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心房細動(アブレーション治療など)

しんぼうさいどう(あぶれーしょんちりょうなど)

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概要

不整脈の一種である心房細動の患者さんは非常に多く、65歳以上の高齢者の5%は心房細動といわれています。心房細動自体は危険な不整脈ではありませんが、動悸症状を強く感じたり、また脳梗塞を合併するリスクがあり、治療を要する不整脈の一つです。

心房細動とは複数の異常な電気の渦が心房内に高速で旋回している状態です。正常な心臓のリズムの時は心房には60~100/分の頻度で電気が流れますが、心房細動中は400~500/分の高頻度で電気が流れ、そのため心房は充分に収縮することができず、震えているだけのような状態になります。

洞調律の時は、洞結節が一度発電するとその電気により心房が一度収縮し、引き続いて心室に電気が伝導して心室が一度収縮します。一方、心房細動中は心房には高頻度で電気が流れていますが、そのすべてが心室に伝わるわけではありません。心房から心室へ電気を伝える房室結節(ぼうしつ・けっせつ)は、一度電気を伝導させるとその後しばらくは電気を流せなくなる性質があります。心房には高頻度に電気が流れていますが、房室結節が気まぐれに、間引いて心室に伝導させるため、心室には不規則に120~150/分程度の頻度で電気が流れます。しかしこれでも正常な脈の時よりは心拍が速く、かつ、脈が不規則に乱れるため、強い動悸や胸部不快感を感じることがしばしばあります。また、心房細動中は心房の収縮がなくなり震えているだけの状態なので、心臓のポンプとしての機能も20%程度低下し、もともと心臓の機能が悪い患者さんの場合は息切れやむくみが現れることもあります。さらに、心房細動中は心房の中に血液がよどみやすくなるため、心房、とくに左心房の中で血栓(血のかたまり)が形成されやすくなります。血栓が血流に乗って心臓の外に流れ出すと全身の動脈につまってしまう危険性があります。脳へ血液を送る動脈に血栓がつまると脳梗塞になります。

概要

普段は正常な洞調律であり発作時のみ心房細動があり、7日以内に自然に洞調律に戻るような状態を発作性心房細動といい、7日以上心房細動が持続する場合を持続性心房細動、治療を行っても正常な脈に戻らない、あるいはすぐにまた心房細動になってしまう場合を永続性心房細動といいます。

高血圧は心房細動の原因として知られています。また、体の中のある種のホルモンのバランスが崩れると心房細動が起こりやすくなることがあります(とくに甲状腺機能亢進症)。また、もともと心臓病(弁膜症、心筋症、虚血性心疾患など)を持っている患者さんは心房細動を来しやすくなります。しかし、心臓を含め全身に特に病気や異常がなくても心房細動になることがしばしばあり、孤発性心房細動といわれます。

洞調律の状態から心房細動が始まる契機は、洞結節以外の異常な発電所からの電気であり、その異常な発電所のほとんど(90%以上)は肺静脈(肺から左心房へ血液を送る血管)の中に存在することが知られています。このような異常な発電所の電気は心房細動の始まりだけでなく、心房細動の状態を維持して洞調律に戻りにくくする性質も持っています。

診断

心電図により心房細動やその他の不整脈の有無がわかります。発作性心房細動の場合にはホルター心電図(24時間記録心電図)カルジオフォン(携帯型心電図記録伝送装置)で発作時の心電図を捕らえて不整脈の診断をします。また、経胸壁心エコーで心臓の構造や機能に異常がないかを確認し、左心房の大きさを計測します。

治療

心房細動の治療法はひとつではありません。患者さんの全身状態や心臓の状態、年齢、心房細動持続期間、左心房の大きさなどを指標にして患者さんに適した方針を検討します。

薬物療法

  • 抗凝固療法
    心房の中で血液が固まって血栓を形成してしまうのを防ぐ治療です。ワルファリンという薬を内服して血が固まりにくい状態にします。定期的に血液検査を行い薬の効果をチェックして服薬量を調節します。また最近は、プラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナといった定期的な血液検査の必要ない新しい抗凝固薬が開発されました。患者さんにはより安全に効果的に脳梗塞を予防する時代が始まりました。新しい抗凝固薬の対象となる患者さんにはこちらのお薬も処方可能となっています。

  • 心拍数コントロール
    心房細動中は心拍数が120~150/分程度と、洞調律時よりも速くなることが多く、そのために動悸を感じたり、心臓がくたびれてポンプとしての機能が低下したりします。そこで、持続性および永続性心房細動の場合、心拍数を抑える薬を使うことがしばしばあります。

  • 調律コントロール
    これは心房細動を止めて正常洞調律に戻し、そして洞調律を維持することを目標とする治療方針です。薬(抗不整脈薬)を内服あるいは注射で用いるのが一般的ですが、これには限界があり、薬剤の投与では洞調律を維持できないことがしばしばあります。1990年代後半から心房細動に対してカテーテルアブレーションが行われ始め、近年めざましく発展しており、心房細動を根治し洞調律を維持できるようになってきました。

心房細動に対するカテーテルアブレーション

心房細動に対するカテーテルアブレーションは当初は発作性心房細動のみを対象としていましたが、その後、徐々に手技・方法が改良され、治療成功率が上昇し安全性も増し、最近は慢性および持続性心房細動に対しても広く行われるようになってきています。最近は、クライオバルーンカテーテルと呼ばれる新しい方法も開発され(図1)、より短時間に効率よく、心房細動アブレーションを行うことができるようになりました。以下に、従来から行っている高周波通電を用いたカテーテルアブレーションの方法を説明します。

図1.クライオバルーンカテーテルによる治療

図1.クライオバルーンカテーテルによる治療

  • 術前検査:実際にカテーテルアブレーションを施行する前に下記の検査が必要です。
    1. 経食道心エコー
      これは胃カメラの様な形状の細長いエコー検査器具(プローブ)を口から食道へ入れて行う画像検査です。食道は左心房のすぐ裏側に位置するため、食道からエコー検査を行うと左心房が鮮明に観察できます。心臓の中、とくに左心房内の血栓の有無を確認します。血栓がある場合はカテーテルアブレーションを施行できません。
    2. 心臓CT
      心房細動のカテーテルアブレーションを行う際、左心房および肺静脈の相互の位置関係や形状が極めて重要です。術前に心臓CTを撮影し、得られたデータを元に画像処理し、図2-Aの様な左心房、肺静脈の三次元画像を作成し、これらを把握します。右肺から2本、左肺から2本、計4本の肺静脈が左心房につながっています。
      心臓CT:
  • カテーテルアブレーションの実際
    心房細動に対するカテーテルアブレーションの目的は左心房と肺静脈の電気的なつながりを絶つ(電気的隔離する)ことです。多くの患者さんの場合、肺静脈の根本の異常な電気が左心房に伝わることによって心房細動が開始するわけですから、肺静脈と左心房の間に電気が流れないようにすれば、心房細動の発作は起こらなくなります。入院期間は3泊4日です。手技の実際は下記の通りです。
    1. 心臓カテーテル室で行います。
    2. 患者さんは仰向けの体勢で、鎮静薬の注射により、うとうと眠っている状態で治療を行います。
    3. 首の右側および両側の鼠徑部(足の付け根)に局所麻酔をしてからカテーテルを挿入し、カテーテル先端を心臓の各部位に配置します。そのうち2本は肺静脈の根本に配置し、肺静脈内の異常な電気を記録します。
    4. カテーテル先端の位置情報を記録できる三次元マッピングシステムを用い、左心房内でカテーテルをまんべんなく動かし、左心房の形を描きます。

肺静脈造影を行い、肺静脈と左心房の関係をさらに詳しく把握します(図2)。
肺静脈の電気的隔離は左右とも、上下肺静脈の2本をまとめて行います(図3-B)。

図2.左右肺静脈造影の様子

図2.左右肺静脈造影の様子

図3.肺動脈肺静脈の電気的隔離の方法

図3.肺動脈肺静脈の電気的隔離の方法

  • 成功率
    当院の心房細動アブレーションの成功率は世界のトップクラスの施設と比較しても遜色のない成績です。1回のアブレーションにより心房細動の発作がなくなる確率は発作性心房細動の場合80%, 慢性・持続性心房細動の場合60~70%, 2回アブレーションを受けた後に心房細動がなくなる確率は発作性では約90%以上、慢性・持続性では80% です。

  • 合併症
    カテーテルアブレーションは基本的には安全な治療手技ですが、治療中や治療後に合併症を来す可能性はわずかながらあります。カテーテル刺入部の血腫、出血、心臓や血管の損傷、脳梗塞を含めた塞栓症、肺静脈狭窄などがあげられますが、後遺症を残すような重篤な合併症の起こる確率は1%未満です。このような合併症を来さないよう細心の注意を払って治療し、万が一合併症の徴候がみられた際は輸血や外科手術を含め早急に適切な処置を行います。

  • 術後
    術後は外来で経過観察し、当面はワルファリンや新規抗凝固薬による抗凝固療法を継続します。心房細動を全くみられない場合はワルファリンを中止します。術後に心房細動が再発してしまった場合は外来で抗不整脈薬を処方し、効果がなければカテーテルアブレーション再施行を検討します。

さらに詳しく知りたい方へ

文責: 循環器内科外部リンク
最終更新日:2017年2月13日

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