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心臓リハビリテーション

しんぞうりはびりてーしょん

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概要

近年の心臓リハビリテーションは、1995年、米国公衆衛生局により、「医学的な評価、運動処方、冠動脈危険因子の是正、教育およびカウンセリングからなる長期にわたる包括的なプログラムであり、このプログラムは、個々の患者の心疾患に基づく身体的・精神的影響をできるだけ軽減し、突然死や再梗塞のリスクを是正し、症状を調整し、動脈硬化の過程を抑制あるいは逆転させ、心理社会的ならびに職業的状況を改善すること。」と定義され、心臓病後の社会復帰に重点が置かれるようになりました。日本においても、リハビリテーションの内容は、運動療法による身体機能や運動耐容能の改善のみならず、冠動脈危険因子の改善に必要な食事療法のための栄養指導や禁煙指導、服薬指導、心理士によるカウンセリング、家族に対する指導など多くの内容を含んだ包括的なものとなっています。多くの医療専門職が関わり、患者さんの生活の質を高め、生命予後(病気の見通し)の改善を目指していきます。

心臓リハビリテーションによる運動療法の効果

運動トレーニングにより末梢循環や骨格筋の機能が改善され、運動耐容能の改善(最高酸素摂取量の増加、同一負荷強度における血圧と心拍数の低下)、自律神経機能改善、血管内皮の機能改善、心理的効果、生命予後の改善が期待できるとされており、総合的に患者さんの生活の質の向上に寄与できると考えられます。

診断

安静時の心機能は日常の活動能力を反映しないため、心疾患の患者さんの心予備能力、活動能力を評価し、安全に運動できる運動量を知ることができ、運動療法の内容を決定するために心肺運動負荷試験を行います。
自転車エルゴメーターと呼ばれるペダルをこぐ装置またはトレッドミルと呼ばれるベルトコンベア様の上を歩く装置を用いて、運動をしながらマスクを装着し、徐々に負荷をかけながら呼気ガス中の酸素と二酸化炭素の量を計測します。同時に心電図や血圧を測定し、自覚症状や検査の値を見ながら医師の立会いのもとで安全に行われます。
(慶應義塾大学病院では、心疾患の方の心肺運動負荷試験は、循環器内科医師を中心にスポーツ医学総合センターにて行っています。)

治療

心筋梗塞のリハビリテーション

再還流療法(カテーテル治療)やCCU(coronary care unit、心臓病の集中治療室)の普及、冠動脈バイパス術など、最近の心筋梗塞の治療法の進歩により、早期退院が可能となりました。そのため、冠動脈硬化の危険因子を是正し再発予防や生活の質を高めるためのリハビリテーションを行うことが主流となっています。

心筋梗塞の心臓リハビリテーションには、急性期、回復期、維持期があり、それぞれの過程において目標が決められ、順次移行していきます。心臓リハビリテーションを進めていく上で循環器系の状態評価は欠かせません。特に運動負荷により悪化を来さないか、もしくはどの程度まで負荷が可能かを評価する必要があります。

  • 急性期(入院早期)
    心筋梗塞発症後、胸部症状や不整脈、心不全など合併症の出現の可能性の高い入院直後は絶対安静であることが多いのですが、入院12時間以降で心血行動態が安定していれば、ベッド上安静の解除が勧められます。急性期には、身の回りの日常生活動作を安全に行えるようになることと、早期から再発、症状の悪化予防のためにどのように生活すればよいのかを学んでいくことが目的になります。運動負荷による合併症(不整脈の出現や心機能の低下など)が起こるかどうか確認しながら訓練を実施するので、訓練前に心電図モニターを装着し、訓練前・中・後に血圧、脈拍、酸素飽和度、運動強度の自覚を記録するという医師・コメディカルによる監視型の運動療法を行います。

    運動強度並びに活動度は段階的に負荷を増やし、決められたプログラムに沿って進めていく施設も多いです。200m程度、病棟内歩行が出来るようになれば、回復期(前期回復期)へ移行して運動療法が行えるかを検討します。回復期リハビリテーションの開始に当たっては、運動負荷試験(後述)を実施して安全を確認します。

  • 回復期(入院後期から退院後1~3か月ごろまで)
    かつては退院後以降を指していましたが、最近では心筋梗塞発症後1週間程度以降、入院中に前期回復期リハビリテーション(入院期間の短い場合は回復期リハビリテーションのためのエントリーや評価が中心となる場合もある)を行い、退院後外来にて後期回復期リハビリテーションを継続するという流れになってきています。

    この時期は、社会復帰するまでの間の準備期に相当し、徐々に身体活動の範囲を広げていきます。内容は運動療法のみならず、生活習慣是正のための教育、食事指導、職場復帰のためのカウンセリングなどからなります。急性心筋梗塞の治療が進歩した近年においても心筋梗塞を患った患者さんの死因に占める再発死亡の割合が多いことから、回復期心臓リハビリテーション以降の生涯にわたる冠動脈硬化の危険因子(血圧、コレステロール、糖尿病肥満など)の是正が長期予後の改善のためには非常に重要です。

    運動療法の開始に当たり、自覚症状などの問診や心電図などの検査を行って問題がなければ開始します。運動負荷試験を行い、安全に運動できる運動負荷量を個々に応じて決定します。ウォーミングアップ、持久性運動、レジスタンス運動、クールダウンからなります。

    ウォーミングアップではストレッチ体操などの準備運動に引き続き、徐々に心拍数を高めていきます。持久性運動(歩行、サイクリング、水泳など)では運動負荷試験で測定した嫌気性代謝閾値(増加する運動強度において有機的エネルギー産生に無機的代謝によるエネルギー産生が加わる直前の運動強度のこと(Wasserman,1985))、または、予測最大心拍数の50~70%、心拍予備能(最大心拍数-安静時心拍数)の40~60%、自覚症状としてややきつい程度の目標値の運動を1日に20~60分間、週3~5日行います。最近は最大酸素摂取量の85~90%と50%程度の強度の運動を交互に行うインターバルトレーニングも効果的だと考えられています。レジスタンス運動はゴムバンドやマシーンを使用する手足や体の筋力増強運動です。負荷量の設定を個々に応じて慎重に設定し、8~15回を1セットとして1日1~3回、週に3回程度実施します。クールダウンでは、速度を落とした歩行、ストレッチ体操などを行い、徐々に安静時の心拍数や血圧に戻るようにします。運動負荷を行う上で、中止基準が設けられており、必ず確認しながら行います。
  • 維持期(その後)
    社会復帰が行われた後、生涯にわたり良好な身体や精神状態を維持していく時期です。患者さんの重症度を評価し、現在の状態の把握、患者さんが必要としている活動度のレベルと社会適応能力を評価し、対策を検討します。その上でプログラムを設定します。残念ながら維持期のリハビリテーションを実施できている施設は日本では少ないのが現状ですが、最近では誰もが参加できるプログラムを提供する組織団体の運営も始まりました。

心不全のリハビリテーション

慢性心不全の患者さんの中で、呼吸困難や足のむくみ、肺うっ血などが顕著でない患者さんは、運動療法を行うことで運動時の呼吸困難感や疲れやすいなどの自覚症状を軽減し、さらには生活の質を向上させ、再入院を防止し生命予後を改善させることができるという報告が得られています。また、急性心不全発症後の患者さんであっても、過剰な安静による悪影響(筋力低下や日常生活動作能力の低下、床ずれ、血栓など)を避け、自己管理を学んで再発や再入院を避けるため、適切なリハビリテーションが必要です。

リハビリテーションの内容は運動療法だけでなく、心不全についての学習指導やカウンセリングなどを含むものとなっており、医師、看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士など多職種による介入が行われます。
心不全の患者さんはその原因や重症度が一様ではないため、運動療法は、安静時の症状が落ち着いている場合に医師が身体所見や心電図・血液検査・運動負荷試験などの検査結果に基づいて個別にメニューを作成し、慎重に実施します。原則として自覚症状、心電図モニター、血圧、心拍数をモニタリングしながらの医師・コメディカルによる監視下の運動療法から開始し、安全性が確認された後、自宅において非監視下の運動療法に移行します。また、経過中定期的な運動メニューの見直しが必須であり、症状や検査結果に基づいて運動量の調節を適宜行います。運動の種類は歩行、自転車エルゴメーター、軽いエアロビクス体操、軽い筋力トレーニングで、それぞれの患者さんに合わせて運動の時間・強さ・頻度を決めて行われます。多くの心不全の患者さんにジョギングや水泳、激しいエアロビクス体操は勧められません。

心肺運動負荷試験

安静時の心機能は日常の活動能力を反映しないため、心疾患の患者さんの心予備能力、活動能力を評価し、安全に運動できる運動量を知ることができ、運動療法の内容を決定するためにこの試験を行います。

自転車エルゴメーターと呼ばれるペダルをこぐ装置またはトレッドミルと呼ばれるベルトコンベア様の上を歩く装置を用いて、運動をしながらマスクを装着し、徐々に負荷をかけながら呼気ガス中の酸素と二酸化炭素の量を計測します。同時に心電図や血圧を測定し、自覚症状や検査の値を見ながら医師の立会いのもとで安全に行われます。
(当院では、心疾患の方の心肺運動負荷試験は、循環器内科医師を中心にスポーツ医学総合センターにて行っています。)

慶應義塾大学病院での取り組み

心筋梗塞のリハビリテーション

当院では急性心筋梗塞で入院された患者さんに対し、特に禁忌事項がなければ、発症日からの経過日数により、下のような進行表に従って段階的に運動負荷を上げていきます。リハビリテーションは循環器内科医師の指示に基づき、病棟スタッフとリハビリテーション科スタッフが協力して行います。多くは1日から数日かけてステップアップし、安定したところで運動負荷試験を行って生活や運動に関する指導を受け、約10日程度で退院となります(図1)。

訓練段階

第1病日

第2病日

第3病日

第4病日

第5病日

第6病日

第7病日

第8病日

第9病日

第10病日

訓練内容

ベッド上安静

寝返り

立ち座り

室内歩行

100m× 3回/日

200m× 3回/日

500m× 3回/日

階段昇降1階

階段昇降2階

院内フリー

トイレ

 

 

ポータブルトイレ

室内
トイレ

病棟内
トイレ

 

 

 

 

 

整容・入浴

 

 

清拭

介助洗髪

清拭自立

 

シャワー

 

 

 

図1.進行表

心不全のリハビリテーション

入院患者さんにおいては、慢性心不全のコントロールがつかなくなった場合、または急性心不全として入院加療される患者さんにおいて、個別に運動負荷量を設定しながらリハビリテーションを開始します。その運動強度は「心筋梗塞後のリハビリテーション」のように徐々に運動負荷量を上げていきますが、必ず自覚症状、心電図モニター、血圧、心拍数をモニタリングしながら行い、可能となった時点で運動負荷試験を行って、どのレベルまで運動できるかを確認しながら行います。よって、退院時の到達レベルは個別で異なります。また、退院時に慢性心不全のリハビリテーションへ移行し、外来でのリハビリテーションを継続していきます。

大動脈解離など大血管疾患のリハビリテーション

大動脈解離など大血管疾患罹患後の患者さんのリハビリテーションを行っています。

心臓外科術後のリハビリテーション

心臓弁膜症や大血管疾患、虚血性心疾患などで当院で心臓手術を行った患者さんの術後リハビリテーションを行っています。

経カテーテル大動脈弁留置術 (TAVI, transcatheter aortic valveimplantation)後のリハビリテーション

当院心臓血管低侵襲治療センターで行われている経カテーテル大動脈弁留置術施行前後の患者さんの評価やフォローアップを行っています。

さらに詳しく知りたい方へ

文責: リハビリテーション科外部リンク
最終更新日:2022年01月24日

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