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心電図からカテーテル治療の要否を判断するAIの開発
後藤信一、佐野元昭(循環器内科)

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研究の背景と概要

心臓は心筋と呼ばれる筋肉でできており、全身に血液を送り出すポンプとしての役割を担っています。心臓が活動するために必要な酸素と栄養を供給する血管(冠動脈)には、年齢とともに「悪玉コレステロール」を主とした脂質(プラーク)が沈着していきます。このプラークが破けて、冠動脈内に血の塊(血栓)が急にでき、血液の流れが非常に悪くなったり、血管が完全に詰まったりしてしまうために起こる現象が急性冠症候群(注1)です。

中でも急性心筋梗塞(注2)は、心筋壊死が急速に進行していく病態であり、栄養や酸素の供給がなくなった領域の心筋細胞は時間とともに壊死していきます。そのままでは、ポンプ機能が不十分なために起こる心不全、不整脈による突然死、心臓の壁に穴が開いてしまう心破裂等の、命にかかわる事態に陥ります。しかし、早期に血流を再開させることができれば、それ以上の壊死の拡大を防止し、心臓の機能を維持できます。したがって、急性心筋梗塞発症から血流再開までの時間を可能な限り短くすることが、非常に重要です。

急性心筋梗塞の最終的な検査には、手足等の動脈から心臓近くまで細い管を挿入し、患部画像を映し出すカテーテル検査(注3)が用いられます。カテーテル検査を行えば、心臓の血管が詰まっているかどうかを実際に見て確認することができ、治療の必要があれば、そのまま治療できます。血流再開を急ぐため、救急の現場では、心臓の血管に病変がある可能性が高ければ、カテーテル検査に進みます。

しかし、血管に器具を挿入するカテーテル検査にはリスクがあり、胸痛を訴える患者さん全員にやみくもに行うことはできません。本当にカテーテル治療が必要な患者さんを見分けるため、現在は経験を積んだ循環器内科医が、病歴、血液検査、心臓超音波検査等を勘案して総合的に診断しています。一方で、こうした医師の診断に必要な検査は、心電図に比べて非常に時間がかかるため、血流再開が遅くなる一因となっています。そこで本研究グループは、診断にかかる時間を最短にすべく、検査の実施が容易かつ数分で済む心電図のみで、カテーテル治療を必要とする患者さんを見つけ出す技術の開発を試みました。

研究の成果と意義・今後の展開

本研究において、時系列データパターンを学習する、新たなニューラルネットワーク構造を持つ人工知能(AI)を開発しました。作成したAIは、過去に慶應義塾大学病院の救急外来を受診した患者さん約4万人の心電図データをモデルに学習させることにより、心電図1枚から瞬時に高精度でカテーテル治療が必要な患者さんを見つけ出すことができました。

心電図は非常に短い時間(1/100秒程度)ごとに電圧を測定した結果を線グラフの形で表したもので、臨床ではその波形の異常を医師が見つけ出し診断に利用してきました。今回、心電図それぞれにつき、測定した電圧を順番に並べたデータ(時系列データ)を作成し、これに対して、実際にカテーテル検査を行い、冠動脈を広げる治療を行ったかどうか(カテーテル治療の必要性)を正解(教師値)としてAIに学習させました。70%を学習用とし、残り30%の学習では使用していないデータでこの学習済みモデルを検証したところ、80%以上の精度でカテーテル治療の要否を判定できることが確認されました。つまり、これまで経験を積んだ循環器内科医がカテーテル検査を含めた様々な情報を総合して判断していたことを、本技術によって、心電図が1枚あれば、80%以上の確率で再現できることになります。心電図は受診すればすぐに検査でき、結果は数分以内に得られます。本技術を心電計に搭載することによって、緊急的なカテーテル治療の必要性を即時的に判定し医師に提案することが可能になります。日本人死亡原因の第2位を占める心臓病による死亡を減少させ、健康寿命の延長にも貢献できると期待されます(図1)。

図1. AIによる治療の早期化


【用語解説】

(注 1)急性冠症候群
心臓に栄養や酸素を運んでいる冠動脈の内側に血栓が生じ、血管が詰まりかけた、もしくは、詰まってしまった状態を急性冠症候群と呼ぶ。

(注 2)急性心筋梗塞
急性冠症候群の中でも、冠動脈の内側が完全に詰まってしまい、血流が 途絶している状態を指す。心筋細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、心筋細胞が壊死してしまうため、死亡や心不全の原因になる。

(注 3)カテーテル検査
カテーテルと呼ばれる細い管を、手や足の動脈から挿入して冠動脈まで進める。造影剤をカテーテルから注射し、血管のどの部位が詰まりかけた、もしくは、詰まっているかを確認する。カテーテル検査で患部を確認後、風船を膨らませて血管を広げ、金属の筒をその部位に挿入・設置することで 血管を広げた状態に固定する治療を行う。

参考文献

Artificial intelligence to predict needs for urgent revascularization from 12-leads electrocardiography in emergency patients.
Goto S, Kimura M, Katsumata Y, Goto S, Kamatani T, Ichihara G, Ko S, Sasaki J, Fukuda K, Sano M. PLoS One. 2019 Jan 9;14(1):e0210103. doi: 10.1371/journal.pone.0210103. eCollection 2019.

循環器内科(佐野)研究グループのメンバー
(2列目左端:第一著者の後藤信一(循環器内科助教)、1列目左から3人目:佐野元昭(同准教授)

最終更新日:2019年6月1日
記事作成日:2019年6月1日

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