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ドライアイ(dry eye)

どらいあい

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概要

ドライアイ(dry eye)は、眼表面の乾燥により引き起こされる眼疾患の総称です。我が国のドライアイ患者数は、約2,200万人ともいわれており、増加傾向にあります。我が国においては、1995年にドライアイ研究会により、ドライアイの定義と診断基準が初めて確立されました。その後、2006年に同じくドライアイ研究会によって改訂され、(1)自覚症状、(2)涙液の異常、(3)角結膜上皮障害、の全ての項目が満たされた場合にドライアイと確定していました。 そして2016年に新たなドライアイの定義と診断基準が決まり、今日の診療の中で広く用いられております。今回の改訂では、自覚症状と涙液(なみだ)の眼表面における不安定性のみで、ドライアイとして確定診断がなされるようになりました(表1)。

涙液は、主に油層・液層の2層で成り立っています。ドライアイの病態は、その涙液の構造や成分が何らかの形で異常を来したものですが、複雑で不明なところも多くあります。ドライアイの原因は多いのですが、例えば、油層の異常は、マイボーム腺機能不全などによりマイボーム腺からの油層成分の分泌が低下することによって起こり、液層の異常は、シェーグレン症候群などにより涙腺からの涙液(水層成分)の分泌が低下や、結膜の杯細胞からの分泌型ムチンが低下して起こるとされています。そして角結膜上皮表面に発現している膜型ムチンは、上皮表面の水濡れ性維持に寄与していると考えられています。涙液の状態を正確に把握することは、ドライアイの病態を理解するために重要だと考えられます。

症状

ドライアイの自覚症状は多彩です。具体的には、「目が疲れやすい」「目がゴロゴロする」「目が乾いた感じがする」「目が重たい感じがする」「目が痛い」「目やにが出る」「物がかすんで見える」「目が赤くなりやすい」「何となく目に不快感がある」「光をまぶしく感じる」「悲しくても涙が出ない」などです。

診断

診断は2016年に発表された「日本のドライアイの定義と診断基準(ドライアイ研究会)」により行われています。その中でドライアイは、「様々な要因による涙液層の安定性が低下する疾患であり、眼不快感や視機能異常を生じ、眼表面の障害を伴うことがある」と定義されています。ドライアイの診断にあたっては、「涙液層破戒時間(BUT)5秒以下、かつ自覚症状(眼不快感または視機能異常)を有する」という診断基準によって診断されるようになりました。すなわちこの診断基準の改定により、涙液の安定化をもたらすことが特に重要になり、その涙液層の安定化に寄与する因子をどのように治療していくかが重要となっています。その他、ドライアイの代表的疾患である、シェーグレン症候群の診断は、1999年のシェーグレン症候群の改訂診断基準(日本シェーグレン研究会)に基づいて行われることが一般的です(表2)。

表1.2016年ドライアイ診断基準(ドライアイ研究会)

涙液層破壊時間(BUT)* 5秒以下、かつ自覚症状(眼不快感または視機能異常)を有する。

表2.1999年シェーグレン症候群の改訂診断基準(日本シェーグレン研究会)

  1. 生検病理組織検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
    1. 口唇腺組織で4mm2当たり1focus(導管周囲に50個以上のリンパ球浸潤)以上
    2. 涙腺組織で4mm2当たり1focus(導管周囲に50個以上のリンパ球浸潤)以上
  2. 口腔検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
    1. 唾液腺造影でStageI(直径1mm未満の小点状陰影)以上の異常所見
    2. 唾液分泌量低下(ガム試験にて10分間で10mL以下またはSaxonテストにて2分間で2g以下)があり、かつ唾液腺シングラフィーにて機能低下の所見
  3. 眼科検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
    1. Schirmer試験で5分間に5mm以下で、かつローズベンガル試験(van Bijsterveldスコア)で3以上
    2. Schirmer試験で5分間に5mm以下で、かつ蛍光色素試験で陽性
  4. 血清検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
    1. 抗Ro/SS-A抗体陽性
    2. 抗La/SS-B抗体陽性

上記4項目のうち、いずれか2項目以上を満たせば、シェーグレン症候群と診断する。


治療

日本におけるドライアイの治療は、眼表面の涙液と眼表面上皮を層別に治療する方法、TFOT(Tear Film Oriented Therapy)が新しい治療概念として近年定着しています(図2)。涙液層を、油層と液層の二つに大別し、特に液層には涙腺から分泌された水分に、結膜杯細胞から分泌されるMUC5ACを主体とする分泌型ムチンが水分に保持される形で混じり込み、涙液層全体の安定性に寄与すると考えられています。

もう一つ涙液の安定性に寄与すると考えられているのが眼表面上皮の膜型ムチンであり、膜型ムチンを正常に維持することもドライアイ治療では重要とされています。具体的な治療方法ですが、液層における水分の補充には、人工涙液と呼ばれる点眼液が治療薬として用いられます。この点眼液は、涙液に近い電解質で構成されており、塩化ナトリウムと塩化カリウムがその主成分です。点眼することにより、眼表面の涙液量を増加させて潤します。ヒアルロン酸ナトリウムの点眼液は、角膜上皮の創傷治癒作用と涙液の安定化作用を示す薬剤で、ドライアイの治療薬として頻繁に用いられます。保湿作用があり、眼表面の乾燥を長時間防ぐことも可能です。

また、近年になって新規のドライアイ治療薬が開発され、ジクアホソルナトリウム点眼とレパミピド点眼が使われるようになりました。二つの点眼液は眼表面に発現してバリア機能や涙の水濡れ性に貢献している膜型ムチンを正常に戻す効果や、涙液の安定に寄与している分泌型ムチンを結膜杯細胞から放出する効果があります。また、ジクアホソルナトリウム点眼液は結膜上皮細胞から直接水分を放出させる効果があり、液層の水分補給により、乾燥感の強いドライアイ患者の治療には欠かせない点眼剤となっています。その他、ドライアイの病態により、免疫抑制剤やステロイド剤などの抗炎症系点眼を併用することもあります。

涙液の維持に最も簡便な方法としては、眼鏡やゴーグルの装用です。眼表面の涙液は絶えず蒸発していますので、それらを用いることによって眼の周囲の湿度を保って蒸発を最小限にすることができます。眼鏡に取り付けるサイドパネルも市販されています。また、涙点プラグは、涙点と呼ばれる涙液の排出口をシリコーン製の特殊なプラグで栓をして涙液が溜まるようにするものです。眼表面の涙液を長時間貯留させることにより、劇的にドライアイの症状を改善させることも可能です。最近では、シリコーン製ではなく、コラーゲン製の涙点プラグも開発されました。涙点閉鎖効果はシリコーン製よりやや劣るものの、シリコーン製にまれに認められる閉鎖後の異物感や肉芽形成の心配がない点が安心です。涙点閉鎖術は、涙点プラグでは対応できない場合に行われる外科的治療法です。涙点を焼却して閉鎖させるために、恒久的な涙液貯留効果を得ることが可能です。

生活上の注意

ドライアイの予防のための日常生活の注意点として、まず、冷暖房が完備された乾燥した部屋を避けることです。空気が乾燥していたり、その風が直接目に当たることによって、眼表面の涙液の蒸発が多くなるからです。乾燥を防ぐために加湿器を用いるのもよいでしょう。次に、読書、運転、コンピューター作業などで長時間連続して目を使うことを控えることです。そのような状況では、涙液の蒸発の上昇と瞬目(まばたき)の減少を引き起こして、ドライアイの原因となりえます。時々、目を休めて、人工涙液などを点眼するとよいでしょう。また、コンタクトレンズの使用はできるだけ控えることです。コンタクトレンズの使用により、涙液の蒸発が多くなり、ドライアイを引き起こす可能性があります。もし、コンタクトレンズを使用する場合には、時々、人工涙液を点眼するとよいでしょう。また、ストレスのない生活を心がけることも重要です。身体に精神的ストレスが加わると涙液の分泌が悪くなる可能性があります。

慶應義塾大学病院での取り組み

慶應義塾大学病院では、ドライアイの正確な診断と適確な治療の選択を心がけております。そのために、ドライアイに関連する多くの機器を備えております。ドライアイの精密検査を行い、その問題点を明らかにすることをモットーとしております。

文献

  1. 島崎潤ほか. 角膜疾患-考え方と病名 ドライアイの定義と診断基準. 眼科. 37巻7号. p.765-770(1995).
  2. 島崎潤ほか. 2006年ドライアイ診断基準. あたらしい眼科. 24巻2号. p.181-184(2007).
  3. 島崎潤ほか. 日本のドライアイの定義と診断基準の改訂(2016年版). あたらしい眼科. 34巻3号. p.309-313(2017).
  4. 藤林孝司. シェーグレン症候群改訂診断基準. 厚生省特定疾患免疫疾患調査研究班平成10年度研究報告書. p.135-138(1999).

さらに詳しく知りたい方へ

図1.涙液の流れ

図1.涙液の流れ
涙腺で産生された涙液は、その約1割が眼表面より蒸発し、残りの約9割が涙点より排出される。
(「ドライアイ 診断・治療レシピ」より許可を得て転載)

図2.新しいドライアイ治療概念 TFOT(Tear Film Oriented Therapy)

図2.新しいドライアイ治療概念 TFOT(Tear Film Oriented Therapy)
(ドライアイ研究会ホームページより許可を得て転載)

図3.涙液分泌に関わる腺組織

図3.涙液分泌に関わる腺組織
涙液の水層成分は主涙腺と副涙腺から分泌され、油層成分はマイボーム腺から分泌される。
(「ドライアイ 診断・治療レシピ」より許可を得て転載)

図4.実際のモイスチャーエイド®の装着

図4.実際のモイスチャーエイド®の装着
眼鏡のまわりをプラスチックでできたサイドパネル(モイスチャーエイド®)で覆う。
外見上、それほど目立たないので、女性でも装用可能。
(「Ocular Surface の診断と治療―ドライアイ―」より許可を得て転載)

文責: 眼科外部リンク
最終更新日:2024年2月29日

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