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食道アカラシア

しょくどうあからしあ

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概要

口、喉と胃の間にある食道は筒の形をした文字通り、食べ物の通り道です。しかし食道は単なる筒ではなく「蠕動」とよばれる動きによって食べ物や飲み物を胃に運びます。また、食道と胃のつなぎ目(食道胃接合部)は空腹時は閉じていますが、食べ物や飲み物が喉を通ると筋肉が緩んで開き(弛緩)、食べ物や飲み物を通します。食道アカラシアのアカラシアとは『動かない』ことを意味するラテン語であり、食道アカラシアは食道の蠕動と胃食道接合部の弛緩の双方がうまくいかなくなる病気です。また、食道アカラシアは食道がん(扁平上皮がん)の危険因子と考えられています。

食道を始めとする消化管には神経が存在しており、食道アカラシアはこの神経が障害されることによって起こります。しかしながら、この神経が障害される原因は現時点では明らかになっていません。遺伝的な要素が関係しているという報告もあります。

症状

主な症状は、食道胃接合部の通りが悪いことに伴う、食後の胸のつかえ感で、ひどい場合は吐き気や嘔吐を伴うこともあります。げっぷ、胸焼けといった胃食道逆流症と同様の症状を呈することもあり、薬物が効きにくい患者さんの中には食道アカラシアの方が隠れていることがあります。そのため、有病率は10万人に1人といわれていますが、潜在的な有病率はさらに高いのではないかと考えられています。また、症状としては後ほど述べますが前胸部痛や心窩部痛を呈することもあります。

診断

上部消化管内視鏡では食道胃接合部の通りが悪いことに伴って、食道の拡張や液体、食物の貯留があります。また、内視鏡の通過が困難なこともあります。しかし、これらの所見は病気の進行に伴うものであり、初期の段階では上記のいずれも確認できないこともあります。
バリウムによる食道造影では食物残渣やバリウムの停滞、食道胃接合部が狭くなっているといった所見がみられます。また、食道の拡張がない直線型と著明な拡張がみられるフラスコ型に分類されています。
食道内圧測定は食道内にカテーテルを挿入して食道の動きを調べる検査です。従来は圧を測定するためのセンサーが5個程度でしたが、近年、25個以上のセンサーを備えたカテーテルによる高解像度食道内圧測定の開発に伴い、喉から食道、胃の入り口までの一連の動きを持続的に記録できるようになりました。高解像度食道内圧測定を用いた食道運動異常症の国際的診断基準としてシカゴ分類が提唱されています。シカゴ分類では食道アカラシアは3つのタイプに分類されています。食道が全く動かないタイプ(タイプ1)、食道の動きが少し保たれているが、機能的に有効な動きができないタイプ(タイプ2)、食道の動きが強すぎるタイプ(タイプ3)です(図1)。前述の上部消化管内視鏡や食道造影の所見はタイプ1では得られやすいのですが、タイプ2やタイプ3では得られにくいため、高解像度食道内圧測定を行って、初めて診断が得られることもあります。

図1.高解像度内圧測定によるアカラシアの分類

図1.高解像度内圧測定によるアカラシアの分類

治療

以下の治療が行われます。

  1. 薬物療法
    食道胃接合部の筋肉を緩めて、通りを良くするために硝酸剤やカルシウム拮抗薬といった薬物を投与します。しかし、これらの薬剤は本来、降圧薬として使用されるため、頭痛などの副作用が起きることがあります。

  2. 内視鏡的バルーン拡張術
    消化管内視鏡を用いて場所を確認しながら、狭くなっている食道胃接合部にバルーン(風船)を留置し、狭くなっている部分を広げます(拡張)。

  3. 筋層切開術
    上記の治療が効きにくかった場合、筋肉に切れ目を入れる筋層切開術が行われます。外科的治療として腹腔鏡下もしくは開腹手術で食道胃接合部の筋肉を切開する「Heller筋層切開術」と胃液逆流を予防する「Dor噴門形成術」を行う「Heller-Dor手術」と呼ばれる手術が行われます。また、内視鏡を用いて筋層切開術を行う経口内視鏡的筋層切開術(POEM:per‐oral endoscopic myotomy)が平成28年度より保険収載されました。海外で行われたPOEMとバルーン拡張の成績を比較した研究では、2年以内に再治療を必要とする確率はPOEMの方が低いこと、別の言い方をしますとPOEMの方が治療効果が持続することが報告されています。

生活上の注意

食道アカラシアの患者さんは食事中に食べ物がつかえて、つかえた食べ物が通過するまで、時間が経つのを待ったり、水を飲んで流し込む経験をされることが多いです。このような症状が長く続いて、食道アカラシアの可能性についての検査を受けられていない方は早めに医療機関を受診されることをお勧めします。また、上記のような症状を認める場合は通りが良い軟らかいものを食べたり、よく噛んで食事をとることをお勧めします。

慶應義塾大学病院での取り組み

当院では消化器内科、一般消化器外科、小児外科、放射線診断科といった消化器クラスターが円滑に連携して、食道アカラシアの診療にあたっています。診断においては36個のセンサーを備えた最新の高解像度食道内圧測定を導入し、上部消化管内視鏡や食道造影と組み合わせることで正確な診断に努めています。これまで、他院で薬物が効きにくい胃食道逆流症として治療されていた患者さんに対し、食道アカラシアの診断ができたケースもあります。また、治療につきましては上記の治療いずれも可能であり、症状や検査の所見に応じて選択していますが、最近は体への負担も少なく、治療効果が持続するPOEMが中心になっています。

文責:消化器内科外部リンク一般・消化器外科外部リンク
最終更新日:2022年4月1日

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