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肝臓病教室:慢性病時代における医療情報の提供 -消化器内科-

はじめに

21世紀は慢性病の時代といわれます。慢性病は、急性病とは異なり、短期間に治りにくい病気です。一生抱えていくかもしれません。生活習慣が原因となることも多く、病気を抱えた上での日常生活があるため、全てを医者任せにするのではなく、患者さん自身が病気の療養に積極的に関わることが必要となります。

そのためにも、患者さんは己の敵である病気について知ることが重要です。どの様な病気であり、他の人に感染させないのか、遺伝するのか、どのように診断され、どんな治療法があるのか、治療法の決定にどう関わっていけるのか、どのようにすれば病気の進行を遅らせたり、病気に伴う苦痛を和らげることができるか、病気を抱えながらもうまく生活を送ることができるのかなど、病気に対して備えるべき知識や知恵は数限りなくあります。

慢性病に関するこのような情報を届けるためのシステムが、これからの医療では必要です。慶應義塾大学病院では、1996年より慢性肝炎や肝硬変・肝癌の患者さんを対象に、肝臓病教室を開催し、教室スタイルでの情報提供を開始しました。教室の中では、患者さんのグループワークをおこなっていますが、現在ではそれが全国に波及し始めています。

肝臓病教室の開催

慢性肝臓病は、C型・B型などの肝炎ウイルスの感染が原因となり、慢性肝炎から肝硬変、肝臓癌へとすすみ、肝不全となり死に至る病気です。1992年よりC型肝炎に対するインターフェロン治療が始まり慢性肝炎が治癒したり、肝臓癌や食道静脈瘤の治療など肝硬変に対する治療も大きな進歩をとげるなど、大きな変化がありました。しかし、これらの治療は身体的に負担の大きく、半年にもわたる長期間の治療のすえに、完治する率は約30%にすぎないなど、決して全ての人が恩恵を受けられるものではありませんでした。

インターフェロン治療を開始しようと、治療について説明をしようとしても、一日に50人から80人も診る外来では、一人にさける時間は限られます。そこで、大勢の患者さんに集まってもらい、効率よく情報を届けたいと開始したのが肝臓病教室です。

教室は、1) 慢性肝炎とその治療、2) 肝硬変の合併症とその治療、3) 肝臓病の検査について、4) 肝臓病を抱えた日常生活の注意の4つのテーマを掲げて、月に1度のペースで行ってきました。講話と質疑応答の時間をもうけ、1つのテーマについて約2時間です。

患者さんのグループワークの効用

質疑応答をしていると、たとえば病気を抱えての不安とか、治療に対する恐怖感、日常生活で困ったことなどの質問で、医療者から答えるよりも、それを体験した患者さんから答えてもらった方が、よりよい場合があることに気がつきました。そこで、患者さん同士の情報交換をも活発にしたいと、2000年頃より最後の30分間は患者さん同士で意見を交換するグループでの話し合いとしてきました。

C型肝炎やB型肝炎は肝炎ウイルスによる感染症であり、結婚や就職問題で悩む人も多いのです。HIV感染症(AIDS)では早くから精神的ケアがシステム化されてきていましたが、肝炎ではほとんどそのようなケアはされてきませんでした。慢性肝炎の患者さんは、ウイルスに感染していると知らされたときから、癌になるのではないかと将来への不安を抱えます。どのように病気が進行していくのか、肝硬変や肝癌になるとどんな生活を強いられるのか、後どれくらい生きていられるのかなどで悩まされるのです。

ところが、患者さんのグループワークに参加すると、自分たちの先輩で病気が進行している肝硬変や肝癌で何度も治療をしている患者さんが、病気を抱えていてもごく普通の日常生活を送り、その人らしく生きていることを知り、励まされます。それまで慢性肝炎になったというだけで、得体の知れない病気のイメージにおびえていた人が、病気を抱えながらもより積極的に生きることに目を向けられるようになるのです。

患者さんのグループワークは教室を開催している間にでてきた副次的な産物ですが、グループワークを採り入れることで、教室は単なる患者さんを集めて効率的に情報を提供するというだけでなく、患者さんが集まり語り合うことに意味がある場になることが解りました。

図1.質疑応答型

図1.質疑応答型

図2.グループワーク型

図2.グループワーク型

肝臓病教室の効用

もともと、医療者から必要な知識を効率的に届けたいと開始した教室ですが、教室を開催している間に多くの効用があることが解りました。

まず、患者さんにとって、1) 知っておくべき知識、知らない情報が得られる、2) 知りたい情報を自分の医療者より直接得られる、3) 医療者とのコミュニケーションができる、4) グループワークで精神的安心感が得られる、5) 病気を抱えてより積極的な生活に目が向けられるなどいくつもの効用が挙げられます。

しかし、効用は患者さん側にだけあるわけではありません。医療者にとっても、多くの効用があります。1) 集団指導で効率よく情報を提供できる、2) グループワークで患者同士の情報交換を有効に活用できる、3) 患者さんの精神的サポートにつながる、4) 患者さんの欲している知りたい情報に気付く、5) 医療者のコミュニケーション教育の場となる、6) 医療のチームワークが出現する、7)  医療者のやるきがでる、8) 地域医療との連携の場になるなど数多く挙げられます。

そして、患者さんと医療者が恊働関係を構築する場になるのです。

普段、忙しく外来をこなしている医師は、診断や治療法に関心が集中し、栄養療法などについては余り興味を持てない人が多かったのですが、肝臓病教室を開催し、患者さんからの質問を受けることにより、栄養に関心を持つ医師が増え、教室での栄養士の講話を聞きながら栄養に関する知識も増えてきました。

肝臓病教室の普及をめざして

肝臓病教室は患者さんに好評であったため、2002年に「肝臓病教室のすすめ」(メジカルレビュー社)を出版しました。出版後、読売新聞や日経新聞などマスコミにもとりあげられ、全国の病院から慶應病院での教室の見学者が相次ぎました。医師、栄養士、看護師などのチームとしてきてもらえる施設を中心に、現在までに、鹿児島から北海道まで全国150を越える医療施設より計500人以上の医療者の見学を受け入れています。2011年春の調査では、定期的に肝臓病教室を開催する医療機関が全国で164施設となりました。東京や大阪地区では、地域の肝臓病教室の研究会が開催されています。

2010年8月には、厚生労働省の肝炎対策室より依頼をうけ、肝炎対策協議会で慶應病院の肝臓病教室について講演し、2011年7月には肝炎対策の拠点病院の医師が集まる中で話をする機会をえました。2012年秋の肝臓病学会でもパネルディスカッションとして採り上げられるなど、今後肝臓病教室は全国的に普及しそうです。

今後は他の慢性病でも教室の普及を

患者さんへの集団指導として、糖尿病教室が全国の医療機関で行われていますが、糖尿病教室は、ある意味で治療を主体とする教室です。肝臓病教室は病気を抱えた上での生活を考えてもらうために情報と知恵を提供する新しいタイプの慢性病教室です。今後このような慢性病の教室は、腎臓病、慢性閉塞性肺疾患、慢性心不全、喘息、アレルギー疾患や皮膚病、各種の癌など他の疾患でも広がってほしいと考えています。

加藤 眞三 (教授)

加藤 眞三
(看護医療学部教授、医学部兼担教授)
MELIT医療情報リテラシー代表

最終更新日:2012年9月7日
記事作成日:2012年9月7日

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