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顎関節症

がくかんせつしょう

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概要

顎関節症は、顎(あご)の関節や顎を動かす咀嚼筋に異常が起こり、「顎が痛い」、「口が開きにくい」、「音がする」、あるいは「ものが噛みにくい」といった症状が現れる病気です。
疫学調査の結果から、顎に何らかの症状を持つ人は全人口の7~8割に上るとされていて、このうち病院で治療を受けている人は7~8%です。実際には、顎関節の症状を抱えている人に男女差はないのですが、患者さんは女性が多く、男性の2~4倍で、それも若い女性と中年の女性に多いのが特徴です。病院を受診する動機は、顎関節の痛みを主訴とする人が圧倒的で、関節周辺や頬、こめかみが痛む場合もあります。女性の患者さんが多い理由として、女性は顎の筋力が弱いとか筋肉の血液循環が悪いといったことも考えられますが、女性の方が痛みを感じやすいが、痛みが強くても耐えられるために自然には回復不可能な状態になってしまい病院を受診せざるを得ない状態になってしまうのではないかということが考えられます。
前述の調査結果からも分かるように、顎関節症はかなり一般的な病気です。多少の症状は特別な治療をしなくても、やがて改善に向かい、自然に治まることも多いのですが、痛みや、口が開けづらい、物が食べにくいなどの症状によって日常生活に支障があれば、病院で治療を受けるべきです。
顎関節症は、日常生活の中で無意識に行っている習慣が原因となっていることが多く、これを自覚して改めることで、予防や症状の緩和も可能です。快適な生活を送るためには、成り立ちを正しく理解し、きちんと手当てをすることが大切です。

顎関節症の自己チェック

全く自覚症状がないという人でも顎関節症が潜んでいる可能性があります。表1で思い当たる症状がないかどうか、顎の状態をチェックしてみてください。また、表2には歯ぎしりやくいしばりなど、顎関節症の発症に大きく関わる生活習慣を挙げました。それぞれの項目は、顎関節症を起こすだけでなく、いったん起こってしまうと長引いて治りにくくする要因でもあります。自己チェックしてみましょう。

表1. 顎関節症の自己チェック

顎関節症の自己チェック いくつか該当する人は顎関節症の可能性あり
□ 食べ物を噛んだり、長い間しゃべったりすると、顎がだるく疲れる
□ 顎を動かすと痛みがあり、口を開閉すると、特に痛みを感じる
□ 耳の前やこめかみ、頬に痛みを感じる
□ 大きなあくびや、りんごの丸かじりができない
□ 時々、顎がひっかかったようになり、動かなくなることがある
□ 人差し指、中指、くすり指の3本を縦にそろえて、口に入れることができない
□ 口を開閉したとき、耳の前の辺りで音がする
□ 最近、顎や頸部、頭などを打ったことがある
□ 最近、かみ合わせが変わったと感じる
□ 頭痛や肩こりがよくする


表2. 顎関節症の発症に関わる生活習慣

顎関節症の発症に関わる生活習慣 該当する数が多いほどなりやすい
□ 「歯ぎしりをしている」といわれたことがある
□ 起床時、日中、気がつくと歯をくいしばっていることがある
□ 食事のときは、いつも左右のどちらか決まった側でかむ
□ 物事に対して神経質な面がある
□ 職場や家庭で、ストレスを感じることが多い
□ 夜、寝付きが悪い、ぐっすり眠れない、途中で目が覚める


顎関節症の主要な症状

顎関節症という診断名は、ある特定の病態、原因、症状を示すものではなく、多様な症状、病態、原因からなる顎関節と咀嚼筋および頚部筋の障害をまとめた病名です。

1.痛み

顎関節症の第一の症状は顎運動時痛です。開口、閉口運動時や咀嚼時に下顎頭が動くことによる顎関節痛と咬筋、側頭筋などの咀嚼筋が活動することにより筋痛が生じます。患者さんは顎関節痛と筋痛を区別して訴えることができないので治療にあたっては鑑別診断します。

1-1 顎関節痛
顎関節痛が起こる主な病態は、顎関節周囲の軟組織の慢性外傷性病変です。滑膜炎、関節包あるいは円板後部結合組織における細菌感染のない炎症です。下顎頭と接するこれら組織に炎症が生ずると、神経が過敏になり、顎運動時に下顎頭の動きにより刺激されて痛みが生じます。

1-2 咀嚼筋痛
筋痛は様々な病態によって生じます。最も一般的な病態は筋・筋膜疼痛で、頭頚部および口腔顔面領域の持続性疼痛の最も一般的な原因でもあります。筋・筋膜疼痛の特徴は局所的な鈍い、疼くような痛みとトリガーポイントの存在で、筋肉を機能させると痛みが増します。活動的な状態のトリガーポイントを圧迫すると、ジャンピングサインと呼ばれる逃避反応が生ずるほどの鋭い痛みを局所に生ずるとともに離れた部位に関連痛を生じます。

2.開口障害

通常、病気がなければ自分の指、人差し指から薬指まで3本を縦にして口に入ります。その時の開口量が約40mmです。最大開口量が40mm以下の場合には顎関節、咀嚼筋に何らかの異常があると考えるべきです。開口障害の原因には1)筋性、2)関節円板性、3)関節痛性、4)癒着がありますが、突然に開かなくなったときには関節円板の転位によるものです。また、知らないうちに徐々に開かなくなっているのは筋性です。
上記の開口障害の原因を診断することは簡単ではありませんが、基本的診査として下顎頭が正常に前方に滑走するかどうかを調べ、滑走できるならば、次に最大開口時に左右いずれかの咬筋が強く緊張していないかどうかを診査します。下顎頭に滑走制限がある場合には関節円板性、癒着性が疑われ、下顎頭は滑走するが開口制限がある場合には筋性が疑われます。

3.関節雑音

咀嚼や大開口時などにカックンとかガリガリといった関節音が生ずることがあります。最も多い関節音は関節円板性開口障害に先行する復位を伴う関節円板転位によるものです。前方に転位した関節円板が開閉口に伴って下顎頭が前後に動く際に下顎頭上に戻ったり、再度転位する時にカックンといった単発音が生じます。その他の関節雑音として下顎頭や関節窩、関節円板が変形して下顎頭と直接的、間接的にすれ合うことにより生ずるシャリシャリ、グニュといった軋轢音があります。関節雑音は痛みを伴う時以外は治療の必要はありません。

顎関節の構造と顎関節症の障害
顎関節というのは、両耳の前に指を当てて口を開け閉めしたとき、盛んに動く部分です。顎関節は、頭の骨(側頭骨)のくぼみ(下顎窩)に、下顎骨の丸く突きでている下顎頭が入り込む構造をしています(図1)。下顎窩と下顎頭の間には関節円板というクッションの役目を果たす組織があり、下顎窩と下顎頭が直接こすりあわないようになっています。関節円板は骨ではなく、コラーゲンという膠原線維がぎっしり詰まっています。この関節円板と下顎頭が正常に移動することによって、口を大きく開けたり、閉じたりすることができるのです(図2)。 これを見ると分かるように、正常では関節円板が下顎頭と一緒に移動しています。しかし、障害がある場合、関節円板がずれてひっかかり、はずれるときに音がしたり、ひっかかりが強くなって下顎頭の動きが妨げられ口が開かなくなることもあります。
こうした関節円板の障害による顎関節症も含めて、顎関節症には4つのタイプがあります。筋肉の障害(I型)、関節包・靭帯の障害(II型)、関節円板の障害(III型)、骨の変形(IV型)の4つです。

図1.顎関節の構造

図1.顎関節の構造

図2.顎関節の動き

図2.顎関節の動き

顎関節症の基本的診査法と診断

顎関節症の診断は、何か1つだけの診査結果で決めることはできません。いくつかの診査結果を組み合わせて総合的に検討して診断します。

  1. 開口量測定 
    最初に自力最大開口量を測定します。次に、術者が強制的に開口させて開口量(強制最大開口量)を測定します。正常では上下中切歯切端間で40mm以上開口でき、自力最大開口量と強制最大開口量に差がありません。自力最大開口量と強制最大開口量に5mm以上の差がある場合には筋性障害を疑い、差がなく、40mm以下の場合には円板性開口障害が疑われます。
  2. 下顎頭圧痛および関節頭運動状況診査 
    関節包や滑膜に炎症を起こしている場合には下顎頭に圧痛がみられます。下顎頭外側中央部に指を置き、少しずつ力を加えて圧痛を診査します。次に、大きく開閉口させて下顎頭が正常に前方に滑走して動くかどうかを診査します
  3. 下顎マニピュレーション下顎頭滑走診査
    術者の利き手で患者さんの下顎を把持し、反対の手の人差し指で関節部を触りながら、下顎を片方ずつ前方に限界まで牽引し下顎頭の動きの具合と痛みが出るかどうかを調べます。次に後方に限界まで圧迫して同様に診査します。この診査により、下顎頭の滑走障害の有無、関節痛誘発の有無、雑音発生などが分かります。
  4. 咬筋圧痛診査
    頬部に指を置き、患者さんに噛みしめてもらうと咬筋が膨隆して位置と大きさが概略的に判ります。次に、リラックスしてもらい、指に少しずつ力を入れて筋肉の凹凸、固さを調べ、硬く、こりこりした部分や厚みのある部分を診査します。筋肉の大きさに左右差があるか、痛いところを押されて痛いのか、ただ押されて痛いだけなのかなどを聞き圧痛の有無を診査します。普段、噛みしめの癖があるといつも使っていることから機能的に肥大しています。また、片側だけで噛む癖があると噛んでいる側の咬筋が大きく、左右の大きさが違って非対称となっています。
  5. 画像診断
    必要に応じてレントゲン、MRI、CT等の画像診断を行い他疾患との鑑別、関節障害の確認、関節円板転位の確認等を行います。

顎関節症の原因と治療

従来は顎関節症の原因は噛み合わせの異常と考えられていましたが、顎関節症の原因は多因子で嚙み合わせの異常もその一つと考えられています。最も一般的な原因はパラファンクションで、特に日中、睡眠中のくいしばりが筋痛に大きく影響しています。日中のくいしばりに対して、くいしばりが現在の病態の原因になっていることを理解してもらい、それを止めるように指導します。次に多い原因は睡眠中の歯ぎしりでこれは関節痛に影響します。歯ぎしりはこれを止めるのではなく、関節への負荷を軽減させる目的で側方ガイドを付けたスプリントを就寝中に装着してもらいます。対症療法として、関節痛に対しては安静と負荷の軽減(硬固物の咀嚼、患側での咀嚼、大開口の禁止)を指示し、疼痛の強い場合には非ステロイド系消炎鎮痛薬を投与します。また、筋痛に対しては負荷の軽減(硬固物の咀嚼、患側での咀嚼の禁止、噛みしめの中止)およびホットパック、大開口による筋ストレッチを指示します。慢性筋痛や広範囲の筋痛および痛み神経の過敏化に対しては三環系抗うつ薬が効果的です。筋・筋膜疼痛によるトリガーポイントは治りにくい病態ですが、多くはこれらの治療によって軽快します。どうしても治らない場合には筋肉のしこりであるトリガーポイントに直接注射をすることもあります。

慶應義塾大学病院での顎関節症への対応の特徴:セルフケア指導

顎関節症の患者さんの多くは、日中に気がつくと歯をくいしばっているようです。また、食事のときに、左右どちらか決まったほうだけで噛んでいる「偏咀嚼」をしていることもみられます。歯ぎしり、くいしばりなどは、顎に過剰な力をかけてしまいます。精神的なストレスは、日中の無意識のくいしばりや肩、首、顔の筋肉の過度の緊張、さらに睡眠障害を招き、睡眠中のくいしばり、歯ぎしりの原因になります。偏咀嚼のくせは、片側だけの筋肉や関節に負担を増します。これらの原因は、いずれも生活習慣にひそむ動作や癖です。こうした顎に負担をかける生活習慣、しかも気づかずに行ってしまっている癖を洗いだし、改善していくことが、顎関節症のセルフケアであり、治療において重要なだけでなく、発症を防ぐことにもなります。

顎関節症の発症や経過には生活習慣が深く関わっているということを、患者さんに気づいてもらい、それを取り除く努力をしてもらわなければ症状は改善しません。そこで、認知行動療法の考えに基づいて、治療に参加していただき、日常生活の中でセルフケアを行ってもらいます。

セルフケアは、原因排除のための方法と、関節障害改善のための安静、負荷の軽減、筋障害改善のための負荷の軽減、筋ストレッチなどがあります。

具体的には、日中のくいしばり、偏咀嚼の癖などがあることを気づかせ、それらを止める方法を医師が指導し、患者さんは家庭や職場で意識して行います。症状の改善を自覚できると、セルフケアがさらに強く動機づけられます。セルフケアの基本は、顎を安静にすることと負荷をかけないことです。何もしていないときに上の歯と下の歯が接しているだけでも筋肉に負荷がかかっているのです。日中にくいしばっていることが多い人は、上下の歯の間は離しておくために、時々歯の裏側や口蓋部を舌でなめるようにするとか、チューインガムを前歯でクチュクチュ咬んだり、舌で転がすようにするのが効果的です。また、各個人の平均最大開口量である人差し指から薬指まで3本を縦にして口に入れて、筋肉のつっぱり感を感じながら5秒間そのままの状態にしてストレッチするのが大変効果的です。なるべく1時間に1回は行うように努めましょう。温めたタオルで緊張の強い部分を温湿布した後の筋ストレッチはさらに効果的です。

顎関節症は1~2週間で治すことは難しいですが、指示に従ってセルフケアを継続すれば、長くても数ケ月から半年で9割の人が治ります。ぜひセルフケアを怠らず、続けていただきたいと思います。

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