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乾癬

かんせん

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症状

乾癬は、表面に大きなフケのようなものが付着する特徴的な赤い皮疹が全身に多発する慢性の皮膚病です。その存在は古くから認識されており、英語では「psoriasis」、中国語では「牛皮癬」として昔の医学書にも記載がなされていますが、病気のはっきりとした原因は現在も分かってはいません。近年の研究から、皮疹があるところでは、免疫反応の異常に伴って皮膚の細胞(表皮細胞)が過剰に増殖していることが分かっています。

乾癬は、尋常性乾癬、滴状乾癬、膿疱性乾癬、関節症性乾癬、乾癬性紅皮症の5つの病型に分類されています。

  1. 尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん)
    患者さんの数が最も多いのは、この尋常性乾癬です。白色の厚い皮(鱗屑-りんせつ)が付着した紅い皮疹(紅斑-こうはん)が様々な大きさで全身に現れます(図1)。皮疹は、頭皮や肘、膝などの摩擦を受けやすい部分により出現しやすく、爪や手のひら、足の裏にも症状が見られることがあります。皮疹が出ている部位に痒みを感じる人もいます。
  2. 滴状乾癬(てきじょうかんせん)
    白色の鱗屑が付着した米粒ほどの大きさの紅斑が全身に現れる乾癬の一型です。小さいお子さんが風邪を引いた時に急に発症することが多いといわれており、風邪が良くなると症状も改善します。成人するとともに症状が出なくなることが多いですが、一部の患者さんは大人になって尋常性乾癬に移行することがあります。
  3. 膿疱性乾癬(のうほうせいかんせん)
    発熱を伴って、全身に膿疱(白色~黄色の膿を含んだ水疱)がたくさん現れる乾癬の一型で、乾癬の中では最も重症な病型です。皮膚の膿疱には菌がいるわけでなく、他人に感染することはありません。原因は完全には解明されていませんが、近年の研究より、一部の患者さんではインターロイキン36 受容体拮抗因子という遺伝子に異常があることが分かっています。喉などの感染症をきっかけに急に症状が現れることが知られており、症状が重いため、入院して治療することが必要です。膿疱性乾癬は国の指定した難治性疾患(特定疾患)で、医療費の一部が助成されます。
  4. 関節症性乾癬(かんせつしょうせいかんせん)
    乾癬の皮膚症状に加えて、関節痛や関節の変形を伴う乾癬の一型です。多くは手の指や足の指に関節炎がみられ、その症状は関節リウマチに似ていますが、通常は血液検査にて「リウマトイド因子」が陰性となります(関節リウマチの患者さんの多くは陽性となります)。
  5. 乾癬性紅皮症(かんせんせいこうひしょう)
    乾癬の皮疹が全身に広がり、正常の皮膚がほとんど見えなくなった状態を指します。しばしば発熱を伴い、入院して治療することが必要になります。
図1

図1

診断

尋常性乾癬の皮疹は特徴的であることが多いので、診察のみで診断がつく場合もあります。しかし、頭皮や爪のみに皮疹がある場合や、後述する全身療法を行う場合は、似たような症状が現れる他の皮膚病の可能性を除外するため、皮膚生検(皮疹の部分を一部切除して検査すること)を受けることをおすすめします。また、関節症性乾癬では、リウマチに似た関節の痛みや変形が起きるため、両者を区別する目的で採血や関節のエコー、X線撮影を行います。

治療

乾癬は治療が長期にわたることが多く、症状や皮疹の範囲に合わせた適切な治療を行う必要があります。

1.外用療法

皮疹の範囲が少ない場合は、塗り薬による治療が一般的です。塗り薬としては、副腎皮質ホルモン含有剤(以下、ステロイド外用剤)、活性型ビタミンD3含有剤(以下、ビタミンD3外用剤)、そしてステロイドと活性型ビタミンD3を混合した合剤が用いられています。外用剤の剤型には軟膏・クリーム・ローション・ゲルがあり、塗る部位や症状によって使い分けることが大事です。

ステロイドは炎症をとる作用が強く、痒みなどの症状に対しても非常に有効です。外用剤の強さは、5段階に分かれています。不適切な種類の軟膏を長期にわたって使用した場合に、副作用の問題が生じる可能性があります。そのためか、ステロイド軟膏というと「怖い」というイメージを持たれている方もいらっしゃると思いますが、皮膚科医の指示のもと、塗る薬の種類、塗り方、量、回数、期間をしっかり守れば決して怖い薬ではありません。

ビタミンD3外用剤は、乾癬の皮膚の過剰な増殖を抑える作用があるビタミンD3を含有する軟膏です。ステロイド軟膏と比べて効果が出るまでに時間がかかる場合がありますが、ステロイド外用剤では十分に効果がなかった皮疹にも効く場合があります。

乾癬の皮疹に対しては、より高い治療効果を期待してステロイドと活性型ビタミンD3の両者を重ね塗りすることが以前から行われておりましたが、近年では両者が予め混合された合剤がよく用いられています。

2.光線療法

古来より、日光にあたると乾癬の症状が良くなることは知られていました。そして日光の波長の中で紫外線が有効であることが分かり、今では人工的に紫外線を照射する治療が行われるようになりました。塗り薬の治療では効果が不十分な場合や、皮疹の範囲が広い場合に行います。

  • PUVA(プバ)療法
    治療に用いられる紫外線(ultraviolet; UV)は、近紫外線(波長が可視光線に近い)といい、A波(UVA)、B波(UVB)、C波(UVC)の3つの波長に分けられます。UVCは有害であるため治療には用いません。UVAをそのまま浴びても効果はありませんが、ソラレン(Psoralen)という物質を飲むか塗った後でUVAを浴びると、乾癬の皮疹に対して効果があります。当院では、入院して行うPUVA-bath(プババス)療法(ソラレンをお風呂に入れ、入浴後にUVAを浴びる)を行っています。
  • Narrow band(ナローバンド) UVB療法
    UVBの波長の中でも、特定の波長が乾癬に対して有効であることが分かっており、Narrow band UVB療法は311nm(ナノメートル)前後の波長を照射する治療法です。一般的には、皮疹が広範囲に及んでいる患者さんを対象に全身に照射します。利点は、PUVA療法のような内服薬や外用薬が不要で、外来での通院で行うことができる点です。当院では、午前中の一般外来と、光線の専門外来(乾癬外来外部リンク光線外来外部リンク)にて行うことができます。
  • ターゲット型エキシマランプ照射療法
    UVBの波長の中でも、308nm前後の波長を部分的に照射する治療法です。手のひらや足の裏、爪など、限られた部位だけに病変がある患者さんを対象に、病変部だけに紫外線照射を行う治療法です。

3.全身療法

皮疹が広範囲に及び外用療法や光線療法で十分な効果が得られない場合や、関節症状を伴う場合などに全身療法(内服もしくは注射)を行います。

内服薬

  • シクロスポリン(商品名:ネオーラル)
    免疫抑制剤に分類される内服薬です。免疫を担当するリンパ球の1つである、T細胞の働きを抑える作用があります。乾癬の原因として免疫異常がいわれていますが、乾癬ではT細胞が出す様々なサイトカイン(細胞から分泌される蛋白質)により、表皮の細胞が過剰増殖していると考えられています。シクロスポリンはそのT細胞の働きを抑えるため、表皮の増殖が抑えられ、皮疹が良くなります。高い効果が期待できる反面、免疫を抑えることによって感染症にかかりやすくなったり、腎臓に負担がかかったりなどの副作用があるため、感染予防対策や定期的な採血検査が必要です。 また、光線療法とは同時に治療を受けることはできません。
  • メトトレキサート(商品名:リウマトレックス)
    シクロスポリンと同様に、免疫抑制剤に分類される内服薬です。皮膚症状の改善と同時に関節症状に対しても一定の効果が期待できます。しかし、免疫を抑えることによって感染症にかかりやすくなったり、肝臓に負担がかかったりなどの副作用があるため、感染予防対策や定期的な採血検査が必要です。
  • エトレチナート(商品名:チガソン)
    ビタミンA誘導体の一種で、表皮が厚くなるのを抑える作用があります。厚い皮疹に対して有効な治療ですが、正常な皮膚も薄くしてしまうため、唇や手のひらが剥けてしまうことがあります。また、もともとビタミンAは胎児に対して影響があり、妊娠する可能性がある場合は使用できません。しかしシクロスポリンと違い、光線療法と同時に治療を受けることが可能で、相乗効果を期待することができます。
  • アプレミラスト(商品名:オテズラ)
    PDE4阻害剤で免疫を調整する作用があります。光線療法との併用が可能です。下痢や胃の不快感などの消化器症状の副作用を起こすことがあります。

注射薬

生物学的製剤といわれる新しいタイプの薬です。乾癬ではTNFα(ティーエヌエフ アルファ)やインターロイキン17、インターロイキン23といった免疫物質が症状を悪化させていることが明らかになり、これを抑える薬が開発されています。いずれの薬剤も高い有効性が期待できますが、免疫の一部を抑えることによって感染症にかかりやすくなるなどの副作用があるため、日常的な感染予防対策や定期的な採血検査が必要です。

  • インフリキシマブ(商品名:レミケード)
    TNFαを抑える抗体製剤で8週間に一度点滴投与を行います。
  • アダリムマブ(商品名:ヒュミラ)
    TNFαを抑える抗体製剤で2週間に一度皮下注射を行います。看護師による適切な指導を受けた後に自己注射を行うことも可能です。
  • セルトリズマブ・ペゴル(商品名:シムジア)
    TNFαを抑える抗体製剤で、2週間に一度皮下注射を行い、症状が安定し場合は4週間に一度に注射の間隔を伸ばすことができます。看護師による適切な指導を受けた後に自己注射を行うことも可能です。
  • ウステキヌマブ(商品名:ステラーラ)
    インターロイキン23とインターロイキン12を抑える抗体製剤で、12週間に一度皮下注射を行います。
  • セクキヌマブ(商品名:コセンティクス)
    インターロイキン17を抑える抗体製剤で、4週間に一度皮下注射を行います。看護師による適切な指導を受けた後に自己注射を行うことも可能です。
  • イキセキズマブ(商品名:トルツ)
    インターロイキン17を抑える抗体製剤で、2~4週間に一度皮下注射を行います。看護師による適切な指導を受けた後に自己注射を行うことも可能です。
  • ブロダルマブ(商品名:ルミセフ)
    インターロイキン17を抑える抗体製剤で、2週間に一度皮下注射を行います。看護師による適切な指導を受けた後に自己注射を行うことも可能です。
  • グセルクマブ(商品名:トレムフィア)
    インターロイキン23を抑える抗体製剤で、8週間に一度皮下注射を行います。
  • リサンキズマブ(商品名:スキリージ)
    インターロイキン23を抑える抗体製剤で、12週間に一度皮下注射を行います。
  • チルドラキズマブ(商品名:イルミア)
    インターロイキン23を抑える抗体製剤で、12週間に一度皮下注射を行います。

生活上の注意

  • 乾癬は、風邪や気管支炎など、感染症によって悪くなることが知られています。また、歯槽膿漏など慢性的な歯の炎症も良くありません。感染症の予防に努め、既にある病気をしっかり治すことが必要です。
  • 乾癬は、肥満や糖尿病、高血圧や高脂血症などの生活習慣病と密接に関わっていることが分かっております。バランスの取れた食生活、適度な運動、規則正しい生活を心がけてください。
  • 喫煙は乾癬の増悪因子とされておりますので、禁煙をお勧めします。

慶應義塾大学病院での取り組み

  • 乾癬外来外部リンクを週1回(金曜日午後2時より)開設しております。生物学的製剤を使用している患者さんの乾癬外来を、土曜午後2時から2,4,5週目に行っております。現在までに分かっている乾癬に関する情報や治療法について、丁寧に説明することを心がけております。
  • 紫外線全身照射装置(Waldmann)が2基あり、PUVA療法、Narrow Band UVB療法に対応しております。また、患部が限局していて全身照射の必要のない患者さんの治療のために、エキシマランプというターゲット型照射装置(VTRAC)も用いています。

さらに詳しく知りたい方へ

文責: 皮膚科外部リンク
最終更新日:2021年9月3日

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