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がん免疫療法~免疫チェックポイント阻害薬~
-先端医科学研究所―

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がん免疫療法とは

がん細胞に対する免疫防御機構を強化してがんを排除する、がん免疫療法、特にキラーTリンパ球(T細胞)にがん細胞を攻撃させる免疫療法は、長年期待されていたにもかかわらず、明確な治療効果をなかなか示せませんでした。免疫は本来、病原菌やウィルスなど外から侵入する異物への防御機構として発達しており、自分の体、細胞を破壊しない特徴を持っています。がん細胞はもともと自分の細胞に遺伝子異常が起こり、無制限に増殖して体を破壊しますが、自分の細胞であるため、病原菌などの外来異物に対するような強い免疫反応は起こしにくいという事情があります。しかし、この10年間、T細胞上のPD-1やCTLA-4、あるいはPD-1に結合してT細胞を抑制するがん細胞上のPD-L1に対する阻害抗体(免疫チェックポイント阻害薬)の投与は、多くのがんで一定の割合(がんの種類によりますが、5-30%程度の奏効率(完全奏効(がんが見えなくなる)か部分奏効(がんが30%以上縮小する))で、抗がん剤などが効かなくなった患者さんにも治療効果を示すことが明らかになりました。

PD-1とCTLA4、それぞれの研究の先駆者である本庶佑京都大学教授とJames Allison教授(米国MD Anderson Cancer Center)は、受賞理由「Discovery of cancer therapy by inhibition of negative immune regulation」で2018年ノーベル医学生理学賞を共同受賞されました。本庶佑教授は2016年慶應医学賞受賞者でもあります。極めて基礎的な研究が多くのがん患者さんを助けることになったという点で、大学での基礎研究、そこからの臨床研究がいかに社会に還元できるかを示した大切な事例です。私たち大学人は、皆様と一緒に、さらなる研究・医療の発展のために日々精進したいと思います。

がん免疫療法としての免疫チェックポイント阻害薬

従来、がん免疫療法として、免疫賦活剤(めんえきふかつざい)、インターフェロンなどのサイトカイン、がんワクチンなどが試されてきましたが、これらは体の中でがんを攻撃する免疫を増強する、車でいえばアクセルをふかしてスピードを上げる方法でしたが、治療効果は一部の患者さんにしか見られませんでした。PD-1/PD-L1やCTLA4は、本来は自分の細胞に対して免疫が攻撃しないように(自己免疫反応)、あるいは病原菌などを排除した後に免疫反応が元に戻るようにするための免疫のブレーキです。がん細胞は、免疫を正常に保つためのブレーキを悪用して免疫防御機構から逃れています図1)。免疫チェックポイント阻害薬(PD-1/PD-L1やCTLA4を阻害する抗体)の投与は、車でいえばブレーキを外してスピードを上げる方法になりますが、予想以上に多くのがんで、進行がんであっても効くことが臨床試験で明らかになりました。

免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞を直接攻撃する従来の抗がん剤とは異なり、がんを攻撃するT細胞を活性化させて、間接的にT細胞によりがん細胞を排除するという、今までとは異なる仕組みで作用します。そのため、抗がん剤が効かなくなった進行がんでも治療効果が得られる場合があり、また免疫を活性化させるので、治療効果が持続する傾向があることが特徴です。現在、日本では約10種類(悪性黒色腫、肺がん、腎がん、胃がん、頭頸部がん、尿路上皮がん、悪性中皮腫、メルケル細胞がん、ホジキンリンパ腫など)のがんに対して承認が得られており、少し時間はかかりますが、これからもほかのがんで、続々と承認されていくと思われます。一方、全てのがんに使用できるわけではなく、また、皆に効くわけではないので、患者さんにおかれましては、自分のがんに適用できるのか、治療効果はどれほど期待できるのか、主治医とよくご相談ください。

免疫チェックポイント阻害薬の特有な自己免疫障害の副作用

免疫チェックポイント阻害薬は、免疫のブレーキをブロックするために、患者さんの遺伝子背景や環境因子も関係して、自分の体を攻撃してしまう自己免疫反応が副作用として起こることがあります。皮膚炎、甲状腺炎、肝炎、大腸炎など、様々な自己免疫反応による障害が起こりえます。中には、間質性肺炎、心筋炎、重篤な大腸炎など命にかかわる自己免疫性副作用も起こることもあり、免疫チェックポイント阻害薬投与後は、何が起こってもすぐに対処できるよう、医療関係者も患者さんご自身も十分な注意が必要です。自己免疫性副作用が起こっても、多くの場合は、早く診断して、抗体の中断やステロイドなどの免疫抑制剤の投与でコントロールすることが可能です。

免疫チェックポイント阻害療法の課題と展望:バイオマーカー、複合的がん免疫療法、T細胞利用養子免疫療法

免疫チェックポイント阻害薬も、開発当初は他のがん治療が効かなくなった患者さんで試され、それでも効果が得られたわけですが、免疫が元気な早い時期の方が、免疫療法はより効く可能性があり、悪性黒色腫や肺がんでは、患者さんによっては最初から免疫療法を使うことがすでに認められており、他のがんでも臨床試験で検討されつつあります。いつまで治療を継続すべきかについてはまだ十分に結論が出ておらず、今後の課題となっています。

免疫チェックポイント阻害薬の奏効率は5-30%程度で、残念ながら皆に効くわけではありません。患者さんのがんの免疫状態には、治療前からかなりの個人差があり、それが免疫チェックポイント阻害薬の効果に関係することが分かっています。このがん免疫状態の違いは、がん細胞の遺伝子異常の状態を主な原因として、患者さんの免疫体質(HLAタイプなどの遺伝子背景)、様々な環境因子(腸内細菌、喫煙、紫外線、食事、ストレスなど)によって左右されます(図1)。

図1. がんに対する免疫反応と影響する因子(がん細胞の遺伝子異常、免疫の遺伝的体質、環境因子)

図1. がんに対する免疫反応と影響する因子(がん細胞の遺伝子異常、免疫の遺伝的体質、環境因子)
免疫チェックポイント阻害薬が作用する仕組み

例えば、がん細胞の遺伝子に傷(DNA突然変異など)が多いほど、T細胞の標的となるがん抗原が多くなり、がんに対するT細胞が反応しやすくなります。しかし、がん遺伝子といわれるがん細胞の発生に重要な遺伝子の活性化は、逆に免疫が反応しにくい方向に働きます。将来は、患者さんごとにこれらの状態を調べて(バイオマーカー)、免疫チェックポイント阻害薬が効きやすいかどうかを早めに予測することも可能であると考えられています(図2)。

図2. がん免疫療法における重要課題

図2. がん免疫療法における重要課題

実は、免疫チェックポイント阻害薬の単独投与では、効かない患者さんの方が多いわけですが、治療効果を上げるために、一つは、他のがん治療薬や免疫調節薬を免疫チェックポイント阻害薬などに併用する複合的がん免疫療法が期待され、米国を中心に多数の臨床試験が進行中です(図2)。複合的がん免疫療法において、どの併用薬を用いるべきかは、がんの種類、同じがんでもサブタイプにより、さらに患者さんごとにそれぞれ異なると考えられ、将来はバイオマーカーを用いて、患者さんごとに適切な併用薬を用いる複合的がん免疫療法を使うことも可能になると考えられています。すでに複合的がん免疫療法として、悪性黒色腫と腎がんに対する抗PD-1抗体と抗CTLA4抗体の免疫チェックポイント阻害薬同士の併用が承認されており、肺がんでは化学療法剤と抗PD-1抗体の併用が米国で承認され、現在 進行中の臨床試験では、分子標的薬や放射線治療との併用などでも、一部、治療効果が上がる可能性が示されており、今後の臨床試験の最終結果が大変期待されています。

さて、DNAに傷が多く、T細胞の標的抗原を十分に持つ患者さんでは、免疫チェックポイント阻害薬単独、あるいは免疫反応を妨げている要因を減らす薬の併用(複合的がん免疫療法)によって治療効果が得られる可能性がありますが、T細胞の標的抗原が非常に少ない患者さんでは、免疫チェックポイント阻害薬では体内でがんを攻撃するT細胞を増やすことは難しく、その場合は、分子標的薬などの他のがん治療を行うか、免疫療法であれば、遺伝子を改変して人工的に作製した、強力にがんを攻撃できるT細胞を投与する方法(体外培養T細胞を用いた養子免疫療法)などが必要となります。その中で、B細胞由来の急性リンパ性白血病や悪性リンパ腫に対して、CD19抗原を認識するCAR(chimeric antigen receptor:キメラ抗原受容体)の遺伝子を血液から採取したT細胞に組み込んで作るCART細胞の投与は、抗がん剤が効かなくなった患者さんに対しても劇的な治療効果を示し、すでに米国では承認されており、日本でも今後の承認が期待されています。

まとめ

免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体(オブジーボ、キイトルーダ)、抗PD-L1抗体(テセントリク、イミフィンジ、バペンチオ)、抗CTLA4抗体(ヤーボイ))が、すでに複数のがんに対して日本で承認されていますが、患者さんの免疫状態により、皆に効くわけではないこと、従来の抗がん剤とは異なる自己免疫性副作用が起こること、将来的には、より早い時期での使用、効く患者さんを予測できるバイオマーカーの使用、より治療効果の高い複合的がん免疫療法や体外培養T細胞を用いる養子免疫療法の開発が期待されているということです。

がん免疫療法として、インターネット上には膨大な情報があふれていますが、その中には、効くのかどうか十分な証拠がないものも多く、ここに紹介した免疫チェックポイント阻害薬や、今後、承認が期待される特別なT細胞を使う養子免疫療法とは明確に区別して理解しておくことが重要です。

がん免疫療法を一層発展させて、多くの患者さんに使っていただくためには、まだまだ研究が必要な状況です。産官学連携で最新技術を用いて、患者さんの血液やがん、あるいは便などを解析する研究が必要ですが、特に日本に住んでおられる日本人での解析は、がん免疫状態を左右する遺伝子や環境因子が世界の人々とは少し異なる点で、今後、日本人で治療効果の高い免疫療法を開発していくためには重要です。将来、2人に1人がなるといわれているがんに対して、患者さんのご理解をいただいて、皆様と共に新しい治療法や診断法を開発していければと、切に願っております。

河上 裕(先端医科学研究所教授)

河上 裕(先端医科学研究所教授)

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文責:先端医科学研究所外部リンク

執筆:河上裕

最終更新日:2018年10月22日
記事作成日:2018年10月1日

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