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リウマチ性多発筋痛症(PMR; polymyalgia rheumatica)

りうまちせいたはつきんつうしょう(PMR; polymyalgia rheumatica)

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概要

リウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica; PMR)は、50歳以上の高齢者に多く発症し、肩の痛み、体に近い側の肩や上腕、大腿などの四肢近位筋主体の痛みや朝のこわばりと、微熱、倦怠感を呈する炎症性疾患です。「リウマチ」という名前はついていますが、関節リウマチとは別の病気です。また、「筋痛症」とありますが、筋肉よりも肩関節の痛みが顕著にみられることが多いです。

男女比は1:2から1:3で女性に多く、発症年齢のピークは70-80歳とされていますが、病因は現在のところ不明です。なお、他の人に伝染する病気ではありません。
アメリカの報告では、50歳以上の人口10万人につき約740人(男性530人、女性930人)がリウマチ性多発筋痛症を有し、生涯のうち女性の2.4%、男性の1.7%が経験するとされています。さらに北欧ではそれ以上とも言われ、リウマチ性多発筋痛症は欧米では関節リウマチの次に多いリウマチ性疾患である一方、我が国での正確な調査は少なく情報は限られますが、50歳以上の人口10万人につき約1.5人と、海外と比べて少ないです。

巨細胞性動脈炎の合併

日本では少ないですが、欧米ではリウマチ性多発筋痛症の5-30%に巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)を、また逆に巨細胞性動脈炎の約半分にリウマチ性多発筋痛症を合併し、共通の病因が考えられています。リウマチ性多発筋痛症と巨細胞性動脈炎はともにHLA-DR4という遺伝子の或る特殊な型が関係していると言われています。また、発症や病状に季節変動が示唆されており、感染症などの環境要因が病気のきっかけを作るのではと言われていますが、明確な病因は不明です。

症状

肩の痛みが最も頻度が多く(70-95%)、次いで頚部・臀部(50-70%)、大腿の疼痛、こわばり感がみられます。症状は一般的に左右対称に出現し、特に腕を挙げたり、起き上がるなど、動作時に強くなる痛みが特徴的です。筋肉には圧痛がありますが、病気そのものによる筋力低下や筋の萎縮はありません。発症は比較的急速で、数日から数週間のうちに症状が出現し、持続します。
こわばりは、すべての患者さんにみられ、肩や臀部、大腿などに起床後最低30分は持続します。多くの場合、このこわばりは体を動かさずにじっとしていると強くなります。
また、発熱、食欲不振、体重減少、倦怠感、うつ症状などを伴うこともあります。

関節リウマチとは異なり、激しい関節痛や骨の破壊はまれなものの、約半数に膝や手の関節の腫れや痛みを伴う場合もあります。但し、関節よりも筋肉の症状が強いのが特徴です。また、手や足の甲、手首や足首に、押すとくぼんだままの圧痕が残るようなむくみを伴うこともあります。リウマチ性多発筋痛症の10-15%に手根管症候群を伴うことがあります。
最も典型的には、高齢者の方が、「ある日急に両腕が肩より上に挙げられなくなって、両肩から二の腕にかけてと太ももに筋肉痛がでてきた。症状は続き、特に朝に顕著なこわばりが出るようになって、着替えがしにくかったり、寝返りしにくいなど、体が動かしにくくなった」というようなものです。
なお、こめかみ周囲の頭痛、噛む時のあごの違和感、視力障害、38℃以上の発熱を伴っていれば巨細胞性動脈炎の合併も疑われますので、より詳細な検査が必要です。

診断

この病気を診断する上で大切なことは、まず症状からこの病気を疑うことです。また、関節リウマチ、RS3PE症候群、脊椎関節炎、筋炎、血管炎などの膠原病(こうげんびょう)・リウマチ性疾患や、頚椎歯突起周囲のピロリン酸カルシウム等の結晶沈着によっておこる偽痛風発作である軸椎歯突起症候群(crowned dens syndrome (CDS)、感染症、多発性骨髄腫やがんによる症状をこの病気と誤認しないことも大切です。この病気の診断をするために、いくつかの診断基準が存在し、そのうちよく使われるものの一つが以下に挙げるBird(バード)の診断基準です。

Bird(バード)の診断基準(1979年)

  1. 両側の肩の痛み、またはこわばり感
  2. 発症2週間以内に症状が完成する
  3. 発症後初めての赤沈値が40 mm/h以上
  4. 1時間以上続く朝のこわばり
  5. 65歳以上発症
  6. 抑うつ症状もしくは体重減少
  7. 両側上腕の筋の圧痛

上記7項目のうち3項目を満たすもの、もしくは1項目以上を満たし臨床的あるいは病理的に側頭動脈炎を認めるものをリウマチ性多発筋痛症とみなします(感度92%、特異度80%)。後述する治療薬のステロイドが著効した場合、その診断はより確実になります。

また最近、ヨーロッパリウマチ学会(EULAR)と米国リウマチ学会(ACR)が共同で暫定的な診断(分類)基準案を発表しました(表1)。

表1.EULAR/ACR リウマチ性多発筋痛症 暫定的診断(分類)基準案(2012年)
(Arthritis Rheum.64(4):943-54,2012から引用)

必要3条件:50歳以上、両側の肩の痛み、CRPまたは赤沈上昇。
さらに下記の点数表で、超音波を用いない場合(6点中)4点以上、超音波を用いる場合(8点中)5点以上でPMRと診断(分類)します。

項目

点数
(超音波なし)

点数
(超音波あり)

朝のこわばり(45分超)

2

2

臀部痛または動きの制限

1

1

リウマトイド因子陰性、抗CCP抗体陰性

2

2

他の関節に症状がない

1

1

1つ以上の肩関節に、三角筋下滑液包炎 もしくは 二頭筋の腱滑膜炎 もしくは 肩甲上腕関節の滑膜炎(後部または腋窩部)かつ1つ以上の股関節に 滑膜炎 もしくは 転子部滑液包炎

なし

1

両肩関節に、三角筋下滑液包炎 もしくは 二頭筋の腱滑膜炎 もしくは 肩甲上腕関節の滑膜炎

なし

1

(超音波なし:感度68%、特異度78%。 超音波あり:感度66%、特異度81%)

上記の暫定基準案は主に臨床研究のため作られており、そのまま実際の診断に用いるには限界があるので注意が必要です。また、今後さらに多くの症例での検討が必要です。

検査所見としては、血液検査でCRPや赤沈といった炎症反応を示す値の上昇があります。他の筋肉痛を来たすような膠原病で実際に筋肉の炎症が起きるような皮膚筋炎/多発性筋炎とは違って、筋酵素(CK)の上昇はありません。特別な「この検査が陽性であればリウマチ性多発筋痛症が確定です」と言えるような検査はありません。関節リウマチでみられるリウマトイド因子や抗CCP抗体、膠原病でみられる抗核抗体やその他の自己抗体が陽性となることは少ないです。そのため、上記の診断基準を参考にしながら、血液検査結果や身体所見、プレドニゾロンによる治療の反応性などから総合的に診断することになります。プレドニゾロン治療による改善が乏しい場合は巨細胞性動脈炎の合併など、他の病気の可能性も検討することが必要です。

疾患活動性の指標

リウマチ性多発筋痛症の病気の勢いを表す指標として、2004年にLeebらによりPMR-AS(activity score)が提唱されています。

PMR-AS = CRP (mg/dl) + VAS p (0-10) + VAS ph (0-10) + (MST (分)×0.1) + EUL (0-3)

  • CRP: C-反応性タンパク
  • VAS p: 患者疼痛評価(Visual Analogue Scale for pain)
  • VAS ph: 医師評価(visual analogue scale for physician's assessment)
  • MST: 朝のこわばりの持続時間
  • EUL: 上肢挙上の程度(ability to elevate the upper limbs) (3=不可, 2=肩より下方, 1=肩まで, 0=肩より上方)

上記の合計により、以下判定します。
≦1.5 寛解、<7 低疾患活動性、7-17 中疾患活動性、17<高疾患活動性
なお、PMR-AS≧10を病気の再燃(再び病状が悪化すること)として捉えることが提唱されています。

治療

初回治療

これまでの経験的な知見からステロイドが著効することが知られています。症状の重症度、体重、合併症(糖尿病、高血圧、骨粗鬆症、緑内障などステロイドで悪化する病気を有しているか)などを考慮し、ステロイドの初回投与量を決定します。多くの場合、10~20 mg/日のプレドニゾロン(商品名:プレドニン®)といった、少量のステロイド内服が使用されます。側頭動脈炎を合併した場合は中等量~大量(30~60mg/日程度)のステロイドが必要となります。基本的にはほとんどの方が少量ステロイドを内服し始めると速やかに反応し、数時間から数日で痛みやこわばりが大幅に改善します(3日以内に50~70%の改善)。もし治療開始後1週間以内に症状が改善しない場合は、プレドニゾロンを5~10 mg/日程度増量します。約1週毎に効果を見極め、不十分であれば更に5~10 mg/日程度毎、最大30 mg/日程度まで増量します。
ステロイドの朝1回内服で夕方や夜に症状が強くなる場合は、朝夕2回や毎食後の3回に分割するとステロイド同量のまま症状が軽快することがあります。その後、臨床症状や検査データを見ながら、ステロイドを減量していくことになります。経過によって異なりますが、減量の例として、初回プレドニゾロン量が15mg/日の場合、2~3週間初回量を用いた後、12.5mg/日を2~3週、次に10mg/日を4~6週、それ以降は4~8週毎に1mg/日ずつ減量するような形になります。最終的に早くて約1年でステロイドを中止できる人もいますが、症状の再発により少量のステロイドを内服し続ける必要のある方が多いです。
現在、初回治療でステロイドと同等の有効性が証明されている薬剤はありません。また、ステロイドの副作用のためその使用を極力少なくしたい場合などで、ステロイドを早く減らす効果を狙って主に関節リウマチに対して用いる薬剤を併用することがありますが、現時点では明確なものはありません。ただし、実際の臨床現場では以下の薬剤が検討されています。なお、以下の薬剤はいずれもリウマチ性多発筋痛症に保険適用はありません(主に関節リウマチへの保険適用です)。

・メトトレキサート(商品名:メトレート®、商品名:リウマトレックス®など)

週1回内服の薬剤で、国内では通常6~8mg/週程度で開始します。2~3か月かけてゆっくり効いてきます。
72例を対象としたイタリアの無作為化偽薬対照二重盲検試験(Caporaliら)では、ステロイド治療開始76週時点で、メトトレキサートを併用した群の方が、併用しなかった群と比べて、ステロイドをやめられた割合は高率でした。しかし、6年後の長期観察の報告では、併用群の方が炎症反応(CRPや赤沈)は良好でしたが、累積ステロイド使用量や再発率は併用群と非併用群で違いはありませんでした。

・TNF阻害薬

  1. インフリキシマブ(商品名:レミケード®)
    新規に診断された51例を対象にステロイド(16週で15mg/日から0mg/日に減量)に加えて偽薬もしくはインフリキシマブ3mg/kgを0,2,6,14,22週に投与した無作為化試験(Salvaraniら)において、22週および52週までに再発しなかった率は偽薬群でそれぞれ54%と37%、インフリキシマブ群で55%と30%であり、半年および1年時で両群に有意な差は認めませんでした。
  2. エタネルセプト(商品名:エンブレル®)
    新規に診断された20例を対象にエタネルセプト単剤(25mg週2回)と偽薬を14日間に渡って比べた無作為化試験(Kreinerら)では、肩の可動性や医師全般評価、CRPは有意に改善したものの、朝のこわばりの持続時間や患者疼痛評価は有意な改善を示しませんでした。
    また、イタリアのCatanosoらはプレドニゾンを7.5~10mg/日以下に減らせない治療抵抗性の6例を対象にエタネルセプト25mg週2回を6か月間併用したところ、9か月時点で全例で寛解を維持し、プレドニゾン併用量を1/3以下にすることができたと報告しています。
  3. アダリムマブ(商品名:ヒュミラ®)
    大血管の血管炎を合併した症例にステロイドとともに用いられた症例報告が少数あるのみで情報は限定的です。

・IL-6受容体阻害薬

  • トシリズマブ(商品名:アクテムラ®)
    リウマチ性多発筋痛症の病態にはTNFよりもIL-6という炎症を起こす物質が深く関係していると報告されています。リウマチ性多発筋痛症では、末梢血中のIL-6濃度が高く、IL-6によりその分化が促進されるTh17細胞の割合が高くなっている一方で、IL-6によって分化が抑制される制御性T細胞(Treg)は割合が少なくなっています。そのIL-6の働きを抑える薬剤である関節リウマチ治療薬のトシリズマブの有用性を示す報告が増えてきています。
    2016年にフランスのDevauchelle-Pensecらが報告した前向きオープンラベル試験(TENOR試験)によると、1年以内に症状が出現し、PMR-AS>10の中疾患活動性以上であるステロイド未治療(もしくは1か月以内のステロイド使用歴で試験開始1週間前までに中止)のリウマチ性多発筋痛症患者20名に対して、トシリズマブ 8mg/kgを4週ごとに計3回投与したところ、ベースラインでのPMR-ASは中央値36.6でしたが、12週時点でのPMR-ASは中央値4.5までに改善し、全例がPMR-AS≦10(非再燃)を満たし、また17名(85%)の患者でPMR-AS<7と低疾患活動性を示しました。12週以後、全例でプレドニゾン 0.15mg/kg/日(中央値12mg/日)が開始され、2週ごとに1mgずつ減量され、24週まで再燃されず、24週時点でのPMR-ASは中央値0.95でした。なお、12週までのトシリズマブ投与にて、5例で好中球数減少がみられたため、3例で2回目以降のトシリズマブが4mg/kgに減量され、1例で2回目の投与が中止になりました。

再発時の治療

痛みや朝のこわばりが再び出現した場合、再発を考えます。再発は25~50%の割合で起こると言われており、特にステロイドを早く減量している過程や既に中止した際に起こりやすいです。再発時の最適な治療法は確立していませんが、経験的に以下の通りに治療する場合が多いです。ステロイド減量で再発した場合、症状なくコントロールされていた減量直前のステロイド量に戻します。その後、症状の改善がみられれば、減量のスピードを遅くしたり、もしくは、前述のような抗リウマチ薬を併用することでステロイドの減量を図ります。

その他の治療

痛み止めとして非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)が用いられることがありますが、ステロイドと併用すると、NSAID単独で使用するときよりも高率に消化管の潰瘍が生じることが分かっており、注意が必要です。使用する場合はプロトンポンプ阻害薬や粘膜保護剤も一緒に用いることが推奨されます。

生活上の注意

巨細胞性動脈炎の合併が無ければ基本的には治療後の見通し(予後)は良好で、関節リウマチのように関節破壊を来たすことはなく、臓器障害を来たすこともありません。数か月から数年で病気の勢いが収束し、ステロイド治療が最終的に中止可能なこともあります。多くの例で2~3年は薬物治療を要します。プレドニゾロン5 mg/日以下が長期にわたって必要になる患者さんもいます。また、一連の初回治療終了後10年以内に約10%の患者さんが再発すると言われています。
病気そのものによって死亡率は高まりませんが、ステロイドによる副作用(感染症、糖尿病、高血圧、脂質異常症、骨粗鬆症、緑内障、白内障、筋量低下など)の影響を最小限にする配慮が必要です。また、経過中に巨細胞性動脈炎の合併がないかを注意深く観察する必要もあります。ステロイドによる副作用には注意が必要ですが、病気そのもののために特別に気をつけることはありません。

慶應義塾大学病院での取り組み

現在約100名のリウマチ性多発筋痛症の患者さんが通院しています。関節リウマチやその他膠原病・他疾患との鑑別を行い、早期診断・治療を心掛けております。

さらに詳しく知りたい方へ

文責: リウマチ・膠原病内科外部リンク
最終更新日:2017年2月23日

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