概要
「やけど」とは「焼けた所」→「やけどころ」→「やけど」からきている俗名です。医学的には「熱傷」と呼ばれ、熱による皮膚や粘膜の損傷です。
皮膚は外界と体内を隔て菌の侵入を防ぎ、水分・体温を保持または逆に汗をかいて熱を放散させる役目を担っています。粘膜の熱傷は口の中と気道(空気の通り道)の熱傷がほとんどですが、皮膚の熱傷と同様に腫脹(腫れて脹れる)や水疱(水ぶくれ)ができます。わずかであれば問題となることはありませんが、特に気道の粘膜が腫脹して狭くなると窒息の危険性があります。高温の煙や水蒸気を吸い込んだり、顔に炎を浴びたりした場合には注意が必要です。
熱傷を負った場合、熱の影響を取り除くためすぐに冷やすことが大切ですが、水道水で充分です。氷を直接に長い時間当てると、冷やしすぎ凍傷を起こす場合もあります。特に冬場は全身を冷やしすぎて低体温を起こす危険性があります。衣服の下に熱傷がある場合はすぐに脱がず、まず水をかけて冷やした後に衣服を脱がせます。衣服が皮膚に張り付いてしまっている場合は無理にはがさずそのまま医療機関を受診して下さい。
熱傷の部位には、自分の判断で油や軟膏・消毒薬を用いることなく速やかに受診するようにして下さい。色の変化などにより、やけどの状態が適切に判断できず、治療に支障をきたすことがあります。また、徐々に腫れてきますので指輪や時計などの装身具は早めに外してから受診して下さい。
症状
熱傷はその深さによりI度熱傷・浅達性II度熱傷・深達性II度熱傷・III度熱傷に分けられます。
この深さにより症状は異なります。I度熱傷は表皮(皮膚の表面)までの損傷で、皮膚が赤くなり、ひりひりした痛みを伴います。II度熱傷は真皮(表皮の下の皮膚)に達する熱傷で、水疱ができ強い痛みを伴います。III度熱傷は皮膚がすべて損傷された状態で、一見通常の皮膚と変わりなく見えることもあります。しかし、よく見ると表面が青白く、神経まで焼けてしまうため痛みも感じません。痛くないから軽いと判断せず、早めに受診していただくことが重要です。
気道の熱傷や煙を吸い込んだ場合には、あとから急に呼吸が苦しくなることがあります。煙や水蒸気を吸い込んだり、顔に炎を浴びたりしている場合は症状が軽くとも早めに診察を受けて下さい。室内で煙を吸いこんだ場合には一酸化炭素中毒にも注意する必要があります。その時点で症状がない場合でも遅れて症状が出てきて、後遺症が残ることもあります。適切な初期治療が必要となります。
表1. 熱傷深達度
(熱傷用語集2015改訂版(一般社団法人日本熱傷学会.2015)p.51の図を転載
深さ |
局所所見 |
治癒過程 |
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I度 |
表皮まで |
発赤 |
数日で治癒 |
|
II度 |
浅達性II度熱傷 |
真皮浅層まで |
水疱 |
2~3週で治癒 |
深達性II度熱傷 |
真皮深層まで |
4~5週で治癒 |
||
III度 |
皮膚全層 |
羊皮紙用・痛みなし |
原則的に植皮術 |
診断
熱傷の診断には深さと広さそして部位が非常に重要です。熱傷の深さは受傷早期には判定が困難なことがあります。早期の受診が重要ですが、外来通院で治療を続ける場合、初期には少なくとも数日おきに医師の診察を受けることが必要となります。また、熱傷の深さは治療がうまくいけば徐々に治っていき浅くなりますが、感染・圧迫などの影響で逆に徐々に深くなっていくこともあり、治療の過程で常に一定したものではありません。
顔面・手足や会陰(陰部や肛門周囲)は特殊な部位の熱傷として治療されます。いずれも、後遺症を残す可能性があり、早い段階からの適切な治療が必要な部位です。
気道の熱傷や煙を吸い込んだ場合、その診断には気管支鏡検査が必要となります。胸部CT検査も肺の状態を把握するために有用です。一酸化炭素中毒の疑いがある場合には患者さんの状態と血液検査から早期に診断をつけ、高濃度酸素を投与する治療を開始することが重要です。
熱傷の広さは深さごとに算出されます。体表の皮膚全体を100%としてII度とIII度の面積を足した面積が熱傷面積とされ、I度熱傷の範囲はこれに含まれません。またII度の面積の半分とIII度の面積を加えた値は熱傷指数(Burn index)と呼ばれ、重症度の指標とされます。さらにこの熱傷指数に年齢を加えた値は熱傷予後指数(Prognostic burn index)と呼ばれ、一般に100を超えると命の危険性が非常に高いとされます。しかし、これはあくまでも指標であり、これよりはるかに熱傷予後指数が低い患者さんでも、それぞれの状態(持病や熱傷を負う前の生活状況)により命にかかわる危険性があります。
表2. Artzの基準
(熱傷用語集2015改訂版(一般社団法人日本熱傷学会. 2015)p.52より転載、一部修正)
重症熱傷(熱傷センターにて入院が必要) |
II度30%以上 |
中等症熱傷(一般病院にて入院が必要) |
II度15~30% |
軽症熱傷(外来通院で治療可能) |
II度15%以下 |
治療
皮膚の熱傷に関しては優れた軟膏やクリーム・被覆材(皮膚を覆う製品)が開発されており、傷跡・後遺症を最小限にするためには早期受診していただくことが必要です。熱傷は感染・圧迫などにより徐々に深くなっていくことがあり、まずはこうしたことの予防が必要になります。
I度熱傷はそのままでも傷跡を残さず治りますが、炎症を抑える成分の入った軟膏またはクリームで治療すると効果的です。
浅達性II度熱傷は通常は医師の診察を受け治療するとおよそ3週間以内に治癒します。これに対し深達性II度熱傷は治療がうまくいっても治るまで4週間以上かかります。熱傷部位の湿潤環境を保ちつつ感染を予防するために、消毒・軟膏による治療がおこなわれます。
III度熱傷は原則として自然に治ることはないとされます。非常に狭い範囲であれば死んでしまった組織を除去し、皮膚ができあがるまで時間をかけて待つ治療方法もありますが、多くは植皮術という皮膚を植える手術が必要となります。この場合、熱傷を治すために正常な部分の皮膚を採取してくるためその部分にも傷を作ることになってしまいます。このため、再生医療の技術を応用して自分の皮膚を増殖させる自家培養表皮が開発され、当院でも自家培養表皮移植術を行っています。
浅達性II度熱傷より深い熱傷は傷痕を残す可能性があります。皮膚に色素沈着を起こす場合や、ひきつれたり(瘢痕拘縮)盛り上がったり(ケロイドまたは肥厚性瘢痕)することがあります。関節などの動きに関係する部分にひきつれなどを残すと、美容的にだけでなく動かしにくいなどの障害も残すこととなります。こうした傷痕には紫外線に当たること(日焼け)をさけ、軟膏、クリーム、テープなどで治療することが効果的です。また、盛り上がった部位は弾力性を持った包帯やサポーターなどで圧迫することも効果的です。肥厚性瘢痕や瘢痕拘縮が強く、関節を曲げにくいなどの障害があれば、手術による治療を選ぶ場合もあります。
熱傷の範囲が広い場合には熱傷ショックになって命に関わることもありますので熱傷治療に習熟した医師のいる病院で集中的な治療を直ちに受けることが大切です。患者さんの状態によっては、すぐに気道にチューブを入れ人工呼吸器で呼吸を助けることも必要となります。
生活上の注意
日常の生活の場で熱傷の危険を少なくすることが最も大切です。とくにお子さんや高齢者のいらっしゃる家庭ではいろいろな工夫で熱傷を防止するように心がけていただきたいと思います。
お子さんの場合にはテーブルの上で手の届く範囲に熱い物を置かないよう注意して下さい。テーブルクロスを敷いているとお子さんが引っ張り、置いてあった湯がかかるといった事故が起きることがあります。炊飯器やポットなど水蒸気が出る部分は非常に高温になります。特に手を出して手のひらに深い熱傷を負い、高頻度に後遺症を残すことがあります。お子さんが触れられないように工夫して下さい。
高齢者ではお線香を上げるときなどに着物の袖に仏壇の火が付くなどして、脇に熱傷を負うことがあります。脇の熱傷も傷痕を残すと腕が上がらなくなるなどの後遺症が残ります。また、入浴中に熱いお湯につかっていると意識を失うことがあります。この際に追い焚きで湯を沸かしていると非常に広い範囲の熱傷を負うことがあります。高齢者の入浴中にも注意が必要です。
慶應義塾大学病院での取り組み
当院は東京都内で14の医療施設が加盟している東京都熱傷救急ネットワークに参画し、重症熱傷患者さんの治療にあたっております。比較的小範囲の熱傷患者さんに対しても、皮膚科とも連携し、その深さ・部位に応じて傷痕・後遺症が最小限になるように治療を行っています。後遺症が予期される患者さんでは治療初期からリハビリ科とも連携して治療に当たっております。治癒後に引きつれやケロイドなどが残った場合には、形成外科とも連携して治療しています。「皮膚の病気-傷のひきつれやケロイドの形成外科治療」をご参照ください。
さらに詳しく知りたい方へ
文責:
救急科
最終更新日:2017年3月23日