Q1. 不育症とは?
A.不育症とは、妊娠はするものの、流産・早産を繰り返したり、死産となったりすることで、元気な赤ちゃんを得ることができない状態を指します。以下のものが含まれます。
- 習慣流産:3回以上の連続した流産 *
- 反復流産:2回続けての流産
- その他:1回以上の妊娠10週以降の死産(子宮内胎児死亡)など
* 流産とは、妊娠 22週未満で妊娠が終わることをいいます。通常、化学妊娠(化学流産)**は不育症の流産回数には含めません。
** 化学妊娠(化学流産) とは、妊娠反応は陽性になりますが、超音波検査を含めたその他の検査では妊娠が確認できないまま、次の月経が発来することをいいます。
Q2. 不育症を疑うときは?
A. 1回の自然流産は決して珍しいことではなく、年齢にもよりますが妊娠した人の10~15%に起こります。そのほとんどは、ご夫婦に問題があるのではなく、赤ちゃん側、すなわち受精卵の偶発的な染色体異常が原因になります。しかし、このタイプの流産を治療したり予防したりするのは困難です。
自然流産の起きる確率から考えると、偶発的な自然流産が2回続くことも、決して珍しいことではありません。しかしその場合、赤ちゃん側ではなく、ご夫婦のいずれかに、流産を繰り返す何らかの原因がある可能性も否定はできません。まして、流産が連続して3回以上になると、習慣流産と呼ばれ、積極的な検査とその結果に基づいた治療・管理が必要になります。また、たとえ1回であったとしても、原因がはっきりしない妊娠10週以降の流産(子宮内胎児死亡**)や死産を経験された方は相談されるのが良いと思います。
** 一度は胎児の生存(心拍動)が確認できたものの、その後子宮内で死亡(心拍動停止)が確認されたものを指します。
Q3. どのような検査がありますか?
A. 大きく分けて、内分泌(ホルモン)検査、子宮の形を評価する子宮形態検査、自分の体に対する抗体を調べる自己抗体検査、血の固まりやすさを調べる凝固系検査、および夫婦染色体検査があります。過去の流産・死産歴や産婦人科問診・診察からだけでは、原因を推定することは難しいので、以下の検査を一通りすることが一般的です。希望に応じて、検査項目を取捨選択することはできます。
1) 内分泌検査(血液検査)
甲状腺機能、下垂体ホルモン、卵巣ホルモンについて調べます。また、糖尿病の有無についても調べることがあります。これにより、着床やその後の妊娠の継続に必要な黄体ホルモン(プロゲステロン)が足りているか、母乳や生理の調節に関係するホルモン(プロラクチン)が高くないかなどが分かります。
2) 子宮形態検査(内視鏡・X線造影)
内視鏡を用いて子宮の中を観察する「子宮鏡検査」と造影剤を子宮の中に入れてレントゲンで撮影することにより子宮の中の状態と卵管の通過性を評価する「子宮卵管造影検査」があります。なお、後者は状態に応じて行います。これらの検査により、子宮の中に影響を及ぼす子宮筋腫や先天的な子宮奇形による子宮の形の異常があるかどうかがわかります。
3) 自己抗体検査(血液検査)
自己抗体は自分の体に対する抗体で様々なものがあり、種類によっては血液を固まりやすくさせるものがあります。血液が固まりやすくなると、小さな血栓(血の塊)ができて、それが原因で流産が起きやすいと考えられています。代表的なものとして、抗リン脂質抗体があります。検査する自己抗体の種類は、患者さんによって異なることがあります。
4) 凝固系検査(血液検査)
血液が固まりやすくなっているか(凝固能の亢進)、また、血液を固める物質(凝固因子)がどのくらいあるのか、といったことを調べます。検査する凝固因子の種類は、患者さんによって異なることがあります。
5) 染色体検査(血液検査)
ご夫婦それぞれの染色体の数や状態を調べます。その結果、流産しやすい染色体の状態なのかが判明します。ただし、染色体が原因で流産しやすいということがわかっても、現時点ではそれに対して有効な治療法はありません。ただし、着床前診断という方法が、流産をできるだけ回避するための一つの選択肢として存在します。
Q4. どのような治療法がありますか?
A. 大きく分けて3通りあります。それぞれの異常に対応した治療法を選択していきます。
1) 内分泌(ホルモン)療法
- プロゲステロンが足りない→プロゲステロン補充療法(薬物療法)
- プロラクチンが高い→基本的には薬物療法(プロラクチンを下げる薬)ですが、原因が下垂体腫瘍の場合は、手術をすることがあります。
- 甲状腺機能異常・肥満・糖尿病→ライフスタイルの改善や食事療法、あるいは薬物療法(内分泌代謝内科との併診)
2) 手術療法
先天的な子宮の形の異常や子宮の中を変形させる子宮筋腫などがある場合に手術を行うことがあります。
3) 抗凝固療法
血栓と関係する自己抗体を持っていたり、凝固能の亢進や凝固因子の異常がある場合に抗凝固療法を行うことがあります。具体的には、低用量アスピリン(飲み薬)やヘパリン(注射)を必要に応じて使います。
ただし、一連の検査を行っても、不育症の明らかな原因が見つからない場合が半数に上ります。また、仮に検査で異常が見つかっても、流産、早産、あるいは死産をされた年齢、現在の年齢、これまでの流早死産の回数や状況、検査結果の異常の程度などによっては、上記の治療とは違う内容の治療を選択することもあります。原因が見つからなかった場合だけでなく、異常が軽度であれば、場合によっては無治療で次の妊娠に臨むという方針になることもあります。なぜなら、無治療での成績も決して悪くはありません。上記はあくまでも参考で、当院ではこれらの検査や治療が施行可能であるとご理解していただければ幸いです。
不育症は様々な原因で起こり、また妊娠の成立や維持の仕組みも十分に解明されていない部分がたくさんあります。「できることは何でもしたい」「あらゆる治療を受けて次の妊娠に臨みたい」というお気持ちは十分理解できますが、医学的な根拠(エビデンス)にある程度基づいた治療を行わなければならないのも事実です。
<診療手順>
不育症の初診外来は、月曜午後1時より行っておりますので、診療希望の方はお電話で予約をお取りください。また、これまでの妊娠の経緯について初診時の問診でお伺いしますので、かかりつけ医より紹介状がある場合は忘れずにお持ちください
不育症の初診外来では、産婦人科の一般診察に加えて、今後の検査計画について説明いたします。基礎体温に従って、上記の一連の検査を行います。検査項目を取捨選択せずに上記のルーチン検査を全て行う場合は、検査終了まで約2ヶ月はかかります。一通り検査が終了した後に、不育症の方針・再診外来で今後の治療計画について説明いたします。もしご夫婦に染色体異常が認められた場合は、臨床遺伝専門医による遺伝カウセリングを行います。治療方針が決定して妊娠許可が出た後に、妊娠していただきます。ご希望があれば、不育症の方は、妊娠初期の間、産科外来ではなく不育症の再診外来において、比較的間隔を狭めて妊婦健診をいたします。ただし、その間隔は、予約枠の制限からご要望通りにはいかない場合もあります。また、少なくとも妊娠20週以降は、いずれかの曜日の午前中、あるいは月曜日午後(丸山)の産科外来での通常の妊婦健診となります。
生殖医療には様々な分野がありますが、その多くの最終目的は赤ちゃんを得ることです。ただし、生殖医療の分野によって当面の目標があります。たとえば、排卵障害のために月経不順で悩んでおられる方は、まず月経周期や排卵周期を回復させることが目標になります。不妊症の方は、まず妊娠を目指すことになります。しかし、不育症にはこのような当面の目標はなく、赤ちゃんを出産して初めて目標が達成されます。不育症に対しては、妊娠前から妊娠成立までだけでなく、妊娠後のフォローから出産まで、連続性のある総合的な診療が求められる場合も少なくありません。私達は、総合的な取り組みが可能な大学病院として、より良い不育症診療を提供していきたいと考えています。
さらに詳しく知りたい方へ
Fuiku-Laboフイク-ラボ:不育症治療に関する再評価と新たなる治療法の開発に関する研究(厚生労働省研究班)
文責:
産科
最終更新日:2018年12月28日