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痙攣

けいれん

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概要

痙攣(けいれん)とは、筋肉が急激に不随意(自分の意志とは関係なく)に収縮する発作のことをいい、全身または一部の筋肉に起こります。骨格筋(四肢の筋)に発作的にみられる急激な収縮(てんかん性の痙攣、convulsion)は救急治療の対象となり、多くは意識障害を伴います。てんかん性の痙攣のほか、顔面の片側の筋や眼瞼がピクピクして痛みを伴わないスパスム(spasm)、局所の筋痙攣で痛みを伴う(いわゆるこむら返り)クランプ(cramp)も痙攣に含まれますが、それらのほとんどは救急で治療する必要はありません。また、てんかん発作のすべてが痙攣を起こすわけではなく、意識を失うが痙攣はみられない欠神発作や、精神運動発作と呼ばれるてんかんもあります。
このページでは、救急治療の対象となる大人のてんかん性の痙攣について説明します。

症状

図1

発作は、手足を強直させる強直性痙攣、ガタガタと手足の屈伸を繰り返すように動かす間代性痙攣、あるいは両者を合わせた強直間代性痙攣があり、これらをてんかん性痙攣のうち全般発作(あるいは全般てんかん)といいます。このような全身に痙攣発作が見られるてんかん性痙攣のほか、痙攣が一部の筋肉にとどまる焦点発作(あるいは部分発作、局所発作などの呼び方もある)や、痙攣が一部の筋肉にはじまり、それが全身に広がる場合(これを焦点発作の両側性痙攣性発作への進展、あるいは二次性全般化発作という)などがあります。広く用いられているてんかん発作型の国際分類を表1に、てんかん・てんかん症候群の国際分類を表2に記します。

てんかんによって痙攣が起きる理由は、なんらかの原因によって大脳の神経細胞が異常な電気的興奮を起こすために、不随意に激しく発作的な骨格筋の収縮をきたします。脳の一部に異常な電気的興奮が限局するときは意識障害は起こりませんが、異常な電気的興奮が広く両側の大脳に伝播すると意識障害をきたします。全身性の痙攣発作のあとは眠りに入ることが多く、痙攣後に精神混乱を来たしたり(発作後もうろう状態、あるいは発作後昏迷)、頭痛を訴えることはよくあります。全身性の痙攣発作の際には、尿失禁(あるいは便失禁)、口から泡を吹く、白目をむいたり、ある方向を睨むなどの症状を伴うことがあります。発作にともない手足をぶつけたり倒れたりするために、二次的に怪我をすることがあり、外傷に対して救急治療が必要になる場合も少なくありません。

てんかん性の痙攣を起こす原因(大脳の神経細胞の異常な電気的興奮を起こす原因)により、原因となる疾患が存在する症候性てんかん(あるいは続発性てんかん、二次性てんかんともいう)と、てんかんの原因となる疾患が存在しない特発性てんかん(あるいは真性てんかん、原発性てんかん、一次性てんかんともいう)に分けられます。症候性てんかんの原因には、脳腫瘍、脳血管障害(脳出血、脳梗塞クモ膜下出血動静脈奇形など)、頭部外傷による脳損傷(脳挫傷、急性硬膜下血腫、陥没骨折など)、脳の感染症(髄膜炎、脳炎、脳膿瘍など)、そのほか代謝障害(低血糖、電解質異常など)や薬物中毒などがあります。

表1. てんかん発作型の国際分類
(Epilepsia.51(4):676-685,2010の表を引用。日本語訳は日本てんかん学会から転載。)

  1. 焦点発作(ILAE 1981年分類の部分発作)
    1. 意識障害なし (ILAE 1981年分類の単純部分発作)
    2. 意識障害あり(ILAE 1981年分類の複雑部分発作)
    3. 両側性けいれん性発作(強直、間代または強直-間代要素を伴う)への進展 (ILAE 1981年分類の二次性全般化発作)
  2. 全般発作
    1. 欠神発作
    2. ミオクロニー発作、ミオクロニー脱力発作、ミオクロニー強直発作
    3. 間代性発作
    4. 強直性発作
    5. 強直,間代発作(すべての組み合わせ)
    6. 脱力発作

表2.てんかんおよびてんかん症候群の国際分類
(Epilepsia.30(4):389-399,1989の表を転載。日本語訳は日本てんかん学会ホームページから引用。)

1.局在関連性(焦点性、局所性、部分性)てんかんおよび症候群
1.1 特発性(年齢に関連性して発症する)
1.2 症候性
1.3 潜因性
2.全般てんかんおよびてんかん症候群
2.1 特発性(年齢に関連して発症する)
2.2 潜因性あるいは症候性
2.3 症候性
3.焦点性か全般性か決定できないてんかんおよび症候群
4.特殊症候群
4.1 状況関連性発作(機会発作)

  • 熱性けいれん
  • 孤発性発作,あるいは孤発のてんかん重積状態
  • アルコール、薬物、子癇,非ケトン性高グリシン血症等による急性の代謝障害や急性アルコール中毒にみられる発作

診断

痙攣の診断は、実際に痙攣の起きているときの患者さんの様子を視診(目で見て診察すること)して行います。したがって、病院受診時に痙攣が消失している場合は、痙攣の様子を見た人にその時の発作の様子を聴取して推測し、診断することになります。患者さんは意識を失って発作時の記憶のない場合がほとんどですので、痙攣発作の目撃者からの情報が診断には重要です。目撃者が来院できない場合は、救急隊員や同伴できる人に上記の症状に関連することがらを伝えるようにしてください。

大脳の神経細胞の異常な電気的興奮は、脳波の異常として捉えられますが、痙攣発作がないとき(発作間歇期という)は脳波異常がみられないこともありますので、脳波の所見を参考にしててんかん性痙攣の診断を行います。症状や経過からてんかん性痙攣の診断が明らかな場合は、救急治療に際して脳波検査の必要性は高くありません。脳波検査は、てんかん診断の参考や、抗てんかん薬の治療効果の参考に行います。

てんかん性痙攣の場合、初回発作であったり、特発性てんかんの診断がなされていない場合は、症候性てんかんを疑っててんかん性痙攣を起こす疾患に対する検査が必要になります。救急では頭部CTスキャンにて頭蓋内の疾患の有無を調べます。頭蓋内に症候性てんかんの原因疾患が認められた場合は、それに対する追加検査や治療が行われます。頭部CTにて明らかな異常がないが、症候性てんかんの原因が頭蓋内に疑われる場合は、頭部MRIなどの検査を計画することになります。救急では、脳以外の症候性てんかんの原因(代謝障害など)の検索のため、採血や心電図検査などがおこなわれます。すでに症候性てんかんの診断がなされている場合でも、その原因疾患の増悪(脳腫瘍や動静脈奇形などからの出血、脳梗塞の拡大や新たな脳血管障害の発症など)によるてんかん性痙攣の可能性があれば、頭部CTスキャンなどの検査が必要です。

発症年齢別にみると、初回発作が10~25歳までの場合は特発性てんかんが多く、25歳以上での初回発作では症候性てんかんが疑われます。

てんかん性痙攣の診断がなされていて抗てんかん薬を内服治療中の患者さんの場合は、採血にて抗てんかん薬の血中濃度検査を行います。これは、内服している抗てんかん薬が、痙攣発作を抑えるのに有効な血液中の濃度に達しているか調べるものです。ただし、全ての抗けいれん薬に対して検査できるわけではなく、休日や夜間は検査ができなかったり、検査結果が出るまでに数日以上かかることもあります。

図2

治療

てんかん性痙攣を停止させるための治療と、発作を予防するための治療に大別されます。

てんかん性痙攣が持続している場合は、まず発作を停止させるためにジアゼパム(商品名:セルシン®)の静脈内注射を行います。注射によって自発呼吸も抑制されますが、医師や人工呼吸器による補助換気を施行して、発作の停止を優先させます。薬剤投与により呼吸が抑制されている場合であれば、ジアゼパムの効果消失に伴い自発呼吸の回復がみられます。ジアゼパムの投与により全身性の痙攣発作が停止しない場合は、そのほかの抗けいれん薬の注射、さらには全身麻酔(静脈内麻酔薬の投与)を考慮することもあります。

全身性の痙攣発作が5~10分以上持続する場合、あるいは発作が反復しその間の意識の回復がない場合は痙攣重積と診断され、痙攣による二次的な脳や全身の障害に対する治療が必要になることがあるので、入院治療が原則です。特発性てんかんの診断がなされていて治療中の場合は、痙攣が直ちに停止して痙攣発作に伴う外傷もなく、患者さんの症状も特になければ、緊急に病院に搬送する必要性は低く、その日は家族が注意して観察し、その後早めに通院中の医療機関を受診すればよいと思われます。症候性てんかんとして治療されている場合は、原因疾患の増悪(たとえば脳腫瘍からの出血など)の可能性もありますので、原則として医療機関の受診をお勧めします。

発作を予防するための治療は、一般的には継続して通院し、脳波などの検査を施行しながら抗けいれん薬の内服を行います。初回のてんかん性痙攣発作の場合は、直ちに抗てんかん薬の予防的内服治療を開始すべきかは議論のあるところです。抗てんかん薬治療に抵抗性で十分な効果がみられない場合には、外科的治療の可能性を検討することもあります。

生活上の注意

てんかん性痙攣発作を誘発する因子として、睡眠不足、ストレス、発熱性疾患、抗てんかん薬吸収を妨げる胃腸疾患、反射性てんかん誘発の特異な刺激(テレビゲームの点滅する光刺激など)が知られています。規則正しい生活と、体調管理が基本となります。
乗用車・オートバイの運転、高所作業や運転に関わる職業、抗けいれん薬内服中の女性の避妊などについては、通院中の担当医に説明を受けることが必要です。

慶應義塾大学病院での取り組み

てんかん性痙攣発作の救急患者さんについては、救急科が救急初期診療を行います。診断と検査の結果、症候性てんかんに対する専門的治療が必要な場合は、脳神経外科や神経内科などの診療科が引き続き治療にあたります。てんかん性痙攣発作の重積では集中治療が必要になる場合があり、集中治療室にて救急科や麻酔科を含めた集学的治療を行っています。

さらに詳しく知りたい方へ

文責: 救急科外部リンク
最終更新日:2017年3月23日

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