概要
神経ブロック療法とは、神経周囲や神経内に局所麻酔薬を注入して神経に一時的な麻酔をかけたり、高周波の熱やアルコールで長期間(数か月から数年)神経を麻痺させたりする治療法です。局所麻酔薬による一時的な神経の麻酔を繰り返し行うことで痛みを徐々に軽減できる場合があります。 局所麻酔薬は、限られた時間しか作用効果がないものです。しかし、神経ブロックを行うと、局所麻酔薬の作用が消失する時間を超えたと思われる時点でも、鎮痛効果が続くことがあります。痛みが生じると交感神経(こうかんしんけい)が興奮し、血管が収縮します。血の巡りが悪くなると、組織の酸素が不足し、代謝物質が溜まります。酸素不足や代謝産物により、ますます痛みは増幅します。神経ブロックは、こうした痛みの悪循環を断ってあげることで、鎮痛効果が長続きするのだと考えられています。その効果は痛みの原因や痛みが出る部位によって異なります。
ブロック療法の合併症は行う部位により多少異なりますが、共通することとしては出血や感染の可能性や、神経のすぐそばに注射するため、神経そのものを傷つけてしまう可能性もわずかですがあります。
また、血をさらさらにする薬を内服していたり、血液検査の結果で血が固まりにくい方、感染しやすい方などは、一部の神経ブロックを行えない場合があります。疾患によっては神経ブロックを全く行うことができない場合もありますので、施行できるかどうかはペインクリニック担当医とよくご相談ください。
慶應義塾大学病院麻酔科で行っている神経ブロックの主なものは次の通りです。
治療
星状神経節(せいじょうしんけいせつ)ブロック
頚部の交感神経節(こうかんしんけいせつ)へのブロック注射です。仰向けになって、のどの近くに針を刺す方法です。頭、顔面、頚部、肩、腕の痛みに対して行うことが多いブロックですが、顔面神経麻痺や網膜の血流が悪くなる病気などで行うこともあります。注射の後、一時的に声がかすれたり、まぶたが重くなったりします。ごくまれですが、血のかたまりが生じて息苦しくなるなどの副作用もあるため、ほかの治療法より効果や利点が大きい場合に行います。
トリガーポイントブロック
筋肉内に固く触れる部位を圧迫すると、強い痛みが特定の場所に広がることがあり、圧迫で痛みを生じた部位をトリガーポイントといいます。この部位に局所麻酔薬を注射します。頚部や肩、腰の痛みに行います。
三叉神経ブロック
三叉神経痛など顔面の痛みに行います。三叉神経(さんさしんけい)の枝は3本あるので、三叉神経ブロックも症状に応じて選択する必要があります。
硬膜外ブロック
頚部から臀部(でんぶ)まで、背骨がある場所で行われます。背中から背骨の中に針を刺し、脊髄(せきずい)の外側の空間(硬膜外腔:こうまくがいくう)に局所麻酔薬を注射します。様々な病気に行われますが、よく行われるのは椎間板(ついかんばん)ヘルニアや頚椎症性神経根症(けいついしょうせいしんけいこんしょう)、腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)などです。
腕神経叢(わんしんけいそう)ブロック
頚椎症性神経根症や胸郭出口症候群で生じる肩や腕の痛みに行います。超音波で頸椎から出てくる神経の束(腕神経叢)の位置を確認しながら頚部の横から針を進め、神経のごく近くに局所麻酔薬の注入を行います。
坐骨(ざこつ)神経ブロック
横向きやうつぶせで、臀部の深いところを走っている坐骨神経のすぐ近くに注射をします。電気による神経刺激を用いて神経の走行を探します。坐骨神経痛に行います。
神経根(しんけいこん)ブロック
頚椎症性神経根症、坐骨神経痛、帯状疱疹後神経痛などで、原因となる神経が限定されている場合や、硬膜外ブロックが有効でない場合に行います。確実性と安全性のために、レントゲンの透視下(とうしか)でブロックします。局所麻酔薬や抗炎症薬(ステロイド)を注入し、神経の炎症を抑えます。
腰部交感神経節(ようぶこうかんしんけい)ブロック
腰部の交感神経は、腰椎の前方に左右対になって走っています。この部分の交感神経をブロックすることで、主に下肢の血管を拡張し血流を改善します。このブロックは、レントゲンで腰部の交感神経節の位置を確認しながら針を進め、アルコールを用いて交感神経を遮断します。この部位で、交感神経が遮断されると、下肢の血管が拡張し血流がよくなります。また、交感神経が過剰に興奮することで生じている痛みを軽くすることができます。下肢閉塞性動脈硬化症、バージャー病、レイノー症状、複合性局所疼痛症候群(CPPS)、足底多汗症などで、このブロックが有効な場合があります。
文責:
麻酔科
最終更新日:2021年8月17日