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パーソナリティ障害(人格障害)

ぱーそなりてぃしょうがい(じんかくしょうがい)

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概要

まずパーソナリティとは、その人に比較的固定した、物事の捉え方、思考および行動のパターンを意味します。これは、眼鏡に喩えると理解しやすいかも知れません。パーソナリティとは、人が生まれたときからかけていて、はずすことのできない眼鏡です。この眼鏡のレンズには、その人その人の歪みがあります。人は常に自分の眼鏡越しに現実を見ているため、自分は現実をありのままに捉え、その中で思考し行動していると思っています。ところが、傍から見ている人にしてみると、如何にもその人らしい物事の捉え方をしており、その捉え方に沿って思考し行動しているということになります。こうした眼鏡のレンズの歪みが、その人の属している文化から期待される範囲内にある限り、その歪みは「その人らしさ」とか「個性」と呼ばれます。

この歪みが文化の許容範囲を超えて柔軟性がなく極端な場合、つまり何を見ても同じように受け取り、ワンパターンで極端な思考と行動が繰り返され、さらにその認知、思考、行動が長期間にわたりさまざまな対人関係場面において広範囲にみられるとき、そのパーソナリティは障害されていると考えます。パーソナリティ障害は自分自身や他者との対人関係において表現されるため、自分自身に対して何かある度に「自分は一人では何もできない」と考えたり、他者に対して「この人もきっと自分のことを嫌いになるに違いない」と思ったりして、その認知に従って行動したりするという具合です。

症状

米国精神医学会による診断基準である「DSM-5:精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition)」では、パーソナリティ障害の特徴は以下のようにまとめられています。(表1)

表1.DSM-5によるパーソナリティ障害の全般的診断基準

  1. その人の属する文化から期待されるものから著しく偏った、内的体験および行動の持続的様式。この様式は以下の領域の2つ(またはそれ以上)の領域に現れる。
     (1)認知(すなわち、自己、他者、および出来事を知覚し解釈する仕方)
     (2)感情性(すなわち、情動反応の範囲、強さ、不安定性、および適切さ)
     (3)対人関係機能
     (4)衝動の制御

  2. その持続的様式は柔軟性がなく、個人的および社会的状況の幅広い範囲に広がっている。

  3. その持続的様式が、臨床的に意味のある著しい苦痛または、社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

  4. その様式は安定し、長時間続いており、その始まりは少なくとも青年期または成人期早期にまでさかのぼることができる。

  5. その持続的様式は、他の精神疾患の表れ、またはその結果ではうまく説明されない。

  6. その様式は安定し、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患(例:頭部外傷)の直接的な生理的作用によるものではない。

DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院.2014)の表を転載

パーソナリティ障害は、症状の類似性に基づいて3つの群に分けられます。A群には、猜疑性、シゾイド、および統合失調型パーソナリティ障害が含まれていて、これらの障害をもつ人の特徴は、奇妙で風変わりに見えることです。B群には、反社会性、境界性、演技性、および自己愛性パーソナリティ障害が含まれていて、これらの障害をもつ人の特徴は、演技的で、情緒的で、移り気に見えることです。C群には、回避性、依存性、および強迫性パーソナリティ障害が含まれていて、これらの障害をもつ人の特徴は不安または恐怖を感じているように見えることです。

  1. 猜疑性パーソナリティ障害(paranoid personality disorder)
    他者の動機を悪意あるものとして解釈するといった不信と疑い深さを特徴とします。十分な根拠なしに、他者は自分を利用する、またはだますと決めてかかり、警戒心を抱きます。他者の誠実さや信頼を不当に疑うといったことにとらわれているため、他者との間で信頼関係や協力関係を築くことが困難です。

  2. シゾイドパーソナリティ障害(schizoid personality disorder)
    社会的関係からの離脱、対人関係場面での情動表現の制限を特徴とします。この障害を持つ人は、親密になりたいと思わず、他の人々と一緒にいることよりも一人で過ごすことを好みます。
    このパーソナリティ障害をもつ人を自閉スペクトラム症の軽症型と区別することが時に非常に困難になります。

  3. 統合失調型パーソナリティ障害(schizotypal personality disorder)
    親密な関係では急に緊張し落ち着いていられなくなること、そうした関係を築く能力が足りないこと、加えて認知的または知覚的歪曲と風変わりな行動を特徴とします。

  4. 反社会性パーソナリティ障害(antisocial personality disorder)
    他者の権利を無視し侵害することを特徴とします。この特徴は精神病質や社会病質と呼ばれることがあります。法律的規範を破り、無責任な行動を繰り返します。

  5. 境界性パーソナリティ障害(borderline personality disorder)
    対人関係、自己像、感情などの不安定および著しい衝動性を特徴とします。見捨てられることに対して敏感で、そうなるのをなりふりかまわず避けようとします。他者を過剰に理想化したかと思うと同じ人物をこき下ろすという具合に、その対人関係は極端で不安定です。

  6. 演技性パーソナリティ障害(histrionic personality disorder)
    過度な情動性と人の注意を引こうとすることを特徴とします。自分が注目の的になっていないと楽しくありません。そのため、不適切なほど性的な誘惑や挑発的な行動によって注目を集めようとします。

  7. 自己愛性パーソナリティ障害(narcissistic personality disorder)
    空想や行動にみられる誇大性、賞賛されたいという欲求、共感の欠如を特徴とします。自らの能力や業績を過大に評価して誇大感をもっていて、際限のない成功や権力、美しさの空想にとらわれています。

  8. 回避性パーソナリティ障害(avoidant personality disorder)
    社会的抑制、不全感、および否定的評価に対する過敏性を特徴とします。他者から批判や非難を受けたり拒絶されたりすることを常に恐れていて、重要な対人関係場面であっても回避しがちです。

  9. 依存性パーソナリティ障害(dependent personality disorder)
    面倒をみてもらいたいという過剰な欲求を特徴とします。そのため、依存欲求を向ける他者に対して、従属的でしがみつく行動をとり、その人から分離することに恐怖を抱きます。

  10. 強迫性パーソナリティ障害(obsessive-compulsive personality disorder)
    秩序、完璧主義、精神および対人関係のコントロールにとらわれるあまり、柔軟性、開放性、効率性が犠牲になることを特徴とします。細部や順序、形式にとらわれるあまり、締め切りに間に合わないなど肝心なことを達成できなかったりします。

診断

パーソナリティ障害とは、持続的な内的体験および行動の様式です。ですので、その診断を横断的な状態像だけで行うことはできません。その様式が長期間にわたりさまざまな対人関係領域で確認される必要があります。
また、パーソナリティ障害をもつ人は、パーソナリティ障害そのものを受診動機として医療機関を訪れることはまれです。受診の直接のきっかけになるのは、1)抑うつ、不安、パニック発作、希死念慮、不眠といった精神症状、2)自傷や自殺企図、摂食障害や物質依存、引きこもりや非行といった行動の異常、あるいは3)異性関係などさまざまな対人関係トラブルなどです。
さらに、鑑別診断が重要です。気分障害や不安障害のエピソード中にパーソナリティ障害に似た状態を呈する場合があります。そのエピソードが慢性化すると、ますますパーソナリティ障害との鑑別が困難になります。外傷後ストレス障害によって生じるパーソナリティ変化や、物質関連疾患に伴う行動異常もパーソナリティ障害と似ていることがあるので注意が必要です。

治療

パーソナリティ障害の治療では、患者との間で明確な治療目標を設定し、その目標達成に向けて、双方が協力して粘り強く治療に取り組むことが重要です。
現在、パーソナリティ障害それ自体に対して保険適用のある薬物はありません。対症療法的に、気分安定化薬や抗精神病薬が使用されることがあります。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬は衝動性を高める危険性があるので注意が必要です。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、依存性や乱用の危険性があるため、投与は控えるのが適切です。

パーソナリティ障害は概して加齢に伴って目立たなくなったり軽快したりする傾向があります。反社会性および境界性パーソナリティ障害でこの傾向がよく当てはまります。その一方で、強迫性よび統合失調型パーソナリティ障害では、この傾向はあまり当てはまらないようです。

パーソナリティ障害の中で最も多くの研究が行われている境界性パーソナリティ障害において、その症状はしばしば一生続きますが、治療的介入を受けた場合は治療開始1年以内に改善し始めることもあります。大部分の人は、30代や40代になると、対人関係も職業面の機能もずっと安定してきます。追跡研究の結果から、約10年後には半数以上がその診断基準を完全に満たす行動様式を示すことはなくなることが明らかになっています。

さらに詳しく知りたい方へ

  • DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル / American Psychiatric Association [編] ; 染矢俊幸 [ほか] 訳 東京 : 医学書院, 2014.6

文責: 精神・神経科外部リンク
最終更新日:2017年3月6日

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