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軟部腫瘍

なんぶしゅよう

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概要

軟部腫瘍とは、脂肪組織、筋組織、線維性組織、末梢神経、血管など間葉系(非上皮性)組織と呼ばれる内臓を支持している、あらゆる組織から発生する腫瘍の総称です。軟部腫瘍には、脂肪腫や神経鞘腫、血管腫などの良性軟部腫瘍から脂肪肉腫、線維肉腫、平滑筋肉腫、滑膜肉腫などの悪性軟部腫瘍まで非常に多彩な種類の腫瘍が含まれています。良性と悪性軟部腫瘍の一番の違いは転移の可能性の有無にあります。良性軟部腫瘍では転移を起こす可能性はありませんが、悪性軟部腫瘍では転移を起こす可能性があり、生命に関わる危険性があります。悪性軟部腫瘍は内臓で言うところのがんにあたる腫瘍であり、専門的には軟部肉腫と呼ばれています。

軟部腫瘍の治療にあたっては、組織型と呼ばれる腫瘍の種類の違いや、良悪性の違いによって、治療方法が異なってくるため、治療をはじめる前に、どのような種類の腫瘍であるか、良性軟部腫瘍なのか、悪性軟部腫瘍なのか、診断を確定させることが最も重要になります。

また、皮膚の下の皮下脂肪組織(皮下組織)にも軟部腫瘍が発生することがあります。そして、この皮下組織に発生する軟部腫瘍のうち、20%程度に悪性軟部腫瘍が含まれていることが知られています。しかしながら、皮下組織の軟部腫瘍は良性が多いという固定概念があり、十分な治療前の検査がおこなわれないまま、不適切な治療がおこなわれてしまうことがあり、問題となっています。不適切な治療がおこなわれた場合には、その後の治療に大きな影響を及ぼすため、皮下組織にできた軟部腫瘍であっても専門医のもとで検査をおこない、診断を確定させてから、適切な治療をおこなうことが重要になります。

症状

軟部腫瘍の中には、血管腫神経鞘腫のように痛みやしびれなどの症状を伴う腫瘍も一部にありますが、多くの軟部腫瘍では、悪性であっても症状がない場合がほとんどです。そのため、症状がないからといって、悪性ではないということではないため、専門医の診察を受けることが重要になります。

診断

軟部腫瘍では、画像診断が、問診や触診のあとにおこなう大切な検査になります。ただし、軟部腫瘍は、通常の単純X線検査では基本的には描出されません。また、軟部腫瘍の検査で、エコー検査がおこなわれることがありますが、エコー検査だけでは、軟部腫瘍の有無はわかりますが、どのような種類の軟部腫瘍かまではわかりません。そのため、軟部腫瘍の画像診断ではMRI検査が最も重要になります。MRIは被曝する事無く、任意の断面で病変を描出可能で、また腫瘍の種類毎に特徴的な画像所見を示す事があり、どのような種類の軟部腫瘍ができているかを診断するための手がかりとなります。また、MRI検査の際には、造影剤を使用することが推奨されます。造影剤を使用することにより、腫瘍の質や腫瘍の範囲、腫瘍の活動性をより詳細に検討することが可能になります。

MRI検査の結果によっては、確定診断をつけるために生検をおこなうことがあります。生検とは、腫瘍の一部分を採取し、採取した腫瘍の細胞を顕微鏡で観察する病理検査と呼ばれている検査です。生検の方法には針生検や切開生検などいくつかの方法があります。確定診断をおこなうためには、確実に腫瘍の細胞を採取する必要があるため、切開生検が推奨されます。切開生検は腫瘍の一部分を切開して採取する方法です。切開生検は手術室で全身麻酔をして検査をおこなうため、3泊4日程度の入院が必要になります。

以上の検査で、軟部腫瘍の種類、良性か悪性かが診断できたら、治療方法を検討します。また、診断結果によっては、CT検査やPET検査などの追加検査をおこなうこともあります。

治療

軟部腫瘍では手術で腫瘍を切除することが治療の原則になりますが、手術の方法が良性と悪性の軟部腫瘍では大きく異なってきます。そのため治療をはじめる前に十分な検査をおこない、確定診断をつけることが大切です。

良性軟部腫瘍では腫瘍ができている部分だけを切除する手術が基本になります。また良性軟部腫瘍では、症状がなければ経過観察をおこない、日常生活に支障をきたす症状が生じた場合に手術をすることも可能です。

一方、悪性軟部腫瘍では、腫瘍の部分だけでなく、腫瘍のまわりの正常な組織を腫瘍とともに切除する広範切除術が必要になります。これは悪性軟部腫瘍が再発したり、転移したりすることを防ぐためです。悪性軟部腫瘍では画像で見えている腫瘍の範囲よりもさらに広い範囲に腫瘍の細胞が広がっていることがあるため、正常な組織で腫瘍を包みこんで切除する必要があります。そのため、悪性軟部腫瘍が発生している場所によっては、腫瘍のまわりの正常な神経や筋肉などを腫瘍とともに切除する必要がある場合もあり、手術後に正常な組織が失われたり、失われた組織によっては運動機能の低下につながったりすることもあります。そのため、当院では腫瘍の範囲を正確に評価し、精密でなおかつ切除する範囲を最小限に抑えた広範切除術をおこなうためMRIで使用可能な各種のマーカーや造影剤を用いたエコーを駆使して精密な縮小手術をおこなうための工夫にも取り組んでいます。悪性軟部腫瘍の治療は広範切除が原則ですが、腫瘍の種類や腫瘍が発生している場所によっては、できる限り、正常な組織やその機能が失われるのを防ぐために抗がん剤を用いた化学療法や放射線治療を併用した手術をおこなうこともあります。

また、悪性軟部腫瘍といっても、転移や再発をほとんどしない腫瘍から、高率に転移や再発をおこす腫瘍まで、様々な悪性度の腫瘍が含まれています。より顔つきの悪い高悪性度の悪性軟部腫瘍では、再発や転移のリスクが増加し、生命への影響が懸念される場合もあるため、手術だけでなく、抗がん剤治療を用いた治療を積極的に検討することもあります。悪性軟部腫瘍に対する抗がん剤の有効性は、まだまだ、解明されていない部分もあるため、治療成績の向上を目指して、Japan Clnical Oncology Group (JCOG: 日本臨床腫瘍研究グループ)を中心に抗がん剤の臨床試験が実施されています。当院も積極的に臨床試験に参加し、患者さんの治療に取り組んでいます。

当院の軟部腫瘍に対する取り組み、外来スケジュール、手術件数、腫瘍チームなどの詳細は整形外科学教室 骨・軟部腫瘍グループの紹介ページ外部リンクで確認することができます。

文責: 整形外科外部リンク
最終更新日:2017年2月27日

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