃因子)の詳細な解析、新規バイオマーカーを用いた免疫抑制剤最適化の研究など、長期の成績維持に力を入れていることです。 また、幼少期に移植を受けられて成人になられた方、他施設で移植を受けられた方のフォローも積極的に受け入れております。
さらに詳しく知りたい方へ
肝移植に関して分からないことや心配なこと、もっと詳しく聞きたいことなどありましたら、pediatric-surgery-group[at]keio.jp([at]は半角@に書き換えてください)にてご相談ください。
文責:
小児外科
最終更新日:2022年12月23日