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心筋症とは

しんきんしょうとは

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概要

心筋症は心臓の筋肉の病気で、表1のように分類されます。いずれの原因でも、心筋に障害を与え、心臓から血液を押し出して全身に供給するポンプ機能が障害されます。

表1. 心筋症の分類

特発性心筋症 肥大型心筋症
拡張型心筋症
拘束型心筋症
不整脈源性右室心筋症
分類不能型心筋症
特定心筋症 虚血性
弁膜症性
高血圧性
全身疾患(自己免疫疾患、サルコイドーシス等)
筋ジストロフィ
神経・筋疾患
中毒性疾患(薬物等)
アルコール性
産褥性

心筋症の分類

心筋自体の病気のうち、原因および全身疾患との関連がはっきりしているもの(特定心筋症:従来「二次性」と呼ばれていた)と、そうでないもの(特発性)がありますが、特に原因不明の「特発性」の場合を「心筋症」と呼んでいます。心筋症には大きく分けて3つのタイプの病気があります。

  • 肥大型心筋症: 心筋が異常に厚くなる(肥大する)
  • 拡張型心筋症: 心筋が薄くなり、収縮する力が弱くなり、心臓の内腔(ないくう)が異常に大きくなる(拡大する)。
  • 拘束型心筋症: 心筋が硬くなり、血液が入りにくくなる。

肥大型心筋症は、時に一家系内に多く発症することがあり、その原因として遺伝的要因の関与が推定されています。また肥大型心筋症には、心筋が収縮した際、心室内で圧力の較差が出現する閉塞性肥大型心筋症と、圧力の較差を認めない非閉塞性肥大型心筋症の2つのタイプに分けられます。一般的には予後は良好ですが、一部では突然死との関連が問題となります。

拡張型心筋症の発症のメカニズムについてもいまだに十分明らかにされていませんが、現在ではウイルス感染、外敵(細菌、ウイルスなど)と戦うためのシステムである免疫が何らかの原因で自己組織に働いてしまう自己免疫異常、生まれつきの遺伝子異常などが考えられています。心臓の内腔が拡大し、それに見合うだけの収縮力を心筋が持てないため、必要なだけの血液の循環が保てず、末梢の血流不足を起こし、また、心臓に血液が戻りきれず肺や末梢に血液がたまる心不全を起こします。

拘束型心筋症は、比較的まれな疾患です。この病気に関する疫学的調査は少なく、正確な頻度は不明です。進行性で、現在のところ有効な治療法は確立されておらず、対症療法が中心となります。

不整脈源性右室心筋症は、他の疾患が主に左心室が障害されるのに対し、右心室に病変が及び、心筋が線維や脂肪の進行性に置き換わり、右室壁が薄くなったり動きが悪くなる病気です。また、限局性の右室拡張を示すこともあります。心室性不整脈を頻発する疾患で、若年者で不整脈による突然死が多いとされています。

特定心筋症の中で最も頻度が高く、鑑別上重要なものとして虚血性心筋症があります。これはいわゆる狭心症、心筋梗塞といった心臓自体に血液を送りこむ冠動脈が細くなったり、詰まったりする病気で、心臓の組織の一部が血液供給不足(虚血)ないしは組織が死んで壊死(えし)を引き起こし、心臓のポンプとして血液を送り出す力が低下する状態を指します。

また、生活習慣と関連が深いものとして、アルコール心筋症があります。アルコール多飲歴のある方は、拡張型心筋症に似た左心室の拡大、全体的な壁運動の低下がみられます。早期であれば断酒することで左室機能障害が改善するといわれていますが、末期になると断酒しても改善しないといわれているので早期に治療を始めることが重要です。

サルコイドーシスは、肉芽腫(にくげしゅ)という炎症細胞の蓄積が全身の様々な臓器にみられる疾患で、この肉芽腫が心臓にも形成されることがあります。進行すると、拡張型心筋症と似た左心室の拡大、壁運動の低下がみられますが、徐脈性不整脈を起こすことも多く、ペースメーカーを必要とする例も多いとされています。

また、上記の表(表1)以外で特殊なものとして、たこつぼ心筋症(たこつぼ心筋障害)があります。これは突然の胸痛で発症し、心臓の壁運動が一部高度に傷害される疾患です。心電図、心エコーから診断されますが、急性心筋梗塞との鑑別が難しい例が多く、緊急心臓カテーテル検査が必要となるケースが多いです。強い精神的ストレス、手術などの身体的なストレスを契機に発症することが多いのが特徴とされています。発症後は入院での管理が必要となりますが、急性期を乗り切れば予後は一般的に良好で、再発は少ないとされています。

症状

無症状のことも少なくありませんが、拡張型心筋症などで心機能が低下している例では心不全症状である息切れ、呼吸困難、動悸(どうき)、むくみ、疲れやすさなどがみられます。肥大型心筋症では、動悸、胸部圧迫感などを訴えることがありますが、特に非閉塞性では明らかな自覚症状はなく、健診などの心電図あるいは胸部単純写真から診断されることが少なくありません。閉塞性ではめまいや失神発作がみられることがあります。

診断

いずれも診断のきっかけは、身体所見および心電図、胸部写真ですが、心エコーが診断の決め手になります。心エコーにより心筋の厚さ、内腔の拡大の程度、心筋の収縮力などを比較的短時間に診断できます。より正確な診断をするためには、心臓カテーテル検査を行い、冠動脈の異常がないかどうかを検査し、さらに心臓の機能を調べるとともに心臓の組織を検査のためにごくわずかに採取(心筋生検〈しんきんせいけん〉)することもあります。採取した組織を顕微鏡で観察し、細胞レベルでどのような変化が起きているかを調べます。これにより特定心筋症の診断がつく場合があります。また最近では心臓MRIも診断に有効とされています。

合併症として重症心室性不整脈がみられ、それが心臓性急死の原因となることがあるので、ホルター心電図などによる不整脈に対する検査も重要です。

心機能が低下すると、それに伴い運動するとすぐに息切れ等の症状が出現します。この運動耐容能を調べるのに心肺運動負荷試験を行うこともあります。心サルコイドーシスの診断にはアイソトープ検査(ガリウムシンチ)やPET-CTが有用です。

治療

特発性の場合はその病気に対して特異的な治療法はなく、一般的にはまず薬物治療が選択されます。

慢性心不全の状態では、心不全治療薬としてアンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬、β(ベータ)遮断薬、アルドステロン受容体拮抗薬などが病気の経過を改善するとのデータがあり、なるべくこれらの薬剤の投与が望ましいとされます。

無症状の肥大型心筋症は治療をせずに経過をみる場合もありますが、一般的には薬物治療が行われます。閉塞性の場合で薬物治療に抵抗がある場合には手術治療なども考慮されます。

拡張型心筋症では心不全治療を目的とした薬物治療が中心ですが、薬物治療にもかかわらず重症かつ難治性心不全状態が続く場合には、心臓再同期療法(ペースメーカーのリード〈電線〉を心臓の周囲数箇所に入れることで収縮運動を同期させる)が適応になることがあります。またこれらの治療を施しても改善しない場合、補助人工心臓・心臓移植などの外科的治療についても考慮する必要があります。

拘束型心筋症では、有効といわれる治療法はいまだ確立しておらず、対症療法が無効な場合には心臓移植も含めた検討をする必要があります。

虚血性心筋症ではいわゆるカテーテル治療(冠動脈インターベンション)や冠動脈バイパス術で心機能障害が改善する場合があります。

アルコール性心筋症の場合は、早期であれば断酒のみで改善します。サルコイドーシスの場合はステロイド剤が適応となります。

  1. 不整脈対策
    心筋症の患者さんでは不整脈を認めることが多く、時に命に関わる不整脈を合併することもあります。こういった不整脈のリスクが高いと判断される場合には、内服治療や、心臓カテーテルアブレーションにより不整脈の発生を抑える治療を行います。植込み型除細動器(ICD)が必要になる場合もあります。
  2. 血栓・塞栓症(そくせんしょう)の予防
    心機能が低下している患者さんでは、心臓の中で血液がよどみやすくなるため、血の塊いわゆる血栓ができやすくなります。これが心臓の中から血流に運ばれてほかの臓器の血管で詰まる、塞栓症を来すことがあるため、こういったリスクが高いと判断される場合はワーファリンという血液が固まるのを予防する薬を内服することが多いです。

生活上の注意

肥大型心筋症の予後は一般に良好ですが、若年発症例、病態の進行が早い例、家族内に突然死がある例などでは経過はよくありません。閉塞性では激しい運動直後に失神発作あるいは突然死が出現することがあるので、運動には注意が必要です。拡張型心筋症で心不全を発症すると経過は良くなく、内服治療の継続とともに、心不全に対する一般的注意として減塩、過労を避けることなどが重要となります。

慶應義塾大学病院での取り組み

慶應義塾大学病院で加療されている心筋症の患者さんには、外来通院で落ち着いている方から、心臓移植を必要とする重症な患者さんまで様々な方がいます。当院では、重症な患者さんに対し、閉塞性肥大型心筋症に対してはPTSMA(経皮的中隔心筋焼灼術)というカテーテル治療や末期心不全患者さんに対しCRT(心臓再同期療法)、ICD(植え込み型除細動器)の植え込みを行っており、効果を上げております。

詳しくは当科Webサイト外部リンクをご参照いただくか、循環器内科外来にてご相談ください。

さらに詳しく知りたい方へ

文責: 循環器内科外部リンク
最終更新日:2019年3月5日

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