概要
急性虫垂炎は、乳児から高齢者まで幅広い年齢層で下腹部痛の原因となりうる疾患として最も一般的です。進行が早く、破裂して腹膜炎という症状を呈することも珍しくありません。
病因
虫垂内腔の閉塞と考えられています。この閉塞部に細菌が侵入して感染が成立し(カタル性虫垂炎)、虫垂の蜂巣炎から壊死・穿孔そして腹膜炎に至る経過がこの疾患の病態と推察されています。閉塞の原因として何らかの理由でできる便の固まりが指摘されることがあり、「糞石(ふんせき)」と呼ばれます。
症状
ほとんどの患児は、初発症状として腹痛を訴えます。右下腹部以外の腹痛は虫垂の炎症から惹起された関連痛と考えられていますが、実際に胃腸炎を合併していることもあります。腹痛が強い場合には、触診所見の推移、超音波検査で病状把握に努めます。
右下腹部の圧痛のみでは、虫垂炎だけではなく、ほかの疾患も鑑別する必要があるので、血液および超音波検査を実施します。治療方針を決定するのに最も有用な画像診断は超音波検査ですが、肥満が強い患児や腸管内ガスが多い患児にはCT検査を実施します。
超音波検査では、探触子(プローブ)の圧迫による当該部位の圧痛と、虫垂の直径が6mm以上であったときに本症と診断します。虫垂の直径が10mm以上、膿瘍形成、腹腔内液貯留のいずれかの所見がみられたときには、可及的すみやかな手術治療が必要です。CT検査でも超音波と同様の所見で治療方針を決定します。
治療
腹膜刺激徴候がみられ、汎発性腹膜炎を疑う場合には、速やかに手術を行います。場合によっては抗生剤加療にて経過観察する場合もあります。汎発性腹膜炎に続発しショックや多発性膿瘍形成に至るようなケースでない限り、一般的には生命的危険度は低いとされます。
腹腔内膿瘍を形成していない場合は、虫垂切除術のみで手術は終了します。腹腔鏡下虫垂切除術であれば、このようなケースは術後3~4日で退院可能です。
小児では、抗生剤治療を1度行い、炎症を抑えた後に予防的に腹腔鏡下虫垂切除を行うことも推奨されています。この方法は炎症の強い腹痛がある際に緊急で行う手術とは異なり、予定で行うため、手術のリスクが少なく、安全でほとんどの場合に術後3~4日で退院可能となります。
膿瘍形成が見られた場合には、膿瘍を体外に誘導するドレーンを留置する場合があります。この場合、炎症反応が完全に改善してからの退院となります。炎症反応が完全に収まるまで、抗生剤による治療が必要です。腹腔内膿瘍が治りきらないと、退院後にそれが再燃する(遺残膿瘍)場合があります。
文責:
小児外科
最終更新日:2020年10月15日