概要
首の背骨の後ろ、神経の前方部にあり、背骨を安定させる靭帯である後縦靱帯(こうじゅうじんたい)が何らかの原因で骨に変化(骨化:こっか)して、この骨化したものが脊髄を圧迫する病気です。脊椎以外にも靭帯組織が骨化するびまん性特発性骨格骨化症(骨増殖症)の一部分症状であるとの考えもあります。
日本人の約3%にOPLLが存在することが知られており、男女比は2:1で男性に多い傾向があります。OPLL患者さんのご兄弟にX線上のOPLLが存在する割合は30%であるとの報告などから、遺伝的素因が関与することは明らかです。近年厚生労働省主導の臨床研究が進み、遺伝的特徴が一部解明されつつありますが、未だ成因は不明です。また、厚生労働省特定疾患として認められており、日常生活に介助を要するほどの障害を有する場合には、医療費の公費負担を受けることができます。
症状
骨化が進行し神経を圧迫すると、頚椎症性脊髄症と同様な症状(手足のしびれ・痛み、手足の運動障害など)が出現します。症状が出現してくるのは50歳台が多いとされています。OPLLに特別な症状というものはなく、頚髄が圧迫されることにより、頸部や背部の痛み、上肢の痛みやしびれ、感覚・筋力の低下が生じます。手指巧緻運動障害は、箸が使いにくい、袖のボタンが上手くかけられないなどの障害として現れます。手指巧緻運動障害の評価法に10秒テストがあり、10秒間でグーパーを繰り返し、その回数が20回以下であった場合、巧緻運動障害ありと診断します。その他の頚髄の障害としては痙性の歩行障害(歩行がぎこちない、スムーズに脚が運べないなど)や膀胱直腸障害(頻尿・開始遅延・失禁)などが挙げられます。_
症状は必ずしも進行性ではありません。自然経過で脊髄の障害が悪化する患者さんの割合は1/4程度で、3/4の患者さんは症状に大きな変化は認めないと報告されています。ただし、症状がないか軽くても、転倒などの軽微な外力による怪我で神経の障害が正常の人よりも起こりやすく、場合によっては強く麻痺を生じることもあるので注意が必要です。
診断
診断で最も大切なのは患者さんの診察による神経所見となります。単純X線(図1)が診断の基本となりますが、X線だけでは読影困難なOPLLも多く、疑わしい場合にはCTを行うと確定診断ができます。脊髄神経への圧迫の程度はMRIを行い評価します。
図1
治療
治療は、症状に応じて消炎鎮痛剤、ビタミン剤の内服、装具療法などを行いますが、症状が進み、運動麻痺(手の使いにくさ、歩行困難)や排尿排便の障害などが出てきた場合は手術療法が必要になります。当院では頚椎症性脊髄症と同様に神経の通り道を拡大する片開き式脊柱管拡大術を主に行っておりますが、症例によっては首の前方から進入して骨を削り、骨化部分を直接取り除く前方固定術や、後方から螺子(スクリュー)を用いた後方除圧固定術を行います。骨化を削った際は、骨を削った部分に骨を移植します。詳しくは外来担当医にご相談ください。
生活上の注意
日常生活において過度な安静をする必要はありません。頚部を後屈(後ろに反る)する姿勢は、脊柱管が狭くなる傾向にあるため、できるだけ避けていただくことを指導しています。また、OPLLの患者さんは比較的軽微な外力で脊髄を損傷してしまうことがあります。飲酒後の転倒や階段での転落などには十分ご注意ください。
慶應義塾大学病院での取り組み
OPLLは厚生労働省が特定疾患に指定しており、「脊柱靭帯骨化症に関する研究班」で疾患に対する病態の解明や治療法について研究がなされております。当施設も研究分担施設として本疾患の病態・治療の研究を行っております。病因を解明する遺伝子の研究や患者さんへのアンケート調査などさまざまな調査研究を行っておりますので、詳しくは外来担当医にご相談ください。
文責:
整形外科
最終更新日:2018年1月15日